第二期オルクドート
・エルフの歴史書
グスタフ王は旧エルフィンド王立図書館を訪ね、政府編纂の歴史書を手にとった。
古アールブ語の読み書きが問題なくできる王は数ページ見ただけで絶句した。
かつて滅ぼした異種族や黒エルフとの友好・協力関係を示唆する記述全てに墨が塗られ、記録が抹消されていたからだ。
解説
エルフィンド王国末期、ドウラグエル・ダリンウェン政権時代の歴史書は、白エルフ絶対主義のもとで書かれた影響か、極めて偏見的かつ差別的な内容で有名です。
その内容から、「世界で一番信用できない歴史書」とも言われています。
・小作料
エルフィンド王国の小作農は領主への小作料だけで半分も取られたため、貧困にあえいでいた。
グスタフ王は農地改革のイメージを良くするため、この事実を外国の新聞社にも大々的に報じてもらった。
これを見たロヴァルナの貴族は、抗議文を新聞社へ送った。
「たかが4・5割程度の小作料で悲劇と言い張るのはやめろ!私の領地では収穫量の7割を小作料として徴収しているが、農民共は普通に生きているし子供までバンバン産む余裕さえあるぞ!」
解説
ロヴァルナの農奴制はベレリアンド戦争の10年前には解体されてましたが、土地を自腹で買い戻すという内容だったため、実質領主への追加課税というものでしかありませんでした。
そのため、ロヴァルナでは第一次星欧大戦中の革命が起こるまで農奴制が存続しました。
・恋愛アドバイス
若い二人のオークが公園で雑談していた。
「なあオットー、どうしてグスタフ王はディネルース将軍と結婚することにしたんだろう?」
「そりゃあ、お互い恋をしたからだろう。」
「じゃあグスタフ王はともかく、ディネルース将軍はなんで王のことが好きになったんだろう?」
すると軍服姿のオークが話に割り込んだ。
「美味しいご飯を用意すれば、誰だって友情や恋心が芽生えるものだよ」
そのオークの肩には、大元帥の肩章がつけられていた。
解説
「噂をすれば影」ということですね。
ちなみにグスタフ王もそうでしたが、ディネルース女王もよく首都を散歩しているため、オルクセンでは「陛下の噂をすれば陛下が来る」ということわざがあります。
・白エルフの乗っ取り
ベレリアンド戦争後、亡国や改革に耐えられなくなった白エルフ達はこぞって外国に逃げ、捲土重来を図った。
そのうち彼女らは人間を魅了する己の体を活かして、娼婦として大成する者が大勢現れた。
多くの娼館がこぞって白エルフを雇う中、女主人が経営する娼館だけは決してエルフを雇わなかった。
ある日、店の頭取が女将に白エルフの雇用を提案した。
「女将さん、白エルフを入れなきゃウチは潰れちまいます!」
「何言ってんだいアンタは!アイツら何百年も生きるじゃないか!そのうちこの店を乗っ取ちまうよ!!」
解説
ベレリアンド戦争後、社会改革などで没落した白エルフを、人類族の詐欺師達が騙して娼婦として外国に売り飛ばす事件が多発しました。
売り飛ばされた白エルフは劣悪な労働環境のため、5年以内に80%が性病で死ぬか、失輝死したと言われます。
この「性奴隷貿易」は当時深刻な社会問題となり、結果として世界一厳しいと言われるほどの出入国審査が整備されるきっかけとなりました。
・エルフ同士の喧嘩
酒場で白エルフと黒エルフが騎兵に関することで喧嘩していた。
白エルフは元マルローリエン、黒エルフは現役アンファウグリアで、どっちも譲らない。
見かねた店主はクイズを出して、答えられた方が勝ちという折衷案を出し、両エルフもこれを飲んだ。
だがエルフ達は店主の出すクイズに何一つ答えられない。
なぜなら店主は元海軍軍人で、騎兵のきの字も出さなかったからだ。
解説
やや教訓めいたオルクドート。人によっては、論点をすり替えしてる店主が悪いとか、そもそもどんなクイズを出すのかちゃんと聞かなかったエルフ達が悪いといった解釈ができますね。
