第6話「マジ戦闘!」
今は森の中ではないが、この道は軽く鋪装されているだけで所々ガタガタしているために馬車の車輪もガタガタいう。
ちなみにコメスさんが乗っていた馬車の車輪はゴムではなくて木で出来ていた。
乗り心地が良いとは言えないが歩くよりも楽だ。
何より気持ちいい風が吹いていて、景色も良い。
僕らや騎士団の人達にコメスさんもノンビリした気持ちの良い雰囲気だった。
そんな中、御者席ではシャーロットが足をバタバタさせながら鼻歌を軽く歌い少し遠くの景色を眺めていた。
僕は御者席でノンビリ座っていて、アルゴンはワゴン寝ている。
「…何の歌?」
御者席に居る人達の間での会話はなく、(騎士団の人達は話しているが、とても近くに居るわけではないので馬車の上では静か)何か沈黙が流れていたので、シャーロットには申し訳ないがその事について触れた。
「…!?」
僕にきかれたシャーロットは驚いたような変な反応をする。
「もしかして…聞こえてましたか!?」
シャーロットはそう言いながら僕の方を向いた。
どうやら鼻歌は意識していたわけではなかったらしい。
てっきり静かで気まずいからだと思っていた。
静かな空間に数人で居るよりも気まずいやつじゃないかよ。
そういえばシャーロットは沈黙が続く空間とか気にしないやつだったな…。
「私の育った所の何か有名な歌…で、ですね?」
僕に疑問形で言われても…。
おそらく、その歌についてシャーロットは曖昧な感じだったのだろう。
気分が良いから無意識に聞き慣れたメロディーが出て来ちゃったやつだ。
「なんか…聞いたことがあるようなメロディーですね。」
と、シャーロットの疑問に答えるようにアルさんが話しかけてきた。
アルさん、少し離れていたあなたがあの小さな鼻歌を聴き取れてたとか化け物ですね…。
そんな事はともかく、けっこう有名な曲なのかな?
「何でしたったけ…。」
アルさんもそう悩んで、分からないようだ。
僕ら以外に近くに居たコメスさんが「分からない」と言っているので、知ってる人と知らない人が居る曲。
もしかして、2人って同郷なのか!?
いや、流石にないか…。
そんなノンビリしていたときだった。
ガタッん。
そんな感じに馬車が大きく揺れた事もあって、シャーロットの鼻歌話は終わった。
揺れた事に関してはおそらく馬車の車輪が石か何かを踏んだんだろう。
「へぁ!?」
馬車が揺れたと同時くらいに変な声を出してアルゴンが目を開けた。
流石のアルゴンも今の衝撃で起きたようだ。
というか、今ので起きなかったら軽くホラーだよな…。
「アルゴンさん、寝ないで下さいね。 モンスターが出ました。」
そう言ったアルさんの顔には少し冷や汗が見えた。
この時僕にはまだモンスターだなんて見えてはいなかったので、何がなんだかよく分からない…。
モンスターだと言われた後、僕にシャーロットにアルゴンは戦闘はする気はないが一様馬車を降りた。
やっている雰囲気を出すためである。
正直僕には何が居るのかよく分からないが、騎士団の人達の様子から僕にも少し恐怖が走っていた。
ソレは少しづつ、だんだんとこちらに近付いてくる。
「…なんだ!?」
と、全くビビる素振りもないのはアルゴン。
この場面でここまでくると、おそらく完全に他人事のようにしてしまっているのだろう。
「ミノタウロスですよ…。」
と、アルゴンとは真反対で絶句のシャーロット。
僕がソレを認識したのは、シャーロットが反応してから4秒ほど後になってから。
ソレは、170センチ位の人が3人分ほどの大きなミノタウロスだった。
アニメでよく見た二足歩行で立っている牛のような、それに右手には大きな斧をもっている。
ミノタウロスだと確認した騎士団の人達もかなり驚いている感じだ。
が、シャーロットの様に絶望した顔は見せていない事は頼もしい。
僕が思うに、アルゴンは絶望した顔ではないくて冷静っぽい、何が起こっているか分からない顔だろうが…なんだろうなぁ…。
なんだか、アニメだとこういうスカした感じのヤツが一目散に敵に突っ込んで行く気がする…。
「お前ら〜、落ち着け。」
僕の心配とは裏腹に、まさかのそのアルゴンが皆にそう声をかけた。
どちらかとシャーロットにだけど…。
「アルゴンさん、流石です。 約剣さんもいらっしゃりますしね。」
と、アルゴンの冷静さを褒めるアルさん。
あんまアルゴンを調子乗せないで下さい…調子に乗ったらミノタウロスに突っ込んで行く気がする…。
それに、僕に期待されてもねぇ…。
「約剣さん、私達がやります。」
