第12話「急なドラゴン退治」
―アレから少し歩いた後―
「急だけど、少し休まないこと?」
実感的におそらく30分くらい経った頃だろう。
息が切れていたり、汗を大量に掻いていたりはなさそうだったエラさんがそう言って急に休み始めたのである。
「疲れましたか? もう少しで着くらしいので行っちゃいません?」
皆の了承を取らずにエラさんが岩に座って休み始めてしまった事でシャーロットは全否定で喧嘩腰。
この場の空気は悪くなってしまった。
「少し礼儀がアレだと思ったのかもしれないけど…。(小声) 喧嘩腰は!」
「私は大丈夫なのだけど…アルゴンさんはかなりクタクタに見えるわよ。」
洞窟到着前にパーティー内で何か起こってしまう。それだけは阻止しようとした所だった。
僕とシャーロットは話を聞いてエラさんに指さされた方向を見た。
「…何か、後ろをゆっくり歩いてたんだな…。」
「…はい。 完全にバテテ…。 あの人、剣士なんですよね…?」
アルゴンは僕らが止まってから20秒ほど後にこの場にゆっくりと到着。
そしてブツブツ文句を言いながら上半身は力が抜けたよう(前かがみな感じ)になって歩いて来ていた。
「…本当に申し訳ありませんでした。 休憩お願いします。」
「いえいえ、私は大丈夫よ。」
緊張感が走っていた空間は一瞬にしてアルゴンに持って行かれ、この場には軽い笑いと呆れがら残った。
「その…別にそんなに言うつもりはないけど、彼は本当に冒険者なのかい?」
岩に座り僕に風を頼んだアルゴンを見たウィリムさんは堂々と、アルゴンの前で僕ら(僕とシャーロット)に軽く笑いながら聞いてきた。
正直、何とも言えないクエスチョンである。
基本アルゴンは戦わずに指示だけ出してるので、たぶん冒険者らしい事はシャーロットよりもやっていない。
でも、剣士を名乗ってるわけで最低限の体力はあると思っていたのだが…。
「はい、まぁ、おそらくは…。」
かなり自身がなさそうな回答のシャーロットである。
『シャーロット、確かにあのアルゴンが冒険者なのかは疑わしいけど…パーティーメンバーなんだから「おそらくは」って…。 アルゴンって何なんだろう?』
「疲れた〜。 お前ら、体力凄いな。」
「「…。」」
シャーロットと僕はアルゴンのその言葉を聞くなり2人して固まってしまった。
ちなみに、ウィリアムさんとエラさんは僕らのこの様子を見て笑っていた。
「…いやいや、お前がショボいんだよ!?」
「へ!?」
この時の僕には、アルゴンがこのパーティーに入る前は何をやっていたかと言うのがこの世界随一の不思議だった。
―10分後―
「休憩したので、そろそろ行こうか。」
ウィリムさんはそう言って立ち上がり、歩き始めた。
僕らもウィリムさんにつられて立ち上がり歩き始めたわけだったが…
「もういいよ、帰ろう!」
アルゴンは割と大きな声で弱音を吐きながら立ち上がるのを拒否した。
「はいはい、とりあえず洞窟に行ってみましょうね。 何もなかったら直ぐに帰れますよ〜。」
立ち上がらないと駄々をこねるアルゴンにシャーロットはお母さんのごとく口調で話しかけ、立ち上がらせた。
アルゴンが子供だと思ってしまった事は絶対に秘密である。
「いや、何か嫌な予感がするんだよ。」
渋々、なんだかんだ立ち上がったアルゴンはいつもの雰囲気とは違った。
怒っているわけではなく文句を言うわけでもなく珍しく真剣そうな顔で不安を口にしたのである。
「? まぁ、普通に大丈夫よ。」
そんな事を言って歩き出さないアルゴンを最終的にはエラさんがなだめた事でアルゴンはやっと歩き出しここは収まった。
『アルゴンって、弱音は吐いても嫌な予感なんて聞いたことはなかったな…。』
そして僕はアルゴンの様子に疑問を抱きつつも、この時は特段気にすることはなかったのだ。
「静かに! もう直ぐで洞窟だ。」
ウィリムさんのその1言でパーティーの皆の気が引き締り集中した様に感じられた。
エラさんはウィリムさんと目を合わせ、シャーロットは戦えないくせに握りこぶしを作ったりしている…。
「あ〜眠い…。 フワァー。」
皆集中モードなど知らずの流石のアルゴンだ。
一瞬にして集中は途切れアルゴンに皆の注目に目線は寄せられた。
「アルゴンさん…。」
「雰囲気ブレイカーアルゴン…。(ボソボソ)」
この状況のアルゴンに僕とシャーロットからはいつも通りの呆れた冷たい視線。
毎度毎度送られ続けてまた出来ると言う事については関心さえも与えられるレベルだ。
「ハハハ、確かに硬すぎる空気だったね。」
ウィリムさんはアルゴンの欠伸が素ではなく場を和ませるアクションだと思ったようである。
『残念ながら、アルゴンの通常運転なのです…。』
「…約剣、直ぐに魔法を使えるよう準備を。 アルゴンは僕の直ぐ後に、剣を構えて。 エラ」
「分かっているわ。」
今のダラけた空気感をウィリムさんがまた緊張感の漂う集中した空気に戻してくれた。
ウィリムさんが仕切って、エラさんは言わなくても分かるという格好いい連携。
こちらは(他の3人は)戦えないシャーロットにマイペースアルゴン、一応勇者の僕。正直、ウィリムさんエラさんで足りてしまう様な編成である…。
どうでも良いことは置いておいて、指示を出し終えたウィリムさんはついに背中に背負っていた重そうな盾を手に持った。
「あの〜、私はどうすれば…?」
名前を呼ばれなかったシャーロットはいつもオトリ役の恐怖からか、かなり不安そうな顔をしながら恐る恐るウィルムさんに話をかけている。
「あ〜シャーロットさんは…まぁ周りに何かあったら直ぐ知らせれるように!」
「な、何ですかそれ…。」
忘れられていたかのような対応にシャーロットはご立腹な様子。
だがそのシャーロットは戦えないので戦力には数えられないのでしょうがない対応だ。
それどころか、正直ウィリムさんは良くオブラートに包んでいる。アルゴンならバッサリ「邪魔」と言う所だっただろう。
ギャー!!!