オルクセン国民はほとんどが軍務経験者なため、どの部隊が最強かという論争が起きるとヒートアップしやすいそうで、喧嘩になる前にどんな方法で論争をストップさせるかが下士官や酒場の店主に求められている技能の1つだそうです。
・白エルフの再就職先
ベレリアンド戦争後、軍人の殆どが失業した。
娼婦に身を落とすことを恐れる白エルフ達を見ながら、職業斡旋人のコボルト族はこう言った。
「こいつらなんでそんなに自分の体に自信あるんだ?」
「そりゃ簡単よ、人間族の玉の輿に入る同胞をたくさん見てきたからさ」
解説
エルフィンド国軍解体後も、多くの元軍人が国家憲兵隊予備隊へ入隊したと言います。
また星歴九〇〇年以降は白エルフも徴兵対象内となり、現在では陸海空軍で白エルフの姿を見ることができます。
ちなみに人間族と結婚した白エルフは多数いましたが、その殆どが不妊を理由に家を追い出され、故郷に帰ったとされます。
・1つの誓約
ベレリアンド戦争直後、白エルフ達は自分達が虐殺されるのではないか、もしくは自分達の文化がすべて焼き払われるのではないかと戦々恐々していた。それ故、白エルフ達は占領軍に対して非協力的であった。
この事態を重く見たシュヴェーリン将軍は1つの誓約を出した。
「今後、白エルフのサウナを占領軍の名にかけて1つたりとも破壊しないことを保証する。」
白エルフ達はたちまち占領軍を歓迎した。
解説
ベレリアンド半島は寒さに厳しく、また入浴は贅沢な文化とされたことから、サウナ文化が発展しました。
オルクセン編入後は、多種多様の魔種族の中でアイデンティティを確立するためサウナがより推奨されたこと、インフラ整備によってサウナがより手頃かつより頻繁に入れるようになったこと、専門誌の発達で各地域のサウナ文化が共有されるようになった結果、今ではエルフィンド州のサウナ文化はとても発達したものになりました。
・肌の違い
黒エルフと白エルフ、両者の肌の色が違う理由。
黒エルフは黒パンを、白エルフは白パンを食べていたから。
解説
ベレリアンド半島は寒冷地であり、さらに土地が痩せていたため、庶民は両エルフともにライ麦パン(黒パン)が主食で、白パンは都市住民か部族長などの富裕層の食べ物でした。
ちなみに現在のオルクセンでは白パンが主流になり、黒パンは軍隊で出されるもの、質素倹約といったイメージが定着しつつあります。
・黒パンの食べ方
黒パンの食べ方一つとっても種族ごとに違いは出る。
オーク族はたっぷりのラードをつけて食べる。
コボルト族は薔薇ジャムをあえて食べる。
ドワーフ族は仕事場で汗を流しながら、ビールと一緒に食べる。
巨浪族と大鷲族は肉しか食べられない。
黒エルフは質素なシチューとともに食べる。
哀れな白エルフは黒パンを食べた瞬間、吐いてしまう。
解説
前述のように、白エルフも黒パンを食べます。
・徴兵忌避者
ベレリアンド戦争後、黒エルフ族に名誉の徴兵義務が付与された。
だが黒エルフ族から村単位での徴兵忌避者が相次いだ。
驚いたグスタフ王自らが、徴兵忌避派の村に赴き、族長と対談した。
「なぜそなた達は兵役を嫌がるのだ?」
「どんなに待遇が良くとも、秘密警察の後継人になるのは嫌なだけです。」
解説
ベレリアンド戦争後、エルフィンド国全体で一つの噂が駆け抜けました。
-近々、黒エルフ族が白エルフ族に復讐する-
この噂にはさらに尾ひれが付き、終いには白エルフ民族絶滅計画という噂さえ出回りました。
この噂は黒エルフ族にも届いており、特に白エルフ族を監視するために黒エルフを中心として秘密警察を再建するという噂は非常に流布しました。実際、この噂を理由に徴兵忌避を宣言する村まで現れたほどです。
この噂はエルフィンド州設立と、白エルフへのオルクセン憲法適用宣言までエルフ達の間で流れ続けました。
・100年先まで使える大砲
ベレリアンド戦争後、陸軍では火力不足の幻影に悩まされていた。
