◆ 2・訪問者 ◆
「ってか、姉さんはどこだよ。俺たち一応、あの人の保護下なんだよな? 保護っつーか、放置だろ、コレ」
夕食時にフランは思わず不満を漏らしていた。
「あら、坊ちゃま。お口に合いませんでした?」
ユージェニーが済ました顔で聞いてくる。ベッドの上の盆には掌サイズの丸いライ麦パンと、葉野菜のサラダにはレモンソルト、根菜のミルク煮には親指大のビーフがゴロゴロと入っている。
恵まれた生活を送らせてもらっているのはフランも自覚していた。
だが、それはそれである。
「話し、逸らすなよっ。姉さんはどこだよ、俺たちはいつまでこの生活をしなきゃならないんだよっ」
アイヴィーが姿を消して以来、ユージェニーかコニーが常に傍にいるが、狙われているというのも考えすぎだったのではと思い始めていた。
実際、外出していても襲撃犯どころか怪しい者など見たことがないのだ。
「ウォルターさんの事も、どーなってんのか教えてくんないしさ。調べてくれてるんだよな?」
初日にウォルター・クィンの保護を頼みたいとコニーに伝えている。姉に伝わってると信じていたが、これだけ手応えがないと不安にもなる。
「進捗状況については分かりませんわ。アイヴィーに聞いて下さらないと」
「その姉さんが捕まらないんじゃ話しにならないだろっ」
ずっとコレだっ。
ボスにボスに、アイヴィーにアイヴィーにって、その姉さんがいないってのに!
対面に座ったシャノンが慌てて口を挟む。
「いいの、やっぱり父の事まで頼めないよ」
「まぁ、シャノンさん! いいえ、ご家族の事ですもの。さぞかし心配でしょう。気を強く持ってくださいね。きっと、アイヴィーが良いようにしてくれますから」
すかさずユージェニーが笑みを浮かべて告げる。シャノンは小さく頷いて、食事に目を落とす。
「そうですわ。いつもわたくしの手料理では飽きが来ますでしょう? 明日は外食に致しましょう。良いお店を選んでおきますわ」
「え、いや……。ユージェニーの作るご飯おいしいから大丈夫だし、別に外食なんて……ってか、今そんな気分じゃないし……」
「いいえ、お二人の事はくれぐれも頼むとアイヴィーに言われておりますの。強い体は強い精神から、強い精神は美味しいご飯から、ですわ」
ニコニコと言うメイドに、フランは渋々頷いた。
スープにスプーンを突っ込んだところでチャイムが鳴る。
「あら、お客様かしら。はーいっ、どちら様ですか」
扉に向かいながら、大声を上げるユージェニー。
「夜分に済まない、私はノエル・ランサム中尉、北部区域統括軍人養成所で教官をしている者だ。こちらに私の生徒フランシス・オブ・オルコックがいるという情報を受けた為、確認に来た次第だ」
「ランサム教官?」
思わずフランは声を上げる。ユージェニーが心得たように扉を開ける。そこには濃紺の軍服姿でノエル・ランサムが立っていた。
短く刈り上げた金髪に茶色の目をしたクールビューティーはフランを視界に入れると微笑んだ。
「オルコック。無事だったと言うのは聞いていたが、思ったより元気そうで安心したぞ」
「教官こそ、どうして……ここに?」
ユージェニーが教官を室内に通す。
「パーカーに手紙を出しただろう?」
あれ……?
ふっと血の気が引く。
俺、ギルに出した手紙に住所なんか書かなかったのに何でココに届いたんだ?
