第一期オルクドート
・かわいい子馬
ある日グスタフ王が側近を連れて農場の視察へ向かうと、村長の子馬が王に懐いてきた。
健気にしっぽをふる様子に、王は「食べたいほど可愛いとはこのことだな」と言った。
同行していた料理長は「我が王、この子馬を食べるにはまだ早すぎます。」と讒言した。
解説
デュートネ戦争の頃まで、オルクセンでは馬食が行われていました。その後、豚肉が普及したこと、馬肉自体が寿命間近の馬を屠殺したものだったので筋張って味が悪いことなどから、この文化は廃れました。
それどころか、軍や警察を通じて馬に愛着を持つ国民が大勢現れ、現在では反馬食運動が盛んな国となっています。
・世界地図
グスタフ王が即位して間もない頃、即位祝としてキャメロット大使より世界地図が献上された。
側近らが喜ぶ中、グスタフ王だけ一人浮かない顔をしている。
大使は無礼を承知で、その訳を王に聞いた。
王は「我が側近らは文字が読めない。故に本代わりに地図を献上するため、我が書斎は地図でいっぱいだ」と答えた。
解説
いくら野蛮であっても、王の側近や官僚は流石に自国語の読み書きができました。
ただ人類族の言語を話すことができる者は非常に少なかったらしく、時にはマナー違反も承知で王自らがキャメロット語で使者と会話する場面が度々ありました。(現在でもそうですが、王や大統領などの政権首脳陣は、外国の首脳や使者と会談する際は、翻訳者をつけるのがマナーとなっています。)
・ナイフを使え!
グスタフ王が即位して間もない頃、オルクセンにテーブルマナーなんてものは無かった。
ゲップやクチャクチャ音は当たり前、おまけにどいつもこいつも手づかみでヴルストや魚料理を食う。
見かねた王は、「ナイフを使え!」と叫んだ。
すると王の忠実なる側近、シュヴェーリン将軍は応えた。
「了解しました我が王!どいつを殺しましょうか!」
解説
有名なオルクドート。ネットではかつてのオルクセンを象徴するエピソードとして知れ渡っています。
オルクセンの名誉のために解説すると、オルクセンには手づかみで料理を食うという伝統が根付いており、それは手づかみで中身を吸うというヴァイスヴルストの食べ方にも表れています。
・我らがオークの胃
グスタフ王は生活水準向上のために様々な手を打った。
その一つに、トイレと井戸を最低1km離して設置する法があった。
王は「飲水の中に糞尿が混じっているのは嫌だろう?」と説いたが、農業大臣は「我らがオークの胃にかかれば、糞尿も問題なく消化できますよ」と応えた。
翌日、農業大臣は一族追放の刑に処された。
解説
グスタフ王は即位直後から立憲君主化するまで農業大臣を務めていたため、農業大臣という役職自体がありませんでした。
ただ井戸とトイレを離す勅令は即位初期のかなり早期に出ており、結果として星歴800年代を通じて起こったコレラの被害を抑えることに成功しました。
・大寒波
ある年、オルクセンを大寒波が襲った。
幸い、秋小麦の収穫は済んでいたが、あまりの寒さに暖房用の薪や石炭が足りなくなってきた。
そんな中、グスタフ王の側近は1つの妙案を王に提案した。
「我が王、骨はよく燃えると聞きます。今からでも遅くないので、墓を掘り起こすべきです!」
解説
骨は基本燃えません。骨についてる脂肪や肉が燃えるだけです。
・ドワーフの亡命者
グスタフ王が即位して1年後、ドワーフの国がエルフたちに攻め滅ぼされ、多数の難民がオルクセンにやってきた。
グスタフ王は彼らを丁重に保護し、鍛冶職人として重宝した。
ドワーフは王の寛大な心に感謝の意を表し、鉄の椅子にソファ、鉄のマットレス付き鉄のベッドを献上した。
解説
ドワーフ族は手先が器用なため高い木工技術も保有していますが、どうやら亡命に成功したのは鍛冶屋だけだったようですね。
なお現在ではドワーフの作った木製家具が普通に売られてますので、ご安心を。
・黒旗戦争その1
グロワール初代皇帝デュートネが星欧中を引っ掻き回していた時、オルクセンはとにかく防戦に腐心した。
グスタフ王が食人禁止例を出していたため、攻撃しても占領地で食料を調達できなかったからだ。
解説
デュートネ戦争中、グスタフ王は人類族に敵意を持たれないよう、積極的攻勢を禁じていました。
他にも、銃や大砲、被服の生産体制が整っていなかったこと、当時はまだ志願制が主流だったため兵隊の徴収に時間を費やしたため、エルフ族の侵攻を恐れていたことが、デュートネ戦争中オルクセンが消極的であった理由に挙げられています。
・黒旗戦争その2
デュートネがオルクセンに攻め込んだ時、当時世界最強のグロワール軍は補給で苦しむことになった。