どんなに威力の高い大砲を大量に投入しても、火力不足に見えてしまうからである。
そこに目をつけたのが我らがヴィッセル社。
ヴァーリ・レギン親方は会社自慢の技術をふんだんに使い、20インチもある巨大な大砲を作った。
そしてこれだけの大砲を大量に揃えれば、100年後も火力不足に悩むことはないと陸軍に売り込みをかけた。
3日後、陸軍から返事が戻った。「海軍に売れ!」
解説
デカけりゃいいってもんじゃないという教えは、100年以上前からあったんですね。
ヴィッセル社は星歴930年代にはデータ収集と技術蓄積を目的として実際に20インチ砲を作りましたが、すぐ航空機の時代がやってきたため、陸海軍ともに採用されることは有りませんでした。
・新憲法
オルクセンで新憲法が発布されたとき、色々な所で議論が巻き起こった。
賛否が入り交じる中、最終的には1つの理由で憲法が支持されるに至った。
新憲法発布記念と称して、国民達は仕事を休んで堂々と酒を飲みまくれるし、酒屋も儲かるからだ。
解説
星歴八八三年に発布された新憲法、通称「連邦憲法」は、今までの政治体制を尽く否定する内容のため、国中が騒然となったと言います。
王の立憲君主化、議会の創設、永世中立国宣言などを盛り込んだ新憲法は、最終的には「グスタフ王が立案するなら大丈夫だろう」という理由で、国民に支持されました。
・議会選挙
グスタフ王を立憲君主とする新憲法が発布され、議会設立のための選挙が始まった。
投票日当日、黒エルフ二人が投票所にやってきた。
「なあ、選挙ってどうやるんだ?」
「良く分からないけど、多分族長を選ぶ時と同じだと思うよ」
「なるほど、じゃあ立候補者の相手をしなくちゃな」
そう言うと彼女らは戦化粧を顔に施し、小刀片手に投票所へ乗り込んだ。
解説
アンファウグリアの戦歴が国内で過剰に報道されるに従って、黒エルフに脳筋というイメージが付き始めました。このオルクドートはそんな時期の作品と思われます。
ちなみに黒エルフの族長が交代する時はほとんどが戦死する時なので、次期族長は族長が戦死した後の臨時指揮官がそのまま選ばれる例が多かったと言われます。
・白ビール
黒エルフ族はとにかく白ビールを飲みまくる。
その白ビールに、イザベラ・ファーレンス貴婦人が興味を持った。彼女は黒エルフの健康な体と美の秘密に、白ビールが関係すると考えたのだ。
だが商人である彼女は全てのリスクを取り除くため、医者に相談した。
「先生、これから毎日白ビールを飲もうと思うのですが、健康には問題有りませんよね?」
「いいえ。もし毎日白ビールを飲めば、たちまちオーク族のような横幅と体重を貴方は得ることになるでしょう。」
解説
黒エルフ族がやたらと白ビールを飲みまくるのは有名な話であり、一時期は「黒エルフは白ビールを燃料にしている」とさえ言われたことがあります。
この伝統(?)は今でも受け継がれており、オルクセンの居酒屋には「黒エルフ風白ビール」というメニューがあります。これはアンファウグリア兵が今も好んで通っている居酒屋「クライスト」で出される白ビールを模したものです。
ちなみに白ビールは小麦から作られることもあってカロリーが高く、アキツシマの「サケ」と共に「飲むパン」と呼ばれています。
・火酒療法
グスタフ王とディネルース王妃の間に中々子供が産まれない中、とある医者が黒エルフの伝統的食生活が原因だろうと考えた。そして様々な検証の結果、火酒が体に悪い分、薬として使えると判断し、避妊薬として火酒を大々的に売り出した。
一年後、医者のもとに大量の出産報告書と、裁判所からの詐欺罪疑いによる出頭命令書が届いた。
解説
キャメロットのことわざに「ビールは喜び、ジンは悲しみ」というものがあるように、当時は蒸留酒全般に不健康なイメージが付いてました。そのため火酒が原因で黒エルフの肌は黒くなったとか、火酒ばっか飲んでるせいで栄養不足気味で貧乳が多いといったブラックジョークが産まれました。
