第4話「フラグ一級建築士。」
―翌日の午後12時間半頃―
出発30分前になり、ラクトさんの家の前には僕ら(勇者パーティーと騎士団)以外に、見送りに来てくれた村人達が20人ほど集まっていた。
僕はこんな大人数に見送られるのか。と、せっかくの休みは寝坊し過ぎで何もしなく終わったちゃった…。と言う理由から憂鬱を感じて立っている。
そして今、絶対出発ギリギリまで来ないと信頼していたアルゴンがまさかのこの時間に来てしまった。
「アルゴンさんも来ましたし、皆さん集まりましたので少し早いですが出発しましょう。約剣さん…。」
「…。」
アルさんに背中を押され、僕は集団の(勇者パーティーと騎士団の)前に1人一歩前へ出された。
「勇者様、頑張って下さいね。」
「お家を貸せた事、一生の自慢です!」
そう僕に声をかけながら手を振ってくれている見送り人達。が、まだ騎士団は歩き出さない状況。
これはまたスモールシティでの出発時同様のヤツを待っている感じなのだろう。
「…村での対応、大儀であった。よし、出発だ!行くぞ…」
僕は手を突き上げ、村の出口方面へ騎士団の人達より先に3、4歩先陣を切って歩きだした。
「「ウォ〜!!!」」
「「頑張って下さい!」」
「「世界をお願いしま〜す。」」
スモールシティ時もだったが、これは恥ずかし過ぎる。羞恥心で変な顔をしていそうだ。
絶対に顔は誰にも見せられない。なので僕はさっきよりテンションの上がった村人達の声援を一生懸命背中で受けさらに先行して数十歩歩いて行った。
騎士団の人達も僕から少し遅れ出発してくれた。
「道はこのまま真っ直ぐです。 ですが、ここからは獣の多い森となっているので約剣さんは直ぐに魔法を直ぐに使える準備をお願いします。」
僕の顔を見てアルさんがそう話す。
僕は「道を」という単語で悪い事が頭の中をよぎったが、なんてことはなかった。
獣の多い森らしいが…騎士団の方々が居るので大丈夫だろう。
それに、(おそらく周りに気を付けながら進むので)ペースが少し落ちるのなら獣が多いくらいはなんともない。
アルさんの言う魔法を直ぐに使える準備ね…。
僕は普通にその場で言葉(詠唱)を言って使う事しか知らないんだけどなぁ。
まぁ、普通に戦闘は騎士団に任せていいだろう。
僕はこの時にそういう事に決めたのだ。
「ちなみに、この森にはどんな種類のモンスターが居るのですか?」
「…詳しくは分かっていません…。」
シャーロットは少しビビった顔で質問にしたが、アルさんの答えは申し訳無さそうにそう言っただけだった。
人々の希望の勇者に、どんなモンスターが居るか分からない森を通らせるのか…。
何かあったらどうすんだよ…いや、何か起きないための騎士団だったな。
「分かってはいないんですか?」
「…はい、この森にはどんな種類のモンスターが居るか分かっていません。 近くの住人達は不安がって近よりません。 なにより世界の政情が不安定な今、騎士団はこういう森の探索に時間を割くことが出来ず…。」
「すみませんね。」と言いたげなアルさん。
…誰も別に責めてるわけじゃないけどね。
それと、やっぱり僕はこんな森を通りたくない!
「俺、別にこんな良く分かんない森を通りたくないんだけど…。」
本当に嫌そうな顔をしながらそう言ったのはもちろんアルゴン。
もちろんアルゴンとは言ったが、実際はシャーロットもメチャクチャ嫌そうな顔をしていた。
「別の道にしない?」
と、少し間が空いてからまたアルゴン。
「それでも良いですけど…。 別の道に今から戻るとなると、タウンへの到着が2日程遅くなりなすけどよろしいですか?」
安全を取るか時短を取るか…。
難しい質問だが僕的には時短を取りたい。
何故なら、どうせ戦闘は騎士団に任せるという勇者にあるまじき行動をすることに決めたのだから!
時間がかかるのはアルゴンも嫌だと言いそう。
「いや、別に…」
とアルゴンだ。
「別に」ってまさか良いってこと?
アルゴン…君は時短優先だと信じてたのに…。
僕は2日も伸びる道を行くだけの体力ないんだけど!?
