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国土保全機関葬祭部門は掃除が得意  作者: ムツキ
第三章・ミツギの汚業
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◆ 2・救出作戦始動 ◆


 翌日フランは、ノエル・ランサムがいる宿舎にいた。

 当然コニーも同行している。部屋の前にコニーを待たせ、簡素なベッドと机がある他は何もない板張りの部屋に足を踏み入れる。

 朝早くからやってきた教え子に、教官は表面上は嫌な顔をしなかった。


「お前の義兄の言うとおり、帰投命令が出た」


 自分の知らない所で振るわれた権力を想像し、モゴモゴと言葉を紡ぐ。


「はぁ……どうも。その、その節はなんとも……」

「別にいい。お前の考えではないのは分かっている。それで私に何の用だ」

「……新聞を見て、ウォルター・クィンが処刑されるのを知りました」

「そうか。お前には感慨深いだろうな」


 声を落とす教官に、フランはなるべく辛そうな顔を作った。必要な情報を聞き出さねばならないのだ。


「ブラッドとノーマンが死ぬ原因になった人物で、俺もひどい怪我をしました。姉たちのお陰で今はこうして元気ですが……。不安なんです。あの衝撃を乗り越えるために、力を貸してください」

「私がか?」


 心底意外そうに声をあげる教官に、大きく頷く。


「姉は心配性というより過保護で、俺の意見なんて聞いてくれません。ウォルターは本当に捕まったんですか? どこにいるんですかっ、本当に処刑してくれるんでしょうかっ」

「……落ち着け、処刑は間違いなく行われる。州軍警邏隊が捕まえ今は留置しているだけだが、その後はしかるべき機関へ移送され刑の執行となる。お前が心配に思う事はない」



 しかるべき機関……葬祭部に移送されるって事か? 今は警邏隊の留置場にいる?



「会いたいです。会って文句を言いたい」

「オルコック……」

「戦地で死ぬのは仕方ないとわかってます。でも、犯罪者に殺されるのは違うと、思うんです」

「引き合わせる事はできない。お前の気持ちも分かるが、もう忘れて前に進め」



 どうするっ? なんえ言えば?!



「教官……これで処刑が成されなかったら、って考えると辛いんですっ」

「……大丈夫だ。カディッサの誇る政治犯収容所の中でも最も重警備棟に入っている。今日の夜には奴も移送される。そこから奴は地獄を見るだろう。安心していい」


 安心させるように告げる教官は、やはり根が優しいのだろう。だが同時に、内容の重大性が今後のフランの計画を狂わせている。



 マズイマズイマズイっ、そんなとこ助けにいけるわけないっ!



 フランは礼を言って「同室の仲間によろしく」とだけ伝言を頼んだ。

 教官の部屋を出たフランは呆然と歩く。コニーは何を話したのかさえ聞いてこない。フランたちに無関心なのか、仕事外と思っているのか。いつもフルフェイスのヘルメットなので、何を考えているかも読めない女性だ。だが、それが今はありがたかった。


 戻ったフランは、ユージェニーの目を盗んで聞いた事をシャノンに伝えた。


「どうしよう……、カディッサって隣町。しかも政治犯収容所なんて……」

「シャノン、二人じゃとても無理だ……」


 ポツリと呟いたフランにユージェニーと声が被る。


「どうなさったの?」

「え、いや……」


 言葉に詰まるフランに彼女は盆に載せたお茶を差し出してくる。


「ふふ、悪巧みかしら? わたくしはお世話する事しか出来ませんけれど、お二人の事をこれでも心配しているんですよ。危ない事は程々になさってね」


 フランとシャノンは顔を見合わせて、バツが悪そう下を向いた。


「あの、ユージェニーさんっ! あ、あたしたちに力を貸してくれませんかっ」

「し、シャノン! ユージェニーはっ」



 姉さん側の人間だ!



「だって、フランっ。あたしたちだけじゃ……」


 彼女の言う通りだ。二人だけではコニーと、他の監視の目をかいくぐって出ていく事は不可能に近い。


「わたくしに出来る事でしたら」


 にっこり微笑むユージェニーに驚く。


「わたくしだって情がございますれば、お二人とこうして過ごしていて見捨てるなんてできませんわ。何かあるのならお話くださいな」


 フランは降参した。二人だけでウォルターを救うには事態が大きすぎる。


「実は、……ウォルターを助けたいんだ。でもカディッサの重警備棟にいるらしくって、今夜にも移送されるって」

「あらあら、困った状態ですわね。でも、アイヴィーには相談しないんですの? 荒事なら彼女ほど似合いの者はおりませんわ」


 シャノンを見ずとも答えは分かっている。『シャノン』ではない事、人殺しの訓練を受けていた事、どちらもアイヴィーにバレた時の反応が恐ろしいのだ。フランとてその気持ちは痛いほど分かる。