ちなみに前述のことわざの意味は、「適材適所」です。結婚などのめでたい席はビール、葬式などの悲しい席には火酒を飲もうという意味合いらしいです。
・太らない理由
黒エルフが太らない理由、筋肉モリモリだから。
白エルフが太らない理由、年中サウナ入ってるから。
解説
エルフ族が太らないのは長年謎とされてきました。
しかし近年の研究では、白黒エルフ両方の体に食べた分のカロリーを消費するという機能が備わっていること、糖質を非常に体に貯めにくい体質であることが有力視されており、謎が解明される日も近いとされます。
前説の証拠に、エルフ族は災害や事故に巻き込まれた際の生存率が低いというデータがあります。
これは脂肪を蓄えにくい分、非常時に耐える体力がないという結果から導き出されました。
・お米大好き
グスタフ王は異常なほど、道洋のアキツシマに肩入れした。
技術者の派遣はもちろん、工業機械の輸出から、アキツシマ産の農作物の輸入まで。
あまりの道洋びいきに、遂に副官の一人が讒言した。
「閣下、あまり道洋に肩入れすると、星欧社会から孤立しますぞ」
グスタフ王はこう返した
「米の旨さと育てやすさが分からない国なんぞ放っておけ!」
解説
グスタフ王の道洋びいきは当時から有名で、救荒作物として寒さの厳しいベレリアンド半島北部で蕎麦の栽培を奨励した他、蕎麦麺の普及に力を注いだり(麺という文化自体無かったため失敗)、サヴォア風ドリアには決まって道洋の米を使う、カフェインレスコーヒーとして玄米コーヒーを発明するなど、とにかく道洋食に多大な関心を寄せていました。
そして晩年になると、第一次西欧大戦後に解消寸前までいったキャメロット=アキツシマ同盟の仲介役を務めて両国の同盟関係維持に腐心し、結果として第二次星欧大戦にてキャメロット連合が勝利する遠因となりました。
・電話に出んわ
電話が発明され、早速オルクセンでも導入された。
グスタフ王は栄えある最初の電話をキャメロット首相にかけた。だが全然出ない。
30分後、やっと繋がったときにキャメロット首相はこう文句を言った。
「交換手には古アールブ語以外に話せる人を雇ってくれ!」
解説
当時の電話は交換手が必要で、受け取り側にもかけ間違い防止策として、交換手が「〇〇様からのお電話です」と話すことが通例でした。また当時失業率の高かった白エルフ族の救済措置として、電話の交換手に白エルフを優先的に採用していました。
ちなみにオルクセン初の電話契約者は、マクシミリアン・リストおよび財務省でした。
外務省ではまだ電話への不信感があり、財務省に先を越されてしまったのです。
・列車事故(映像)
若いオークが父親を映画に誘った。だが父親は頑として行こうともしない。
「父さん、映画は危険なものじゃないよ!」
「いいや違うぞ息子よ!映画っていうのは汽車がこちらに向かってくるものじゃないか!ボーッと突っ立ってたらはねられちまうぞ!」
解説
八九七年、オルクセンで初めて映画を上映した際、汽車が客席側に迫ってくるという内容の映画があったため、逃げようとする客が出口に殺到。結果、将棋倒しが発生し、オーク2名、コボルト5名が亡くなる事故が発生しました。
・オルクセン初の映画
オルクセン初の映画のタイトル、「まぐあう白エルフと白エルフ」
解説
オルクセン初の映画は、公式では八九九年撮影の「グスタフ王とディネルース王妃」とされています。
ただグロワールにある元娼館の屋根裏から見つかった大量のポルノムービーの中に、九〇一年製の「白エルフの水浴び」というオルクセンで撮られた映画が見つかっているため、ポルノ映画の歴史も相応に古いものだと考えられます。
・自動車
オルクセンはキャメロットやグロワールよりも自動車の導入に積極的だった。
ある日、首都ヴィルトシュヴァインに赴任したキャメロットの大使は行き交う自動車の列を見て驚き、グスタフ王に尋ねた。