捕虜になったオークが1日で人間10人分も食べるからだ。
解説
当時のグロワール軍の記録を見てみると、オークは捕虜にせず解放し、占領地の食料を根こそぎ奪うことで食糧不足どころか、一部の食料を売って軍費を稼ぐ余裕までできたようです。
・黒旗戦争その3
オルクセンが最終的にグロワールへ侵攻した理由。
グロワール軍が撤退時に、グスタフ王が手塩にかけ育てた畑を焼いたから。
解説
グスタフ王なら実際ブチきれかねない理由だから困りますね。
実際は魔種族に排他的だったデュートネを失脚させること、講和会議と今後の国際社会で一定の発言権を有することが目的だったとされます。
・黒旗戦争その4
ある日、村の公民館で黒旗戦争に参加した老兵から戦争の話を聞くというイベントが行われた。
だが老兵はただただ、農業の話をするだけだった。
不審に思った主催者は、老兵の軍隊手帳を見て叫んだ。
「しまった!輜重兵だったか!!」
解説
オルクセン軍は人類族へのイメージ悪化と、略奪による規律の乱れを防ぐため、現地調達を禁じていました。そのため本国からの輸送分では食料が足りず、輜重兵や後備兵は戦場の後方で畑を耕し、自給自足しようとしていました。
・大鷲族と巨狼族
黒旗戦争終結からまもなく、大鷲族と巨狼族がオルクセンに亡命した。
グスタフ王は亡命を受け入れ、手厚くもてなした。
そして王が亡命した彼らに最初にやったことは、大鷲族と巨狼族専用の農具を設計することだった。
・解説
大鷲族と巨狼族は亡命当初から農業従事を免除され、代わりに下士官・士官待遇でオルクセン軍に編入されました。
つまりグスタフ王が最初にやったことは、彼らのために軍隊手帳を発行することでした。
・徴兵制
黒旗戦争終結から10年も経たないうちに、徴兵制が始まった。
最初は徴兵忌避者が相次いだが、ポスターの一言で皆を徴兵制賛成派に回らせた。
「農作業一切なし。三食ヴルストつき。」
だが一部反対派はこう訴えた。
「こんなのに行ったら、帰ってきた頃には農業できない舌肥えたバカになるだけだ!」
解説
あまりジョークらしくないオルクドート。というのも、これは徴兵制履行時に実際あったエピソードだからです。
機械化前の農業は重労働であり、貧農の次男・三男が自身の社会的立場を改善するために、下士官育成コースに志願入隊する事例が多々ありました。
特にこの傾向は合併後のエルフィンド州で多く見られ、オークに次いで二番目に志願入隊(下士官・士官勤務志望者)が多い種族は、皮肉にも兵役を最低の仕事と考える白エルフ族だったりします。
・私達の子
ドワーフ族の娘がオーク族の青年に恋をした。
娘は早速、青年にプロポーズした。
「あなたのような恵まれた体と私のような器用な手先を持つ、オーク族の男の子が産まれたら素晴らしいと思わない?」
青年はこう返した。
「それがドワーフ族の女の子だったら悲劇だよ」
解説
代表的なオルクドートの一つ。前述の喜劇集にほぼ同じ話が載っているため、この時代に区分しました。
なお種族名を変えたり、子供の特徴を変えたりした派生型が無数に存在します。
・鉄道
キャメロットで鉄道が発明され、早速オルクセンでも導入が決まった。
だが輸送費のことも考慮しても、客車の値段がキャメロット本国のものより3倍以上かかった。
鉄道の輸入担当者だったマクシミリアン・リストはこれに激怒し、メーカーに問い詰めた。
メーカーは「全乗客がオーク族でも床が抜けないように増強しました。詐欺ではございません。」と応えた。
マクシミリアンは「全乗客の内、半分がコボルト種という想定で設計しろ!1ラングでも安くしろ!」と
命令した。
数カ月後、無事に機関車と客車が届いたが、客車はメーカーの粋な計らいで、床が紙で作られていた。
解説
「狂人マクシミリアン」のケチっぷりをおちょくるエピソード。ちなみにマクシミリアン自身は当時大学で経済学の教鞭をとっていたため、鉄道の輸入には一切関わっていません。
・オルクセン国民が恐れるもの
オルクセン国民が恐れるもの
1.死
2.飢餓
3.駅構内の休憩所の食事
解説
星歴八四〇年代を通じ、オーク族の食欲に応えるべく各駅に軽食を提供する休憩所が作られました。
しかし、極初期の頃はロクな審査を行わず料理人を高待遇で応募したため、今まで料理をしたことも無いようなオーク族やコボルト族がこれに殺到。結果、一週間前に焼いたようなパン、温めただけの酸化したコーヒー、スクランブルエッグと化した目玉焼きなど、粗悪な料理を提供する休憩所が蔓延しました。
