⭕ 川の中からパンパカパ~~~ン♥
むかし、むか~~し、のお話です。
ある所に “ サンドラ ” という名前の青年が居ました。
サンドラは友人達とラジオを聴いて楽しんでいました。
ラジオを自宅から持って来たのはサンドラでしたが、ラジオの持ち主はサンドラではなく、サンドラの伯父でした。
伯父が用事で出掛けている事に「 しめた! 」と思ったサンドラは、伯父が大事にしているアンティーク物のラジオを無断で持ち出したのです。
伯父の所有物である大事なラジオを如何にも自分のラジオのように友人達へ見せびらかしては自慢をしていたサンドラでしたが、サンドラ達の元へ “ ベキサン ” が取り巻きを従えて歩いて来ました。
サンドラが持参したラジオはベキサンに奪われてしまいました。
然し、サンドラはラジオを奪われたまま帰る訳にはいきません。
何故ならば、ラジオはサンドラの私物ではなく伯父の所有物だからです。
ラジオを無傷で持ち帰らないとサンドラは伯父から半殺しされてしまいます。
何が何でも、どんな犠牲を払ってでもサンドラはベキサンから奪われたラジオを取り返さなければなりません!!
サンドラは勇気を出してベキサンに挑みました。
ラジオを返してもらう為に頑張りましたが、乱暴者のベキサンはサンドラの目の前でラジオを地面へ叩き付けて壊すと、近くの川へ投げ捨ててしまいました。
ベキサンは取り巻き達と一緒に、絶望的な表情をしたまま立ち尽くしているサンドラを嘲笑い、去って行きました。
暫く放心状態だったサンドラでしたが、急いで川へ降りるとベキサンに壊されたラジオを見付ける為に川へ入りました。
何度も何度も川へ潜っては壊れたラジオを探しますが見当たりません。
サンドラは泣きながら探し続け、とうとう日が暮れて来ました。
川の中が見えなくなって来た事もあり、サンドラは伯父のラジオを諦めるしかなくなりました。
サンドラ
「 あぁ゛あ゛~~~~、どうしたら良いんだよぉ!!
帰ったら伯父さんに殺されるぅ~~~~!!
帰れない……帰れないよ…… 」
泣く泣く川から上がったサンドラは川へ潜り過ぎて疲れたのか、力尽きてしまい川から離れた場所に蹲ってしまいました。
無断で持ち出したラジオを持ち帰らずに帰宅すれば、伯父から半殺しにされると思うと両足がガクガク震えて動きません。
サンドラの両足は尋常ではない震え方をしていました。
途方に暮れて落ち込んでいたサンドラの耳に「 ゴポゴポゴポ…… 」という音が聞こえて来ました。
サンドラ
「 何の音だろう??
川から聞こえて来る?? 」
日が暮れかかっているにも関わらず、川の1ヶ所が淡く光っています。
サンドラは不思議そうに川を見詰めています。
まるで外灯の光に群がる蛾のように、サンドラは無意識に淡く光っている川へ近付いていました。
サンドラが熱心に見詰めている淡く光る水面から誰かが出て来たではありませんか!!
サンドラ
「 だ……誰だっ!? 」
?
「 オハっす!
ボクはラジオの精だよ~~ 」
サンドラ
「 ………………………………は?? 」
自称ラジオの精
「 『 は?? 』っじゃねぇだろ~~!
ラジオの精が現れたんだ・ぞ★
もっと驚いてほしいなぁ~~。
反応が薄いよ~~ 」
サンドラ
「 …………夢を見てるのか??
これは……夢だな。
川に潜り過ぎた所為で疲れて川原で寝ちゃったんだな…… 」
自称ラジオの精
「 夢じゃねぇから!!
現実だから!!
ボクはラジオに封じ込められていた妖精なんだよ~~ 」
サンドラ
「 妖精??
………………嘘っぽいんだけど? 」
自称ラジオの精
「 嘘じゃねぇから!!
本当だから!
ボクをラジオから出してくれた君に御礼をしたいと思ってね! 」
サンドラ
「 御礼?? 」
自称ラジオの精
「 うん!
君が川へ潜って探していたのは──、この “ 金のラジオ ” かな?
それとも~~~ “ 銀のラジオ ” かな? 」
サンドラ
「 ………………悪趣味なラジオなんか要らないよ。
伯父さんの大事なラジオを元通り戻して返してほしいんだけど… 」
自称ラジオの精
「 あぁ~~と、そういう願いは叶えられないよ~~。
ボクは精霊じゃないからね。
じゃあ──、小汚なくて壊れかけているボロっちいラジオかな~~? 」
サンドラ
「 違うよ!
そんなラジオを持ち帰って伯父さんに渡したら、ガチで首の骨を折られちゃうよ!!
オレは未だ死にたくないよ…… 」
自称ラジオの精
「 はぁ~~~~。
あぁ~~はいはい。
君は正直者だね~~、良い子,良い子…… 」
サンドラ
「 何かムカつくんだが…… 」
自称ラジオの精
「 正直者の君には、これを贈呈するよ。
有り難く受け取りたまえ! 」
自称ラジオの精がサンドラの前に出したのは、小さなツヅラでした。
サンドラ
「 はぁ?!
何でツヅラ??
伯父さんのラジオじゃないのかよ!!
おい、コラ、妖精ぇ~~~~!!!!
伯父さんのラジオじゃないと意味ないんだよ!!
明日の朝にはオレ……庭の木に逆さ吊りにされて伯父さん専用のサンドバッグだよ!! 」
自称ラジオの精
「 大丈夫だよ。
そのツヅラを伯父さんに渡せば、君は助かるよ。
ただぁ~~し、約束してほしい。
帰宅して家の中へ入ってから伯父さんに渡すんだ。
家の中へ入る前に伯父さんへ渡しては駄目だよ。
帰宅する道中にツヅラを開けても駄目だ。
この約束をきちんと守りさえ出来れば、君は命拾いするよ。
どうだい?
約束を守れるかな?? 」
サンドラ
「 ………………帰宅する迄はツヅラを開けず、家の中へ入ってから伯父さんへ渡せば良いんだな?
それを守ればオレは平和な明日を迎えられるんだな? 」
自称ラジオの精
「 そうだよ。
約束を忘れないで──、サンドラ 」
サンドラは真っ暗な川原に突っ立っていました。
川に潜ってびしょ濡れだった筈の衣服,靴,髪,全身が嘘のように乾いていました。
サンドラは両手に小さなツヅラを持っていました。
サンドラ
「 …………何だったんだろう??
──っていうか、このツヅラは何だろう??
………………何か…………何か……大事な事を忘れているような気がする…… 」
何を忘れているのか思い出せないサンドラは、取り敢えずツヅラを持ったまま自宅へ向かって歩き出しました。
両手に持っていた謎の小さなツヅラをサンドラがどうしたのかは、また別のお話で★