◆ 2・決断 ◆
ギルが叫んだ瞬間、シャノンやウォルターの物とは違う重く低い銃音が響いた。
血を吐くかつての友を呆然と見つめる。
すぐにギルに群がろうとするハラカラに銃を撃つ。どんな相手だろうと、モドリモノにされるのを見たくはなかった。
同時に扉が閉まり、世界はまたも蛍光塗料と豆球のみの明かりとなる。
「ギルっ」
血を流し、彼はよろけながら立ち上がる。その腕には噛み千切られた痕があった。
「ぎ……る……っ」
転化がどれくらいの時間でなるものなのかはまだ習っていない。ウォルターを見ると、彼は首を振る。
「ギル……っ」
「うるさい……、俺は、……お前は仇の、弟だ。殺すんだ。それが俺の、使命」
ギルは血を流しながら、震える銃口をフランに向ける。
一発、二発と弾を打ち出す銃身はぶれていて、フランの周囲で風音を響かせるだけだった。
ギルの足にはハラカラが群がっていた。ふくらはぎの肉が噛み砕かれ、狂乱の叫びを上げながら、ギルは一歩踏み出す。
今ほど、姉にいて欲しいことは無かった。情けないが、どうすればいいのか分からないのだ。
「アイヴィー・アイブスを、苦しめ、ために……俺は、おれは……、俺の、兄貴を……っ!」
その肩にハラカラが噛み付き、繊維を引き千切る。
歩けている事が信じられなかった。脅威の精神力だった。
「ギル、よせ……っ。足が……っ」
「ハラカラに、なったって……っ、構わないっ。俺が、お前を……!」
ギルの手が何度も引き金を引き、やがて弾が出なくなり軽い音だけを繰り返す。フランの腕を掴み、ギルの拳が頬を打つ。
視界の端で、ウォルターがシャノンの腕を掴んでいた。
「坊主っ、そやつはもうダメじゃ。助からんっ」
ギルの拳が更に振り上げられて、フランは彼を突き飛ばした。簡単に地面に倒れたギルの上にハラカラが群がる。
どうすれば……っ。
ギルの体はあちこち噛み千切られていた。尚も立ち上がろうとする彼の姿に、フランはふらりと近寄っていた。
悲鳴を上げるギルの額に銃を当てる。
このまま苦しませるわけにはいかない。フランにもモドリモノの手が伸び、腕に爪がめり込む。
ギルが、……ギルのせいで、ノーマンもブラッドも死んだんだ。これは報い、のはずだっ。これはあるべき姿なはずなんだ……っ、なのに、どうして俺は……!
それでもギルの様を自業自得だの因果応報だのと見捨てられない。
引き金を引いた。
軽い衝撃と共にギルが倒れる。
「……ギル……」
涙が溢れてくる。
死んだというのに、噛み付こうとしているモドリモノに向かってフランは銃を撃ち続けた。その顔の中にブラッドを見つけても、フランの手は止まらなかった。弾が出なくなるまで、ひたすら撃ち続けて、その手にシャノンの手が被って、やっと止まる。
「俺は、もうダメだ……、掴まれた……、俺も、転化する」
「坊主は大丈夫じゃ。お前さんは一度死んで戻ってきたんじゃろ? その証拠に膝はもう治っておるしな」
「……どういう意味だよっ。じゃあ、まだギルは助かるのかっ? 俺みたいに戻れるのかっ」
「そっちの坊主はダメじゃ……先に噛まれてしもうた」
「……なんだよ、なんだよソレ!」
怒鳴り、銃を近寄る化物に投げつける。
涙で視界がボヤける。
何も考えられなかった。
傍のモドリモノたちをシャノンとウォルターが銃撃しているのさえ遠く感じられた。
どれくらいそうしていたのか、脱力して座り込んでいたフランは、その足音を捉えていた。自然と視線は上に向かい、逆光だというのに、なぜだかそこに現れた人影が姉である事をフランは分かっていた。
「姉さん……遅いんだよっ、全然わかんねぇーよ! あんたの全部がわかんねぇーっ」
声をあげるフランの前にリフトは降りてくる。
「さっさと乗りな」
「ふざけんなっ、乗るかよ! ここには仲間がいるんだよっ。ブラッドもノーマンも、ギルも……っ」
姉の拳がフランを殴り飛ばしていた。壁に激突し、フランは姉を睨みつける。