これは当時の社会問題となりましたので、オルクセン国有鉄道は審査の厳格化や調理マニュアルの配布などでこれに対応し、八四〇年代末頃には粗悪なメニューは姿を消しました。
現在でも駅構内の休憩所は、新聞、お菓子、缶ビール、旅行客用SIMカードやプリペイドカードの販売を行う傍ら、ヴルストやスクランブルエッグを焼いたり、挽きたてコーヒーを提供しています。
・頑固な父親
若いオークが父親を鉄道旅行に誘った。
だが父親は頑として首を縦に振らない。
困り果てた息子は母に相談した。
「母さん、なんで父さんは汽車に乗りたがらないんだ?」
「あの人は新聞読んでるだけでそこに行った気がする人なのよ。」
解説
有名なオルクドート。雑誌やインターネットを通じてそこへ旅しに行った気分になって満足する人は、昔からいたようです。現在でも多くの改変版が出回っています。
ちなみに当時の新聞は空前の鉄道旅行ブームに乗っかる形で、1面を割いてオススメの観光地紹介を行っていました。
・黒エルフの馬
黒エルフ族が亡命した時、グスタフ王はこれを受け入れたばかりか、早速軍に編入した。
黒エルフは馬の扱いがうまいため、グスタフ王は専用の軍用馬を輸入しようとした。
だがこれにとある副官が待ったをかけた。
「我が王、この種の馬は農業には不向きです!」
解説
王との付き合いが長いためか、側近らもグスタフ王に感化されてますね。
グスタフ王は黒エルフ族の亡命時には既にエルフィンドとの開戦を決めていたといい、それ故アンファウグリアを異例のスピードで設立したと言われます。
・騎兵議論
アンファウグリアの設立によって、オルクセン軍参謀本部内で一つの意見が議論に上がった。
オーク族の騎兵はノロマだから廃止しようという意見だ。
だがこの議論は騎兵総監ツィーテン上級大将の一言で片がついた。
「君達、これから一個騎兵中隊による突撃演習を行うから、ちょっと的になってくれたまえ」
解説
馬の育成に生涯を捧げた人を前になんで騎兵廃止論を議論してしまうのか...
オルクセン騎兵がノロマなのは当時の軍関係者からしたら有名であり、彼らに「豚に乗った騎兵」とあだ名をつけることさえありました。
この事は軍も強く自覚しており、自動車や戦車が登場すると多くの騎兵を機械化兵に配置換えし、結果的にオルクセンは中立国なのに世界初の戦車師団・自動車化師団を有する事になりました。
・黒エルフの楽しみ
我らが黒エルフの数少ない楽しみ。
ディネルース旅団長の首筋についたキスマークを数えること。
解説
グスタフ王とディネルース現女王の恋はアンファウグリア旅団内で有名でした。
ですがディネルース旅団長は箝口令を敷いた他、部下たちも旅団長のことを気遣い、このオルクドートは兵舎内かつ魔術通信でのみ語られていたため、その存在が発覚したのはグスタフ王の婚姻発表後でした。
~農業王グスタフ伝説~
・将来の印刷代
我らがグスタフ王はジャガイモ栽培をバカの一つ覚えのように推奨した。
だがバカの一つ覚えとは違い、王は自らが執筆したマニュアルを無償で配布していた。
ある日、そのマニュアルの印刷代がバカにならないから止めるよう、側近が讒言した。
するとグスタフ王はこう返した。
「君は将来の印刷代が惜しくないのかね?」
解説
グスタフ王即位時、オルクセンにおいてジャガイモは救荒作物であり、下の下の非常食という扱いでした。
しかしグスタフ王は痩せた土地の多いオルクセンではジャガイモ栽培が適すると判断し、積極的にジャガイモ栽培を推奨する他、ジャガイモ料理の研究・普及も熱心に行いました。
結果、現在のオルクセンでは世界一のジャガイモ消費量を誇ります。
・貴軍の馬
アスカニアの騎兵将校がオルクセン騎兵を見て皮肉を言った。
「貴軍の馬がなぜ大砲を引っ張らずオークを乗せているかが気になりますな。」
グスタフ王はこう返した。
「貴軍の馬こそ、あんな小さい体でどうやって馬鋤を引いてるかが気になりますな。」
解説
オルクセン騎兵の馬は、星欧各国では農業馬に分類されるほど大きく、鈍重でした。
ベレリアンド戦争中では実際に騎兵の馬が一時的的ながらも、死んだ馬の大体として砲兵隊の57mm山砲や75mm野山砲を牽引した記録があります。
・嫁ぎ先
グロワールの使者がグスタフ王に冗談を言った。
「革命で処刑された王妃は、農地を視察する王の絵を見て結婚を決めたと言います。その絵に描かれたのが陛下だったら、今頃王妃は陛下に嫁ぎ、天寿を全うしたでしょうな」
「いいや。農作業に耐えきれず、すぐオスタリッチに帰っただろうね」
解説
グスタフ王は長らく独身でした。そのため一時期は「百姓に嫁ぎたがる上流女がいないから結婚できない」という冗談が流行ったとされます。