僕がアルゴンが良いと言うかもと、どうしようかと考えようとしていた時「ぶちゅっ」と、どちらかと言うと「ぶにゅっ」とシャーロットがアルゴンの口を掴んだ。
「アルゴンさん、わがままを言わないで下さい。」
睨んだ顔でシャーロットがアルゴンに言った後に
「…どうしますか?」
少し遠目からそれを見ていたアルさんがきいた。
「このままの道でお願いします。」
そうシャーロットが言った後にアルさんは一応僕の方に目線を合わせる。
騎士団の人達も居るしそれに速くタウンに着きたいので否定する理由はなく、コクっと首を縦に振った。
シャーロットはスモールシティを出発する時に、「騎士団の人達が居るなら…。」的な事を言っていたし、僕と同じで戦闘はどうにかなると考えていたのだろう。
逆にアルゴンが嫌そうな顔をしたのは謎だけど。
「基本的に出て来たモンスターはこちらで対応する予定ですが…数が多かったり想定よりも強かったりした場合には約剣さん、お願いします。」
アルさんの話についてだ、基本的に戦闘で騎士団の人達が対応してくれるのには文句はない。
だが…数が多かったりは多少しょうがないとして、その想定よりも強いってヤツ。
騎士団の人達でも倒せなそうなヤツを僕が倒せるはずがないんですけど…。
なんなら僕は騎士団の人達の強さも知らないし。
僕ははっきり言って雑魚だよ!?
…まぁ、そんなに強い敵は出てこないか。
騎士団も居ることだし大丈夫だ。
気楽に行こう!
「うひゃ~、グスン…。 助けて〜!」
シャーロットの少し泣きかけた声がこの場に響いた。
状況を説明すると、シャーロットが狼のようなモンスター1匹に追われいる。
ザシっ。
シャーロットの声から直ぐにモンスターを剣で切った音が響く。
モンスターが倒れて少ししてから
「アルさん、ありがとうございました…。」
追っかけられていたモンスターをアルさんに倒して貰って少し経ち、落ち着いたシャーロットがそう言った。
「シャーロットさん、大丈夫ですか?」
剣に付いた血を草で簡単に拭き取りながらアルさん。
「はい…大丈夫です。」
今回シャーロットがモンスターに襲われたのは、シャーロットがオトリになってモンスター討伐をしていたからではない。
「すみませんが、この列の真ん中あたりを歩いてもらえますか?」
アルさんがそう言う。
シャーロットがモンスターに追われていた理由、それは戦闘が全く出来ないくせに先頭を歩いていたからだった。
つまり、さっきのは完全にシャーロットの不注意なのだ。
「はい…申し訳ありませんでした。」
そう言うと、反省したような顔でシャーロットは列の真ん中に入る。
「フフ。」
その一連を見ていたアルゴンがシャーロットの事を鼻で笑った。
ギロっ。
「何ですか?」
アルゴンに笑われた事に気が付いたシャーロットがアルゴンの事を睨む。
だが何故か今日はそれに臆することもなく、
「怒られてるw…。」
と、シャーロットがアルさんに注意された事を少し挑発した感じにアルゴンがまた笑った。
シャーロットはアルゴンを睨んではいるが、図星なので何も言えない感じだ。
「別に、怒ってはいませんよ。」
とシャーロットをフォローして2人の対立を終わらせるためにアルさんが言った。
「そうですよ! 怒られてません!」
アルさんのフォローを聞いてシャーロットは強く反応してアルゴンに反論。
だが、アルゴンはもうその事に付いてはどうでもいいみたいでもう話は聞いていない。
「…負けた感じがする…。」
悔しそうな表情のシャーロットが小さな声でそう言った。
もちろん、アルゴンは聞いていない。
アルゴンに図星を言われると僕もイラッとするので、シャーロットの肩に軽く手を置きドンマイという顔でシャーロットを見た。
ただシャーロットは良く分からなかったらしく
「何ですか?」
と言っている。
まぁ、深い意味はないんだが…。
騎士団の人達と旅をし始めてからも結構こんな会話的な事があったりで、なんだかんだワイワイ楽しく旅をしていた。
少し遅くなったが、今回はそんな日常回的な物である。
「うひゃ~、グスン…。 お願いしま〜す!」
またシャーロットの声。
だがさっきと違って泣き目ではあるが、なんとかなるという気楽さがある。
ザシっ。
またモンスターを剣で切った音。
そしてモンスターが倒されて少し経ってから
「大丈夫ですか…?」
アルさんがシャーロットにきいた。
「グスン…はい…。」
なんとなく状況は分かると思う。
そう、列の真ん中に移動したのにシャーロットはまたモンスターの標的にされて追いかけられてしまったのだ。
「何で…私なのですか?」
シャーロットが文句げに、納得のいかない顔でそう言うと、
「弱いからだろ。」
アルゴンが一言そうに答えた。
シャーロットを煽るために言ったのかもしれないが…アルゴン、お前もそんなに強くないだろ。
ライオン達は狩りをする時に大人の強い動物ではなく子供の弱い方を狙う。
おそらくだが、この世界のモンスターもそういう事なのだろう。
シャーロットよりも力がない僕がまだ襲われていない事を考えると、肉体的な強さではなく何かあるのかもしれないが…。
まぁ、自慢じゃないがパワーはこの集団の中で1番弱い自信がある!