アニメだと普通は勇者に丸投げするであろう状況だ。
だが今回はアルさん達騎士団の人達が戦ってくれる…のは嬉しいはずなのだが、何故かやっぱり「勇者としては戦うべきなのだろう!」という謎の自信的な何かが湧いてくる。
湧いてきはするのだが…その時の僕は、良くも悪くもビビって足が動かなかった。
「相手はこちらに気が付いています、基本は右から攻めて下さい。 後ろから弓の援護もお願いします。 そして、4人ほどはコメスさんとその馬車を守って下さい。」
ビビって立っている僕を横目に、アルさんは慣れた様に騎士団の人達に指示を出し始める。
アルさんに指示された通り、近くにいた4人は馬車を囲む様にして周囲を警戒している様子。
「了解です!」
騎士の1人がそう言ってミノタウロスの方に盾を構えながら近付いていく。
騎士団の人達の顔には、アルさんが指示を初めに出した頃から驚きが完全に消えている。
キン!!
次に僕はアルさんに指示されて右側から攻めようとしている人達を見ていたが、そんな音が鳴るとミノタウロスの方に目線を戻した。
その音はミノタウロスが後方から飛んできた矢を、持っていた大きな斧で防いだ音。
「ザンネン!」
僕らの後方から援護の矢を放った女性の騎士はそう残念がる。
少し笑っていて余裕が感じられた。
「集中して下さい。」
と、笑っていた女性をアルさんが注意する。
そして視点をまたミノタウロスに戻すと、次は俺の番だと言わんばかりに、ミノタウロスが斧を大きく振りかぶっていた。
ブン!
殺意のこもった斧の音がミノタウロスから生まれた。
スカッ。
だが、振り下ろされた斧は誰にも当たらない。
騎士団の人は盾で防ぐのかとも思ったが、凄い身のこなしで斧を避けたからだ。
ミノタウロスが斧をまた振り上げようとしてできた隙に、騎士の1人がミノタウロスの腕に剣を突き刺した。
だがミノタウロスは何の反応もなくそのまままた斧を振りかぶる。
ブン!
スカッ。
もちろんまた、ミノタウロスの攻撃は誰にも当たらなかった。
「何かこの個体、硬いぞ!?」
剣をミノタウロスに突き刺した人が大きな声で驚きながら皆に報告する。
「大丈夫ですよ。」
そう言って少し驚き取り乱していた騎士の人を落ち着かせたのはやっぱりアルさん。
あれ…ああ言って騎士の人を落ち着かせたアルさんの姿がどこにも見えない。
どこに行ったのだろうか…。
そもそも、ミノタウロスが見えてアルさんが指示を出したところまではアルさんの姿が確認できていたが…弓以降はアルさんの姿を見ていないな。
僕がアルさんの居場所について考えていた次の瞬間、今まで完全に姿がなかったアルさんが急にミノタウロスの前現れて攻撃を仕掛けたのだ。
もしかして、ミノタウロスから自分の姿が見えないように立ち回って居たのかも。
ミノタウロス以外の僕にも見えなかったけど…。
アルさんは、右手に持っていた短剣でミノタウロスの左足を攻撃する。
すると、ミノタウロスがバランスを崩しながらもアルさんに攻撃しようと今度は横に斧を振った。
その攻撃をアルさんは簡単に避け、右と左の短剣をクロスさせる様にしてミノタウロスの首を攻撃。
―バターン―
アルさんの攻撃はしっかりとヒットしたようで、音を上げてミノタウロスが地面に倒れた。
「流石ですね、隊長。」
ミノタウロスが完全に動かなくなったと分かった後では、そう言いながら騎士団の人達がアルさんの所に集まっていく。
「いえいえ、皆さんがミノタウロスの注意を引いてくれたおかげです。」
アルさんはそう謙虚すぎる事を言って、騎士団の皆を褒めた。
ミノタウロスを発見してから5分も掛からずにアルさん達は倒したのだ、とてもスムーズに。
アルさんの動きや指示は騎士団の隊長さんだとしか言えない。
そして、他の騎士団の人達も流石は国を守っている人達だと思わせる動きだった。
なんだかんだそんなに強いモンスターとは戦っていなかったしで騎士団の実力を知らなかったが、その実力を見たら僕はこう思ってしまった。
「僕とか言う勇者、要らなくね…。」と。
「コメスさんに約剣さん方は怪我とか大丈夫でした?」
アルさんがミノタウロスの死体に少し何かやった後、アルさんはこちらに来てそうきいてくれた。
「えぇ、騎士団の方々のおかげさまで無事でございますよ。」
コメスさんはそう答える。
「あのミノタウロス…何かデカくなかったですか?」
シャーロットは怪我がないかの答えたよりも先にそう言った。
僕はこの世界で見る初めてのミノタウロスだったから分からないが、そうなのか?
