第13話「勘違いされちゃった…。」
―ズシーン―
死を覚悟して待っていたのだが、少し経ち何もないのか?と考え始めた頃に急にそんな大きな音が鳴り響いたために僕は目を開けた。
目に写ったのは石像のように動かなくなった大きなドラゴンの胴体とそれから離れてしまっている顔だった。
要は、ドラゴンは死んでいたのだ。
「凄いな…。」
これは現実なのかと周りの反応を見渡すと、ウィリムさんは絶句顔で冷汗をかいていた。
「何だったの?」
エラさんは特に何も分かっていないながらも驚き続けている。
「何だったのでしょうか…?」
シャーロットはエラさんよりもさらに状況が理解できてなさそうな顔である。
「…。」
アルゴンに至っては…全く理解できていないのか脳が追いついていないのか、何故か無言で真顔だ。
「…ギリギリで誰かが助けてくれたのかな?」
もう理解は出来ない。
僕はとにかく適当に理由を付けておくことにし、記念撮影とはいかないがこの状況を目に焼き付けていた。
何て言ったって、空想上の生物のはずだったドラゴンが目の前で動かないからだ。
「そこに居るのは冒険者様たち! 何がありましたか〜? 今、凄い音が…。」
5人で少しの間そこに突っ立って居ると、僕が初めて来た村で「久しぶりですね。」と言えてしまう人。
何故か強者感のある身長低めで白髪のお爺さんが僕らの所へやって来たのである。
そう、僕が初めて居た村の村長さんがだ。
「な、何であんたが…?」
「な、何じゃこの大きなドラゴンは…って貴方様は勇者様!? そして、死んでいるドラゴン…。 つまり、貴方様がこのドラゴンを倒したのですね! 流石です、勇気様なら納得だ。」
この村の人達を後ろに連れていたこのお爺さん、謎にそう僕がドラゴンを倒したと勘違い。
納得なんかしないでほしい。僕が1番この状況に納得出来ていないのだ。
「何で貴方が…?」
目を開けたらドラゴン死亡→そして急に強者感お爺さん登場!→勘違い…。
全く状況が理解できないので、僕はとりあえずもう一度お爺さんに質問をした。
「友達に会いに来たんですよ。 そんなことより…皆、この話しているお方がこの大きなドラゴンを討伐してくれた方だ!!」
ビックリ仰天中で固まってしまっている村人達の前で、お爺さんは大声で僕の事を崇め始めやがったのだ。
つまり、お爺さんは勝手に状況を考えたあげく、暴走しだしたのである。
「いや、全然そういうわけじゃ…。」
変な勘違いをこんな大勢にされては困る。
僕はこの顛末について説明しようと口を話し出したときだった。
「話されたという事はこのお方が!?」
「うお〜! スッゲ〜。」
「こんなに巨大なの倒せるんだ!?」
「伝説かよ…。」
僕が話してしまった事でお爺さんの差した人物が僕だと確信を持った村人達は僕を讃え始めてしまった。
お爺さんの説明を何故か簡単に信じた村人達がそう言って僕を称え始めてる。
何でお爺さんの言う事をいとも簡単に信じたかは置いておいて、こんな悪ノリはいらない。
「え…あ…いや…。」
こんな大勢に一気に見られ讃えられ始め、話しかけられ始め、胴上げもされかけて…。
そんな状況に固まる僕を横目にお爺さんは僕と一緒に居たメンバー(パーティーメンバー)に話しかけだした。
「この勇者様が倒したんですよね!? 流石ですよね?」
まず初めに話しかけられたのはアルゴンだ。
初めにアルゴンは勝っただろう。
アルゴンは空気を読まないので、この空気感で「いいえ」と断ってくれる事はずだったが…
「へ…あぁ、そうだ! この方だぞ〜!」
謎にここで空気を読んだのか、はたまたこのお爺さんの圧力に負けたのか…。
アルゴンはノリノリでお爺さんに乗っかりやがったのだ。
このドラゴン事件を近くで見ていた当事者が「Yes」と答えた事で、村人達やお爺さんのテンションはさらに上がる。
「す、凄えよ。」
「もう、伝説だ…。」
「勇気様〜!! ウヲ〜〜!」
テンションが上がりすぎて叫び号泣するのも出てくる始末…。
アルゴンは無理だったが、シャーロット!