洞窟付近に到着すると同時刻くらいに大きな叫び声、いや、そんな物では表現できない様な野生目を受けた鳴き声がここらに響き渡っていた。
「ファンタジー世界に…まさかの飛行機?」
鳴き声の正体は戦うと思うと想像もしたくない生物なのだろう。
が、ジェット機バリの騒音を出していたこの鳴き声の正体には逃避も込めて、希望も込めて飛行機を指名したい。
「ドラゴンですね…ハハァ、、。」
意識を失い気を失う一歩手前の状態になりながら情緒が壊れたであろうシャーロットは笑い、目はぶっ飛んでいる。
僕はまだ音の正体から逃げて(逃避して)いたかったし、それだと分かるが(この世界の人から)確信ごとを言ってほしくなかった。
そろそろ現実に向き合う時間である。
そう、その恐怖の鳴き声は炎を連想させる真っ赤な体。ジェット機と張り合える大きさの翼。大きな牙の1匹のドラゴンから出されていたのだった。
どんなに頑張っても、どんなにポジティブに考えようとも僕らでは倒せないと見ただけでわかってしまうほどの存在感のドラゴンが洞窟の目の前に鎮座していたのだ。
絶対にコレにだけは触れてはいけない。
本能的に皆理解し、一歩一歩後ろに静かに下がって歩いていく。
声は振るえ出そうにも出せず、下手にポーズも取れない静かすぎる状況にだった。
ポキ
その場には冒険物のアニメでよく聞覚えがあるあの音が僕らの近くでなった。
小さいながらも(物語で)大きな役割をする、あの木の枝を踏むあの音が。
ギュヤーー!!
皆ドラゴンにバレてしまった事に気付きながらも、反射的に音の鳴った場所を一斉に見つめた。
「ごめん…。」
「アルゴン!!」
「アルゴンさん!?」
折れた木の枝を踏んづけていたのはこの現状を理解し、逃避した様なアルゴンだった。
そのアルゴンは許しを請うように笑いながら謝ってきている。テヘペロっみたいな舐めた笑顔だ。
『ふざけてやがるな…。』
僕はアルゴンに対する感情で現実逃避思考から現実的な思考に頭が戻り、皆と一斉にとにかく走り出した。
ドスドスドス。
見逃してもらえるわけもなく、そんな大きな威圧的な恐怖の音を立てながらドラゴンは追いかけて来る。
「これ、もう直ぐ村じゃないですか?」
どれくらい走ったのだろうか。
恐怖なのか何なのかとにかくメチャクチャ走った後、シャーロットが叫んだ。
「…よし、倒すぞ!」
「…ウィリムさん、マジすか!?」
ウィルムさんは急にクルッと方向転換をすると盾を構えドラゴンの方向を向いた。
「あの顔はマジよ。」
ウィリムさんの声を聞いたエラさんもまさかのクルッと方向転換。
2人を残す事は出来ず無茶だと知りながらも他の皆もその場に立ち止まってドラゴンの方を向いてしまった。
「約剣さん、どこまで行くんですか!?」
「僕は後方支援なんだよ!」
皆はその場で止まったが魔法使い、後方支援の僕はドラゴンとの距離がある程度出るまで止まれない。
逃げたい訳ではなく、距離感があるのである。
「おい! 約剣、何かお前の方行くぞ。」
僕以外の皆は止まった。ドラゴン近くには立ち止まった4人。
にも関わらず何故かドラゴンは全力疾走中の僕に向かって来る。
『オカシイだろ…後方を狙うのは反則じゃん。』
魔法を撃つタメはない。タンクや剣士には目をもくれず魔法使いに来る。
そんな状況、僕は死を覚悟し(逃避ではなく)完全に頭の中は真っ白で目も閉じたのだった。
序章はこれで終わりになります。