 押し黙る二人に、ユージェニーが微かに笑い声を漏らした。


「信用して、わたくしに話してくれた事が嬉しいですわ。カディッサまでの運転、わたくしが引き受けましょうか?」

「えっ、ユージェニーいいの?!」


 思ってもみない提案に飛びつく。彼女は優しい笑みを浮かべていた。


「でも、本当にいいの? ……姉さんに怒られるんじゃ?」

「わたくしはアイヴィーから二人の事を頼むと言われました。あなたたちの心を守る事も、わたくしの務めかなと思っておりますの。ですから、三人で怒られましょうね」

「ユージェニーさんっ、ありがとうございます!」


 感極まるシャノンに釣られて、フランも表情を緩める。


「では、早速移動しましょうか。カディッサまでの移動は時間がかかりますし、夜には移送だというなら、急がないといけませんわ」

「でもコニーたちが監視してるだろ?」

「元の計画はどうでしたの?」


 窓から出る予定だったと告げれば、彼女は一つ頷く。


「では、わたくしが買出しに行くと言って注意も引いてまいります。下に車を回しておきますわ」

「待って、一人じゃないんだ! 監視は」

「大丈夫ですわ。お任せくださいな」


 彼女はいつも持ち歩いている買い物カバンを手に、出ていく。あまりに普通すぎる情景に、状況を忘れていた二人は慌てて、窓を開けた。

 四階から見下ろす世界はとても高かった。




 ドアを閉めたユージェニー密やかな声で命令する。

 相手はドア口に立っているコニーだ。


「しばらく、わたくしが護衛に付きますわ。あなたはすぐにアイヴィーに連絡を。坊や達が動いたと伝えてくださいな」


 足音も立てずに去るコニーを確認後、二つ隣の部屋へと入る。ソファに寝そべった男――ジョザイアが起き上がった。


「またお出かけ?」

「わたくしが護衛を。あなたには斥候を」

「僕のご主人様から命令が下ればすぐにでも」


 ユージェニーは舌打ちし、懐から取り出した二つ折の紙を投げつける。本当ならくれてやりたくない物だが、命令である。

 紙にはアイヴィーの繊細な文字と血判がついている。その血をペロリと舐めたジョザイアは立ち上がった。


「ワンッ」


 再度舌打ちして、ユージェニーは部屋を出た。犬同士で話す事などない。

 そうして地下一階の車庫に向かい車を正面玄関につけて待つ事数十分。

 あまりの遅さに上を見上げれば――そこには白いシーツを辿り、三階部分の廊下に下りようとしている少年の姿がある。


「なんてまぁ、トロい子……」


 とてもユージェニーが盲愛するアイヴィー・アイブスの弟とは思えない程の動きだ。続くシャノンの動きはスムーズだった。


「どちらも愚図ですわねぇ」


 新聞社にリークしたのはアイヴィーである。それをフランたちに見せる事も指示されていた。

 彼の姉は彼が思うよりもずっと理知的で効率を重視している。


 アイヴィーにはその後のフラン達の行動もある程度が予定調和だ。

 正義感を出して助けに行こうとするにしろ、正体がバレるのを恐れて逃亡するにしろ、彼女は自分に相談がくるとは考えていなかった。

 彼らは二人で何らかの結論を出し行動を起こすだろうと――ユージェニーは聞いていた。

 その時は彼らの良いように手を貸してやれ、とも言われている。


 どんな行動をフランたちが起こそうとも、殺したい側の人間にとって見れば隙だらけで動くバカな子供だちであり、そんなタイミングを逃すはずもない。


 つまり彼女は大事なはずの弟をこそ、最も危険な囮に使う事にしたのだ。

 一番の邪魔者となる『殲滅の野獣』の名を持つ脅威のアイブス軍曹は州軍の演習中。弟の傍を離れているのだから、敵にしてみれば襲いやすいことだろう。


 ユージェニーにはその作戦がクリフォードが考えたものなのか、アイヴィーの考えなのかは分からない。

 大事な事はただ一つ、彼女の命令である事。

 アイヴィー・アイブスの命令であるなら、ユージェニーは従うのだ。


「あぁ、ホントにトロいですわ」


 ずり落ちそうになりながら何とか三階廊下に降り立った二人が駆けて行くのが見える。

 ユージェニーはため息をついて、優しいメイドの仮面を被った。



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