『ヘルプミー!』
…シャーロットは村人たちに囲まれ、何か話されて戸惑い始めた。
駄目っぽいのだった。
まだしっかり者のウィリムさん、エラさんが居た。
僕は完全に目線をそっちに向けて心の中で叫んだ。
『絶対に助けて!!』
がら最後の望みの2人は何故かグッて親指を立ててこっちを可哀想な顔で見てきている。
どういう感情の顔なのだろうか…。
どちらかと言えば可哀想だと思っているような顔なのだから、助けて欲しかった。
本当にウィリムさんとエラさんは何していたのだろうか…。
本当にマジで。
―――――
そこからの展開は一息つく間もない程にすっごく早く進んでいった。
まず、あの村長さん。
彼はかなり凄い偉い人だったらしく、国王様とも知り合いの仲だったのである。
次に、この人が事の経緯を国王様に大袈裟に知らせたことで国王様からすごい量のお金が僕の所へ舞い込んで来た。
そこまではまだ良かった。
問題はその後、何故だか国王様認定の勇者だとかなんとかになってしまったのだ。
スモールシティは魔王城から遠かった事もあり、ほとんど魔王の被害はなかった。
が、他の街や国はかなり違ったらしく、それらの街、国に住んでいる人達は僕の事をドラゴンを倒した伝説の勇者と祭り上げ始めたと教えられた。
つまり、勝手に国の希望にされてしまったらしい。
そして、魔王討伐をマジでしてもらうと言う事を国王様から命を受けさせられてしまった。
シャーロットに聞いたが、国王様の言う事を断ったら即刻死刑。
そんなこんなで魔王討伐に本当に行くことになってしまった。
シャーロットとアルゴンだけならノラリクラリ出来ただろうが、国王様が助けだとかなんとかで国の騎士団を派遣して来たために僕は勇者から逃げられず…。
「もう、諦めたぁ〜! 絶望だ、絶望…。」
―8日後―
魔王討伐に向けて正式に勇者と発表されてから1週間。
ドラゴン事件があってから8日。
今日、僕はノンビリでき、けっこう心地良かったスモールシティを出発する。
「お金、沢山貰えましたね。」
絶望顔で突っ立っている僕の隣でメチャクチャ笑顔で可愛く笑っているのはシャーロット。
「…。」
右隣には無言で無表情のアルゴン。
「さぁさぁ時間も押していますし、そろそろ出発ですね。 このスモールシティから次の街、タウンまではこの王国騎士団5番隊の我々がお供します。 よろしくお願いします。」
僕から一歩後ろに下がった位置は鎧甲冑を着た男の子が何かを僕に言ってきていた。
何も考えたくないし、聞きたくもない。
が、マジのマジで出発の時間なのだ。
「(小声で)魔王討伐とか危険なことは嫌だしアニメの無双劇じゃないし…ふざけんなよ! もっとこの安全なスモールシティに居たいんだけど。 僕が厨二病キャラで普通の高校生よりは勇者っぽいのは分かるよ…でも別に冒険したいわけじゃないんだよ! …ゴニョゴニョ。」
あの少女(多分女神)のバカ野郎ー!
そんな調子に文句を吐きまくっていて顔を下げていた僕に、少年は覗き込んできた。
「勇者様…お〜い!」
「な、何だ?」
『誰なんだこいつは? 王国騎士団とか言われても年齢的に…何なんだこいつは?。』
「出発するんですよ、何か挨拶を。」
僕が上を向いたのを確認した少年はそんな事を言っていたのである。
僕の言葉に需要はあるのだろうか…。黙秘を決め込みたい。
だが今、僕らが居るのはスモールシティの門の前。
周りには僕を見送ろうと集まる人が約500人以上。
それに僕に話している少年以外の王国騎士団5番隊の鎧甲冑を着た人達が15人。
特に騎士団の人達は僕の事をメチャクチャ見つめてきており、僕はメチャクチャに注目を受けていた。
「さぁ勇者様、早く!」
正念がさらに僕を急かした事によって、さらに大勢からの目線は強くなった。
陰キャの僕がこんな大勢に注目された事はない。
耐えられないし、まだかまだかと言う空気感が辛い。
「お、おう。 …俺は勇者の約剣! 世界を救ってくるぜ!」
空気感、目線、プレッシャー。
全てに焦りに焦った僕は厨二病ポーズを取り、厨二病セリフ挨拶を終えて目線を落とした。
こんな大勢の前で厨二病を演ったのは初めて。
汗がダクダク。おそらく体温もいつもより2、3度高かった。
歩き出す訳なのだが、もう僕は顔を上げたくない。
穴があったら入りたい状況。
「「ウォ〜!!」」
「「勇気様〜!」」
恥ずかしがって盛り上がるに盛り上がれない僕とは反対に、周りの人達は僕の言葉を聞くなり、すっごく盛り上がってしまった。
『別に異世界に来たかったわけじゃないんだけど、せっかくこんな世界に来たんだからスローライフを…ダラダラ冒険を…せめて無双劇を…。』
とにかくこの状況の中、言える事は「今の状況は全く望んでないの!!」という1つだった。
情緒が不安定な僕は今度は色々な不安が大きくなった。
『これって、こんな格好いい風な厨二病キャラじゃなくて臆病なのバレたら殺されるんじゃ…。』
もう本当に厨二病キャラクターを押し通さなければならないところまで来てしまっていた。
英語で言うなら「have to」でなく「must」まで来てしまっているのだ。
「「勇気様〜いってらっしゃいませ〜!!」」
「「世界を頼みました〜!」」
見送り人が僕らに大きな声をかけてきた。
「おう!」
引けなくなった僕は泣くのを我慢し、ガッツポーズと共に声を上げてスモールシティの門を通過し外に一歩を踏み出した。
スモールシティの人に見送られて勇者ことコミュ症で陰キャ。少し臆病の僕こと、約剣が今、本当に魔王退治に旅立ったのだった。