わざと書かなかったのではなく、フラン自身が住所を知らなかったために書けなかったのだ。何も考えずに手紙を受け取ったものの、おかしな話だった。
「養成所としてもお前の状況を放置できなかったのだ。二名の事故死を出した上に、重傷らしき生徒が行方不明とは……体面だけの問題ではすまない。お前がパーカーに出した手紙の経路を遡り、この区画から送られた事が判明した」
「そう、ですか」
混乱するフランに、教官は厳しい顔をした。
「しかし、思ったより元気そうではないか。なぜ養成所に戻らない? どんな怪我だったのか私も聞いていないが、完治して見えるぞ?」
「はぁ……そうですね。もう元気です、が……えっと、まだ戻れないというか」
「お前が回復しているなら、私はその旨を所長に報告せねばならん。誓約書にサインしたことは覚えていような? 病床にない限りは兵役義務からも養成所からも逃れる事は罪となる」
「わ、わかっています! 勿論、逃げる気なんて少しもありませんっ」
フランは慌てて否定する。赦されるならすぐにでも復帰したいほどだった。だがシャノンの父ウォルターの消息の事や、葬儀屋襲撃事件の目撃者として命を狙われている話がある。全てを捨て去り復帰というわけにもいかない。
「そっちの娘は何者だ? まさかお前、これ幸いに恋人とバカンスなどという……っ」
フランはシャノンの存在を思い出し視線をやる。驚いて瞠目するシャノンに、慌てて否定の声をあげた。
「ち、違いますっ。彼女は看護士っていうか、看護をしてくれていた人で、それだけですっ。勿論、休暇気分なんて少しもっ! 逃げる気もありませんっ」
「ならいいが……。今日の私はお前の所在と具合の確認だったわけだから、余りきつい話しをする気はなかった。とにかく、一日も早い復帰を所員一同願っていると認識してくれ」
「はいっ」
「……そうは言っても、お前の一存では決められないのだろうな」
教官も養成所での姉の所業を見ているのだ。何やら勝手に察したらしい。
「アイブス軍曹に会いたい。私は北部国土保全機関カマラ支部客員宿舎に泊まる。三日後の同時刻にまた来るが、軍曹の時間が良い時に尋ねてきてくれて構わない。では、邪魔したな」
教官はまた来ると告げ去って行った。完全に体中から力が抜け、座り込む。
「ね、姉さんは? ユージェニー、すぐ姉さんに会いたいっ。話さないとだ!」
ユージェニーが肩を竦める。
「そう仰られても、ポンッとアイヴィーを呼んで来られるわけでもありませんしねぇ」
「そんな悠長なっ」
「養成所って厳しいんですのねぇ」
「厳しいんだよっ、ホントに。法律でガチガチに縛られてるしっ」
「了解ですわ、コニーにも伝えておきますから安心なさって」
ニッコリ笑顔のユージェニーに、フランは頭を抱える。今朝届いたギルからの手紙を取り出して宛名を見れば、カマラ区画の郵便物整理所の住所になっていた。
「なんでバレたんだっ」
「あら、知らないんですの? 右上に書かれた判子の数字には意味がありますよ。左の二つは大陸や島の特定番号、次の二つは地域番、次の三つは町番、次の四つはストリートの居住域番ですわ」
「……そ、そんなっ……手紙、出したのまずかったんだ……っ」
愕然と呟くフランに、ユージェニーは首を振る。
「お気になさらず。パーカーさんが坊ちゃまから届いた手紙を報告した事に問題があると思いますし」
「いや、それは……。バレちゃったんだろうな……」
十二人部屋なのだ。隠してもお互いの情報は筒抜けである。
「それより、ご飯を食べちゃってくださいな。坊ちゃまの心の平安のためにも、わたくしがアイヴィーを探して参りますから」
「頼むよ……」
のろのろとベッドに腰掛け、食事を再開する。シャノンは扉を見つめたまま動かない。
「シャノン?」
「フラン……その、大丈夫なの? 教官って……」
「あぁ、俺が軍人養成所に登録してる事は前に話しただろ? そこで俺の部屋を受け持っていた先生だったんだ。驚かせてごめん」
「ううん。ただ……大丈夫なのかなって。怖そうだったし……」
先ほどの教官のきつい物言いが気になったのだろう。微かに怯えた目で拳を握りしめている。
「厳しい先生だったなぁ」
「そぅ、なんだ」
慌ててフランは付け足す。
「あ、でもイイ先生だったよ!」
「面白かった!」
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