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国土保全機関葬祭部門は掃除が得意  作者: ムツキ
第四章・失望の夜
20/29

◆ 1・暴かれた秘密 ◆


「……あたしは」


 迷うように何度も目を彷徨わせて、シャノンは立ち上がると頭を下げた。


「あたしは、あなたの娘『シャノン・クィン』を殺すよう指示されていた者ですっ。ごめんなさい!」


 唐突すぎる告白。フランの方が呆然とし、次に慌て、老人に目をやった。しかしウォルターは穏やかな顔をしていた。


「……あんたが殺したのかい?」

「……殺す事も、逃がす事も……できなくて、一人で逃げたんだけど……、結局、シャノンさんがどうなったかをあたしは見てない、けど、でも……」

「死んだ、娘は死んださ」


 言葉に詰まるシャノン。


「もう娘はおらん。それに孫もな……あの子がどこの誰とも知れぬ男の子を身篭った時も辛かったが、まさか先立たれるとは思ってもみんかったよ」

「……あたし、……あたしは、あなたの娘じゃないけどっ。あなたを守って見せるから、一緒に逃げましょっ。このままココにいるなんて、言いなりになるなんて!」


 老人はただ首を振った。


「……娘さん、あんたを恨んじゃいない。ワシは、何もしなかっただけで罰を受けろ、などとは言えん人生を送ってきたんじゃ。ワシよりも二人で逃げられるなら逃げなされ……ワシはもう、娘も死んで、何もない。求められるままに残りの人生をすご……っ!」


 腹が立って、フランは老人の胸倉を掴んでいた。


「傍観者は嫌いだっ! 俺の母上は傍観者だった。いつも思ってた。なんで何も言わないんだって! 怒るなり、止めるなり、泣くなり、喚いたって良いのにっ」



 逆らって騒ぎになるのが怖いから黙ってるのか、単純に相手が怖いのか……分からないけどっ。



「争ったって自分を殺して生きる方がクソだ! クソッタレだ!」

「……子供の理屈じゃよ」


 老人の達観したようなセリフに腹が立った。


「黙ってる方が楽なのは、子供にだって分かる! でも黙って、殺して、流されてっ、そんなのが大人になる方法なら、俺はずっと子供でいいっ」

「……フラン」



 俺も、本当は逃げたんだっ。家族と言い合うのが怖くて、……家出って形で、ソコから逃げたんだっ。

 でも……っ!



「爺さんが、嫌がってもダメだっ。あんたが済し崩し的にココにいるだけなら一緒に逃げる。絶対だっ。だって、そのために俺は、俺たちは囮にまでなったし、とにかく姉さんもあんたの方が大事なんだ。だから……それに、シャノンだって、いや、ミアだって、あんたを助けられなかったら、傷になるんだ……っ」


 言いながらもフランは自分が何を言いたいのか分からなくなっていた。

 ユージェニーが強い事。姉がフランを囮に使った事。ギルが敵だった事。助けに来たはずのウォルターが逃げようとしていない事。


「フラン、ありがと……。ウォルターさん、あたしからもお願いしますっ。何もないからこのままで良いなんて可笑しい。家族がいないから、ってのが原因なら、あたしがなりますっ。だから一緒に逃げてください!」

「……なんとまぁ……自分勝手な」


 それでも老人は笑っていた。


「一緒に逃げてくださいっ……ウォルターさん」

「わかった……わかったよ。逃げられるものなら、逃げよう……一緒に」


 老人は降参するように両手をあげた。

 三人の考えが纏まってそれから腹が空腹を訴えてきた頃、一つしかない扉のノブが回り二人の人物が入ってきた。


「ギル……」


 入ってきた大小の人物の片方はギル・パーカー。もう一人は筋骨隆々たる青年で、姉のように体のラインが出るボディースーツを着ていた。割れた顎に灰色の巻き毛を肩で結んでいる。


「ね、ネイトっ」


 シャノンが驚きの声を上げる。その顔は驚愕に染まっている。


「シャノン? 知り合いか?」

「……教官、だよ。あたしの……」

「えっ」

「どうも。自己紹介の必要がなくなっちゃったわね。お久しぶりねぇ、落ちこぼれのミアちゃん。一緒に捕まえられて、アタシ達もラッキーだったわよ」

「フラン、ダメだよ……動いちゃダメ……」


 シャノンはフランの腕を掴むと、絶対離さないとばかりに後ろに引っ張った。


「フフフ、教育は行き届いてるみたいね。アタシは、ウォルターのお守よ。逃げようなんてしちゃダーメ。アタシがいる限り、ココは通さないわよ」


 シャノンの震えが腕を通してフランにも伝わる。



 この変態、ヤバいのか……っ。



 聞かなければいけない事を脳内にリストアップして、一番目にある物を弾き出した。


「なんで、俺たちを監禁したんだ? 目撃者はすぐ殺すって聞いてたけど」

「あらぁー、自殺志願者かしら。アタシ的にはぁ、今すぐ死んでもらっても構わないんだけども……」

「言っただろ。お前はアイヴィー・アイブスの人質だ」


 硬質の声を発するギル。明朗快活という言葉が良く似合っていたかつての友人はコニーばりの無表情でフランを見ていた。

 ギル・パーカーとは年が同じで、フランは短い期間だったが友人になれたと思っていた。姉の仕打ちを見ながらも、恐れる事なく普通に会話をしてくれる数少ない人物だったのだ。