「グスタフ王殿、なぜあんなに自動車を走らせているのですか?あれでは馬が驚いて走ってくれません。」
3時間後、大使は己の質問に後悔した。
そのまま3時間、グスタフ王による「農業における自動車の利点について」という題名の論文発表会に付き合わされたからだ。
解説
オルクセンでは早い段階から自動車の導入が行われており、安い自動車税、国営保険による安価な各種自動車保険、各種補助金制度のおかげで、星欧920年代には世界一の自動車普及率を達成しました。
そのためヴィッセル・ヴァーゲン社、メッサーシュミット社、ベートマン社などの現在でも有名な自動車会社が多数誕生しました。
・飛行機
人間族が初めて空を飛んでから数年、オルクセンにも飛行機が導入された。
オルクセン初の飛行機を飛ばす名誉を与えられたのは、命知らずで有名なルーデルだ。
飛行当日、空は快晴で飛行機の整備もバッチリ。だが飛行試験は中止された。
操縦桿に手が届かなかったからだ。
解説
これは実際のエピソードを基にしています。
ルーデル氏の自著曰く、「前かがみになれば操縦桿に手が届いたが、尾翼操縦用のフットペダルに足が届かなかった。」とのこと。
どうやら当初は側面のハンドルで尾翼を操縦する型を注文したものの、治具の焼失で急遽人間族向けのペダル式に変更した結果、コボルト族に合わせたコックピットにできなかったようです。
・窒素固定法
グスタフ王と科学者たちの努力の甲斐あって、オルクセンは世界で初めて窒素固定法を実用化した。
この成果を発表する記者会見にて、グスタフ王は「今回の発明は、空気からパンを作り出す程の偉大なものです。」と発表した。
翌日、主要な製パン業者の株価が軒並み大暴落した。
解説
窒素固定法は肥料の大量生産という面ではまさに革命的で、これの発明により人口許容量が数倍増えたとさえ言われています。
ちなみにグスタフ王の意向で特許申請をしなかったため、窒素固定法はまたたく間に世界中に普及し、結果的に第一次星欧大戦の激化を招きました。
・第一次星欧大戦その1
第一次星欧大戦が起きた時、オルクセンでは参戦派と中立派で国が分断した。
各新聞が参戦か中立かで荒れる中、ある新聞の社説が参戦派を黙らせた。
「農業の効率が著しく低下する戦争を、我が王が望むのだろうか」
解説
第一次星欧大戦開戦時、オルクセンでは永世中立国宣言を放棄して参戦する意見が主流でした。
しかしグスタフ王の強制命令に近い要望によって、当時のゼーベック・ビューロー内閣(※1)は中立宣言を保ちました。そして開戦後に新聞社によって届けられた悲惨な塹壕戦などの戦争体験談によって、参戦派は「オルクセン・グローリア号撃沈事件」まで鳴りを潜めることになります。
・第一次星欧大戦その2
裂地海でオルクセンの豪華客船「オルクセン・グローリア」号がオスタリッチの潜水艦に撃沈された。
これに当然国民全員が憤慨したが、唯一黒エルフ族だけは怒らなかった。
彼女らは海を見たことがなく、船の概念すら理解してなかったからだ。
解説
オルクセン・グローリア号撃沈事件の際、グスタフ王と共にディネルース王妃も参戦に反対したため、黒エルフ族が一時的に非国民扱いされる事態が発生しました。
これはそんな時期に作られたオルクドートです。
ちなみに黒エルフ族が白銀樹の都合で僻地に住んでいるのは今でも知られており、交通の便が悪い田舎のことを「黒エルフの村のよう」と形容する表現が現代オルクセンにはあります。
・第一次星欧大戦その3
我がグスタフ王は偉大だが古い人だ。
現代の講和会議に、デュートネ戦争時代の価値観を持ち込んだからだ。
解説
グスタフ王は第一次星欧大戦講話会議にて、今後の戦乱を防ぐために無賠償講話案を熱弁しました。