「あんた、ギルの兄貴を殺したのかっ? どーなんだよっっ。なんでだよっ。俺を囮に使って、メイドにスパイさせて、妹もっ、もう何も信じられない! あんた、何がホントなんだよっ」
怒鳴るフランに、アイヴィーは胸倉を掴みリフトに引き摺っていく。その強さに、悔しいが逆らうだけの力がフランにはない。
「待って、アイヴィーさんっ、フランは怪我をしてるのっ!」
「人殺しっ」
叫ぶフランに、そこで姉は真正面から視線を合わせた。
「ああ、そうだぜ。お前はあたいをなんだと思ってたんだ? あたいはそれなりに人殺しだし、ついでに言やぁ殺した奴を一々覚えちゃいねぇ。今はお前のガキみてぇに泣き喚いてる時間すら惜しいんだよ、こっちは」
手を放し、寄って来たモドリモノの首を切り落とす。まるで桃でも切り分けるように、するりと首と胴が離れていた。
呆然と見つめる中で、姉はリフトを操作する。
「あたいの部下がお前らを一人残らず連れ出すために命張ってんだ。ユージェは死に掛けてた。お前の思いたいように思ってな。文句があんなら、拳で止めてみろ。できねぇなら黙って従え」
黙りこんだフランは部屋から引き出される。そこには血だらけのジョザイアが立っていた。
「ジョザイア、下のモノをもっと上に連れて来い。室内飼いなんてお上品な事させてんじゃねぇー、放し飼いにしてやりな」
「りょーかい、ボス」
アイヴィーはエントランスに向かって進む。フランはそこかしこに落ちた人間だったモノを見て、目を背ける。ある者は腹を裂かれ、首を転がされ、酷い惨状だった。
それらを作ったのが、姉たちだと分かる事が余計にフランの気を重くしていた。
「そこまでよ、アイヴィーちゃん」
ネイトだとすぐに分かった。
エントランスに出たアイヴィーは立ち止まる。シャンデリアの元、優雅さの象徴のように広い玄関ホールでネイトは金髪美女の喉にナイフを当てて立っていた。
「き、教官っ?」
「全く、ギル坊やったら役立たずちゃんね。殺意は届かなきゃ意味がないのにーぃ。さて、武器を捨ててちょーだい、軍曹さん」
なぜ教官がここにいるのかよりも、人質になってしまっている現状の方が重要だった。
アイヴィーはチラリとネイトを見て、鼻で笑う。ノエル・ランサムは何も言わなかった。
「はぁ? 人質ってのはなんだよ?」
「えーぇ? 人質は人質よ」
「いや、意味分かんねぇ。そいつ軍属だろ。ってこたぁ、あたいと同じでいつどこで死のうが納得済みってヤツだ」
「ね、姉さんっ?」
とんでもない事を言い出した姉に流石にフランは声を上げる。
まさか、教官を見捨てるのかよっ?
「それに、あたいの部下じゃねぇしな」
アイヴィーは腰のベルトに差した銃を抜き放ち、構える。ネイトと教官が目を見開く。アイヴィーは躊躇いもなく引き金を引いていた。
彼女の撃った銃弾はノエルの肩に穴を開け、ネイトの胸を抉る。
倒れるネイトに釣られて、教官も倒れる。駆け寄ろうとするフランの首に彼女の腕が掛かり、強い力で抑え込まれた。
「姉さん、なんで教官を!」
「いつまでそうしてるつもりだよ、ランサム。てめぇがイーズデイルの部下ってのは調べがついてんだよ」
身を起こした教官が血を流す肩を押さえ、立ち上がる。
「本当に野獣だな……人質ごと撃つとは、思わなかった」
「イーズデイル家出資の孤児院出で、葬祭部勤務記録がありゃ、奴の手下である事はすぐに分かるこった。あたいにとっちゃ敵勢力だ、助けてやる義理はねぇーな」
「な、に? どーゆー事だよ……」
話しについていけずフランは姉と教官の顔を交互に見る。
ノエルが醜悪な笑みを浮かべた。
「ヘッドリーの雌犬めっ、ここから生きて出られるとでも思っているのかっ。この化物を前にして、生き延びることは不可能だっ。精々お前の主人を想いながら死ね!」
考えてみれば、いくつものピースが散らばっていたのだ。
教官は……。
ウォルターの捕まっている場所の偽情報は彼女から貰ったものだ。
教官は敵なんだな……。
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