「ギル、何でだよ……」


 色んな『何で』を含ませるフランに、ギルは一つしか答えなかった。


「お前の姉アイヴィー・アイブスは仇だ」

「……かたき?」

「俺の兄グレン・パーカーはアイヴィー・アイブスに殺されたんだよ」

「は? ……嘘だ。姉さんは軍人だぞっ」


 いくら何でも突拍子がなさすぎた。姉は軍人で、それも葬祭部門の掃除屋なのだ。戦う相手はモドリモノでしかない。人間を相手にする事はないと聞いていた。


「本当の話しだ。アイブスは俺の兄貴を引き裂いてモドリモノにした。お袋はショックがデカ過ぎて入院したまんまだ。治る見込みなんかねぇ。親父はそのせいで借金塗れで倒産。わかるか? クソ坊ちゃんのフランシス・オブ・オルコック。お前の幼稚な家出話を聞いて俺がどんな気分だったかっ! お前の姉は兄貴をただ殺したんじゃねぇ! お前の姉は兄貴を殺す事でうちの家族全員を引き裂いてっ……、グチャグチャに壊したんだよっ」


 彼の目は憤怒と憎悪に塗れている。フランは呆然とその激昂を聞いていた。


「姉さんが……そんな、嘘だ……」


「お前が養成所にいて、俺は感動したよ。嬉しかった。あの女の大事なモノが自分から俺の前に供物として現れるなんてさ、すげぇ確率だろ? 俺は自分の幸運に喜んだよ。なんせ、アイヴィー・アイブスは強い。強すぎるからな、まともに殺そうったって殺せねぇっ。あの女をとことん苦しめられるのはお前のお陰だ、フラン。友達になった甲斐があるってもんだ!」


 言われている内容を受け止めるには、大きすぎた。

 フランは足元が崩れていくのを感じる。


「ギル、お前……最初から、俺をハメるつもりだったのか……!」

「お前、まさか偶々行き合わせたとでも思ってんのか? なわけねぇーだろ!」


 ギルが外出を勧めた事、手紙を渡して欲しいと自宅に向かわせる道中での襲撃事件、その全てが仕組まれていた事だとしたら――。


「だったら、ギル、気付いたよな? あいつら、ブラッドが、聞いてた仲間が、あの同室の誰かも明楼亭に向かうかもって、あの襲撃事件の目撃者に俺以外もなって、消される対象になるかもって!」

「ああ、勿論さ。だからなんだってんだ。アイヴィー・アイブスの目の前でお前がモドリモノになれば、それが最高の復讐だ! そのためなら小さな犠牲だったさ!」


 あまりの言葉に叫ぶ。


「ギル、お前っ、ブラッドたちとは友達だったんじゃないのかよ!」

「だからお前はお坊ちゃんなんだよ! お前は絶望を知らねぇからそんな甘えた事が言えるんだよ!」


 友達だったはずだ。友情はあったはずだと思っていたのは自分だけだったのだと気付いて、フランは震えていた。

 姉がギルの兄を殺した真偽の程はわからないが、ギルの気持ちに嘘はない事は分かる。


「だったら、お前の手で俺を殺せばよかったんだっ。お前は臆病な卑怯者だな! いくら姉さんが強いからって、チャンスなら、……人をっ、ブラッドたちをっ、巻き添えにしなくったっていくらでもあっただろ!」

「フラン……!」


 シャノンの悲鳴と銃音は、ほぼ同時――フランは膝をついた。


「坊主っ」


 撃ち抜かれた膝が燃えるように痛かった。ギルは銃口を下ろす。

 駆け寄ったシャノンがスカートの裾を裂き、フランの足に巻きつけて縛り上げる。呻くフランにギルは尚も言い募る。


「お前を殺すのは、アイヴィー・アイブスの前でだ。あいつに地獄を見せてやる。なぁ、フラン。俺は兄貴が死んでから、あの女を調べ続けたんだぜ? お前よりお前の姉の事を知ってるかもな? 哀れなもんだ。フラン、お前はあの女に馬鹿にされてんだよ」

「どう、いう、意味だよっ」


 痛みに意識が朦朧とする。


「俺のターゲットは最初お前じゃなかったんだぜ? 養成所でお前を見るまでな。お前知ってたか? アイツに妹がいる事を」



 誰の? 妹だって?



 何も言わずともギルには全てが伝わっていた。


「知らなかったんだろ? お前、あの女に思ったより大事にされてねぇーよ。妹を狙おうと思ってたんだけどな、さすがにガチガチに護衛が付いててな。おまけに異常に強いメイドが四六時中一緒にいたんだぜ? とても手が出せなかったんだよ」


 メイドがユージェニーを指す事はフランにもわかった。

 姉に妹がいる――その事実がフランを驚愕させていた。

 父親が自分の父親と同じなのか違うのか、なぜ教えてくれなかったのか、アイヴィーへの不信感が胸の中で増幅されていく。



 俺は、所詮異母で……嫌われてたのか? だから教えてくれなかった?

 親父達と同じ存在に見えてたのかもな、姉さんには……。だから、大事な事は何も言わなかったし、平気で囮にもできたのか……。

 俺は、姉さんに必要とされてなかった?



 フランは立ち上がる全ての気力を失っていた。

 ギルが馬鹿な奴だと言って部屋を出て行っても、いつまでも動く事ができなかった。



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