しかし、デュートネ戦争時代ですらほとんど行われてないような講話案は国内外から時代遅れと非難され、結果として国家として唯一存続していたアスカニアに、当時のアスカニアGDP50年分の賠償金、それもインフレして目減りしないよう金価格基準での支払いのみという条件で講和条約が締結されました。
結果として「これは30年程度の停戦条約だ」というグスタフ王の予言通り、アスカニアにて「悪魔」の台頭と、「悪魔の厄災」と呼ばれる第二次星欧大戦の引き金となりました。
・戦車隊
第一次星欧大戦後、オルクセン軍はキャメロットから中古の戦車を輸入した。
早速、輸入した戦車を使って演習が行われたが予想外のことが発生した。
対抗相手であるアンファウグリアは10.5cmヴィッセル砲を直射したり、肉薄攻撃したり、ハッチをこじ開けて中を制圧したりして、戦車部隊に圧勝したからである。
解説
恐ろしいことに、これは実際に起きたエピソードです。
星歴九二一年に行われた演習では塹壕戦を想定して戦車を運用しましたが、アンファウグリア師団兵達は工兵用の10kg爆薬(信管なし)を担いで戦車の天井に置いたり、連隊砲である10.5cmヴィッセル砲を直射したり、遂には操縦席ののぞき窓から銃口を突っ込んで降伏させるなど、戦車部隊に壊滅判定を与えました。
この演習の結果を受けて、オルクセンでは戦歩協調を重視するようになりました。
ここまでは他国と同じですが、オルクセンの場合、戦車を馬の後継と見ていたためより機動力を追求し、さらに歩兵にも同じ機動力を求めるようになりました。結果、グスタフ王の後押しもあって歩兵装甲輸送車や自動車化師団の誕生に繋がりました。
・ラジオ放送
オルクセンでも遂にラジオ放送が始まった。
全種族が公共ラジオの前に立ち、ラジオ開通を知らせる「オルクセンの栄光」が流れるその時を待った。
だが時間になって流れたのは、アホみたいに音割れした「オルクセンの栄光」だった。
解説
これは事実でもあり嘘でもあります。
というのも、オルクセン国営放送局は初回放送に向けて何度も予行練習放送を行い、音割れや感度不良などのマイクトラブルを防いでいたからです。
そして受信側の状況ですが、当時の公共ラジオが設計ミスにより不必要なほど大音量で流せたこと、地域によっては電波状況が悪いことなどが重なって、一部地域では音割れオルクセン・グローリアを聞く羽目になったそうです。
・オルクセンの新聞一面
外国からスパイとして派遣された白エルフは、周囲に溶け込むためあらゆる新聞を読むことにした。
「グスタフ王の体温36.2℃ 前日より0.8℃も下がる!」
「陛下の昨日のお食事 蕎麦粥二杯 りんご一個 麦芽コーヒー一杯」
「グスタフ王の脈拍は依然安定。」
「オルクセン一の名医に聞く!グスタフ王は快方に向かうか!?」
スパイはオーク族の医療・健康知識だけ身につけ外国へと帰った。
解説
グスタフ王は晩年になると寝たきりとなり、日々衰弱していきました。
そして新聞各社はグスタフ王の体調を盛んに報じ、当時のオルクセン国民はグスタフ王の体調を共通の話題にさえしてました。
・グスタフ王の死
偉大なるグスタフ王は病床に伏し、静かに生涯の幕を降ろそうとしている。
ディネルース王妃は王の側に立ち、今後のことについて語った。
「もしまた星欧大戦のような大戦争が起きたらどうすべきだろうか」
「前と同じく、固く国境を閉じよ」
「もし私が死んだら、次の国王は誰がなるのか」
「その時は国民の投票に全てを任せよ」
「あなたの後任である農業大臣は誰にしようか」
「・・・それだけが気がかりだ」
解説
グスタフ王は新憲法(別名:連邦憲法)発布後は農業大臣の職を辞職しているため、崩御時でも農業大臣はいました。
ただグスタフ王は引き続き農地の視察や、農業に関する論文の発表などを行っていたため、世間では王が引き続き農業大臣をやっていると勘違いする者が多かったそうです。
※1 大統領名のみを記載する我が国と違い、オルクセンでは内閣名を記載する際、大統領→首相の順で名字を並べます。