多分だが…戦いに参加しなかった言い訳じゃん?
「確かにそうでしたね…。」
僕はシャーロットの発言に対して考えていると、アルさんがそれに同意したのだった。
「鳩をお願いします。」
少し考えた後、アルさんは騎士団の1人にそう言った。
すると、そう言われた人はどっかから鳩を出してアルさんには1枚の紙とペンを渡した。
少ししてアルさんは何か書いた紙を騎士の1人に渡すと、彼は鳩の足にその紙を巻かせた。
コレは…アレだ、伝書鳩という物だろう。
「王国に。」
アルさんが鳩にそう言った次の瞬間には、その鳩は空に飛び上がって僕らが旅してきた道を戻るかのように飛んで行った。
「あんなに大きなミノタウロスは少し可怪しいので調査をしたいですが…今はタウン到着を優先します。」
と、鳩が見えなくなったくらいにアルさん。
別に僕としてはミノタウロスを優先してもらっても良いんだけど…。
そんな事よりもだ。
問題なのは、勇者の僕はアレよりも強い敵を倒せないといけないという事。
魔法が当たれば何でも灼き尽くしたり出来るのでは?
…いや、まだゴブリンと狼しか倒したことはないからなんとも言えない。
あんなにデカいミノタウロスよりも強いやつ…ドラゴンか…。
無理だよなぁ…何とかして強くならないと…。
「では出発しましょう。」
皆の怪我等を確認し終わると、アルさんが出発の合図を出して馬車が動き出した。
馬車はさっきと同じ速度でノンビリ動いているが、さっきと同じ様にピクニック気分で居られるかと言うと普通にノーだ。
良く考えて見れば、この世界でマジ戦闘を見たのは初めての事。
ドラゴンが出た時は戦いにはならない程、命の取り合いにならない程に僕らとドラゴンとの間にレベル差があると感じ取れた。
それ以外の戦闘はゴブリンだけで、楽勝だった。
これまでにこの世界に…別の世界に来てしまったと思ったりはしてきたが、これ程別の世界に来たという事を感じさせられた事はなかった。
僕はこんな化け物が居る世界で旅をしていかないと行けないのか…。
色々な感情がそこにはあった。
もうミノタウロスの事件があってから何時間か経っち流石に気持ちも落ち着いた。
冷静に成って考えたが、ラファルク王国内ではそうそうあんなに強いモンスターは出ないはずだという、いつもの現実逃避で終わった。
それに基本的には騎士団の人達が付いて来てくれるんだから安心!
「夜ご飯にしますか?」
皆で黙々と歩いていた時に、アルさんがそう言った。
僕はとしてはまだ歩いても良い。
あんなモンスターが居ない安全なタウンに着いてゆっくり休みたいし、何よりまだ太陽はそんなに低くない。
多分まだ3時くらいだろう。
だが、
「戦闘もありましたし、今日は休憩しましょう。」
アルさんも言った通りあんな戦闘があった後で疲弊しているのは事実。
ということで、今日はここで休憩ということになった。
補足です。
途中で馬車がガタンと揺れてからモンスターが現れています。
関係あるように思うかもしれませんがたまたまで、馬車が揺れた事とモンスターが現れたことは、まぐれで同じ時に起こっただけです。
分かりづらくてすみませんでした。