アルゴンよりも弱いとは言いたくはないが…おそらく弱い。
そんな事よりも、シャーロットも流石に気を付けるはずなのでもうモンスターがシャーロットを狙う事はないだろう。
―10分後―
「うひゃ〜…。」
またシャーロットの叫び声。
ザシっ。
またアルさんがモンスターを剣で切る音。
まだシャーロットは「うひゃ~…。」としか言っていないのに…とても速いな。
今回もまたシャーロットが襲われた。
3度目である。
もうシャーロットは運が悪いのだろうとしか言いようがない。
さっきまで先頭を歩いていたアルさんがシャーロットの近くに下がって居てくれたにも関わらず、モンスターはシャーロットの方に来た。
けっこう可哀想だ。
…そう言えばさっき「もうモンスターがシャーロットを狙う事はないだろう。」と、心の中でフラグを立ててしまっていたな…。
もしかしたらそういう事なのかもしれない。
この世界がアニメだったなら、完全に僕が悪かっただろうしな。
まぁ、アニメではないし…僕は関係ないはず!
僕は悪くない…僕は悪くない…。
というか3回目になると、シャーロットがそういう(モンスターに襲われる)特性的な何かを持っているのではないかという思考になってきていた。
「…プッ。」
アルゴンがさっきと同様、シャーロットを見てそう笑った。
バシっ。
シャーロットがアルゴンを軽く叩く。
「まだ何も言ってないじゃん。 理不尽。」
アルゴンはそう軽く怒っている口調で文句を言っている。
それに対してシャーロットは結構怒ってはいるけど…。
3回目は流石に笑ってしまうし…シャーロットの気持ちも何だかんだ分かるが、シャーロット以外の事で笑ったのかもしれない。
流石に理不尽だろうそう僕は思っていたのだが、
「まぁ、シャーロットの事だけど。」
と、アルゴンがシャーロットの事を笑った事を認めたのだ。
ジロっ。
そうシャーロットがアルゴンを睨む。
アルゴン君は流石に少しイジりすぎたのだよ。
シャーロットのお説教という名の文句を言う時間が始まるわけだ。
ドンマイアルゴン。
「そろそろこの森を抜けますよ。」
シャーロットが最後に襲われてかおそらくらく1時間くらい経った頃、アルさんが言った。
流石に4回目はなかった。
フラグは立ててなかったし!
フラグと言えば…そう言えば初めに「まぁ、そんなに強い敵は出てこないだろう…。」とフラグを立ててしまったが、特に何もなくて良かった。
シャーロットの3度のモンスター襲撃といい、僕が完全に悪くなってしまうところだったからな。
そんな時、
ダダダダダ。
ドタドタ。
そんな何かの集団が走って来る様な音が聞こえている様に感じた。
幻聴?
「バタバタ?」
アルゴンも聞こえていたらしく、皆に疑問形で効果音を口にした。
幻聴じゃなかったみたいだ、幻聴が聞こえていたとしたら僕はヤバいヤツになるところだった。
良かった…。
良かった?
この音が幻聴なんかじゃなくて、モンスターとかだとしたら全く良くねーって!
「皆さん、丸くなって下さい。」
と、ここでアルさんからの指示が入る。
「何か来ます。」
さっき何もないとフラグを立ててしまった…。
やっぱりフラグって怖い物だな。
とにかく戦闘だ。
この時正体不明な足音に皆に緊張が走っていた。
「見えた。 …ゴブリンですね…。」
緊張は走ったが、ゴブリンだと分かった瞬間に皆の緊張が解ける。
ゴブリンだと騎士団でもこんな対応に成るのか。
マジの雑魚なのか、ゴブリン…。
やっぱり日本のアニメでゴブリンの凶悪さを少し知っているとなんか…がっかりする。
ゴブリンに倒されちゃう勇者はダサすぎるから、そんな事は絶対に起きなくてまぁ良いんだけどさ…。
問題は…音を聞いた通り、凄い数が多い事。
「約剣さん、あの数を相手にするとゴブリンとは言え時間が掛かるので魔法で一気に倒してくれませんか?」
アルさんは騎士団の人と一瞬だけ話し合い、その結果僕に来た…。
まぁこれはしょうがないしな。
フウ〜。
僕は騎士団の前に出て立ち、空気を吸い込んで叫び魔法を放つ。
「あぁ、この俺に任せれば何も問題はない! 炎よ、俺に力を貸したまえ、ファイヤーボール!!」
僕は右手を前に出しての厨二病ポーズをとって、声量はかなり大きかった。
正直かなり恥ずかしいのだが、こういうのは大きな声でポーズもちゃんと取ったほうが痛くない(物理的ではなくて精神的な意味で)。
ボワッ。
ファイヤーボールはそんな音を出して、まず最初に先頭に居たゴブリンに当たった。
そしてその次はその後ろのゴブリンに当たり、次々にそんな感じでゴブリン達は燃えて倒れた。
「うぉ〜!!」
ゴブリンが全員倒れたのを見た騎士団の人が叫ぶ声。
「流石勇者様ですね。」
アルさんそう言ってが僕のことを褒めてくれた。
人から褒められると陰キャの僕はテンションが少し上がる。
それを考えると、厨二病セリフを大きな声で皆に聞こえるように言ったのは正解だったな。
…いや、良く考えたらこの中に魔法を(僕以外で)使える人は居ない訳だし、大きな声を出す必要もなかったのでは?
魔法について分からないんだから詠唱が小さくても分からないだろうから…。
さっきもかなり恥ずかしかったが、少し経って冷静に成って魔法を使った時を思い返すとさっきの非ではないくらい恥ずかしい…。
僕はその後堂々と出来なく(恥ずかしさで)騎士団の人達の声に
「あ、ありがとう…。」
と言ったり、少し縮こまった返事をしていた。
その一連の僕の行動?反応にシャーロットとアルゴンは少し離れた場所でこちらを見ている。
「恥ずかしいならあんなに大きな声で叫ばなければ良かったんですけどね…。」
と、笑った声でアルゴンに言うシャーロット。
アルゴンもこれに同意して2人で笑ってる。
お前ら、ふざけんなよ…。
まぁ僕もやらかしたとは思うけど…いや、あの2人に笑われるのは嫌だな。
「流石にもうこの森を抜けます。」
また少し経つと、アルさんが皆にそう言った。
流石にやっとこのモンスターが多いらしい森を抜けるらしい。
モンスターが多いとは感じなかったな。
強いモンスターも居なかったし…結構メチャクチャな情報だった。
時間がないって言ったって、一回くらいは詳しく調査してよ…。
「もう少しで夕方ですし、この森を抜けたらテントを張って今日はもう休みましょうか。」
アルさんからその言葉があり僕らはもう少し歩く事になった。
そしてアルさんが話してから10分も経ったないくらい経つ。
「抜けましたね。 では、後少し歩いてこの森から少し離れた場所にテントを張りましょう。」
少し拓いた場所に着くと、アルさんが立ち止まってそう言った。
今回は全く出会わなかったが、強いモンスターが居るかも知れない森から離れるのは理解できる。
だが僕的には、もう少しではなく後何分と言って欲しい。
時計は持っていないのでそんなに時間を詳しくは分らないけど…。
この世界の人のもう少しって…少しじゃないじゃん…。
「では、ここにテントを張りましょう。」
この場に着いて少しするとアルさんが指示を出した。
さっきの大したモンスターが出て来なかった森で必要以上に警戒してしまったからかアルさんの言葉を聞くと、どっと疲れが来た気がする。
テントを張り終わると、いつも通り普通に騎士団の人達が作ってくれたご飯を食べて寝たのだった。
―朝―
「おはようございます。」
今日はそう言ってアルさんが起こしに来てくれた。
今日はシャーロットではないということは…もしかしてまだ起きてない!?
なので僕はシャーロットを起こしに行こうかと少し思ったが…よくよく考えたら「女性の寝床に行くのは…」となりやめて素直にテント外に出た。
「あ、約剣さん、おはようございます。」
テント外に出て1番に僕に挨拶をしてくれたのはシャーロット。
テントを張っていない場所(皆が集合する場所)に行くと普通に居たのだった。
そしてそのシャーロットはアルゴンの後を歩いている。
つまり…どうやらアルゴンを起こしに行ったという事だろう。
あくびをしているしアルゴンは眠そう。
毎回思うが、こんなに朝起きるのは早くなくて良いと思う!
そう思いながら周りを見回すと、僕とアルゴン以外はそんなに眠そうではない…。
僕がおかしいのか…皆さん元気だね。
「では皆さん集まりましたね。 出発しましょう。」
僕が起きて少しすると、アルさんの号令で今日もまた歩き出した。
―1時間後―
多分50分くらいは歩いただろうという時。
目の前に完全ではないが、獣道ではなく舗装されたような道が見えた。
道路はコンクでもレンガの様でもないが…土は固められていて断然あるきやすそうだ。
普通に神かよ…。
書きなおす元気がないので、出来ている所までぱぱっと出しちゃいます。




