第7話 魔人の双子
「……」
拓臣は商人から受け取った鍵で、魔人の少年少女を鎖から完全に解放する。
だが、少女を背後にかばったままの少年は敵意に満ちた視線を拓臣から外そうとはしなかった。
「……ボクたちをどうするつもりだ」
「正直、ちょっと困ってる」
拓臣は「ふぅ」と息をついて、警戒を解かない少年の前に腰を下ろす。
彼ら二人を買い受けたというものの、王城へ連れて行くわけにもいかない。かといって、預けるあてもない。
「とりあえず、名前を聞いてもいい? もし、無いっていうなら僕のセンスで勝手に呼ぶけど──そうだなぁ、タローとハナコ……」
「リオンヌだ、で、こっちの妹がパーピィ」
リオンヌが言うにはパーピィとは双子の兄妹で、アレクスルーム王国との国境にほど近い魔帝領の小さな村から拉致されてきたという話だった。
「そっか、じゃあ『今から君たちは自由の身だ! 家に帰ってもイイよ。あ、お礼なんていらないさ、人として当然のことをしただけなんだから、HAHAHA!』なんて言っても厳しいよね」
王城での授業で軽く触れただけだが、この王城から魔帝領との国境までけっこうな距離がある。その間を魔人族の子供二人だけで歩いて帰れなんて、もう一度人買いに捕まって王都に戻ってこいと言ってるようなものだ。
そこまで考えたところで、拓臣は何か閃いたかのようにポンと手を打った。
「じゃ、こうしよう。僕が君たち二人を家まで送っていってあげるよ」
『え!?』
呆然と顔を見合わせるリオンヌとパーピィ。
そんな二人をよそに盛り上がる拓臣。
「王城にいると息が詰まるしさ、やっぱり自分の目でいろいろ確かめるのが一番だよね──って、もしかして、魔帝領の人たちって、人間に対して問答無用で襲いかかってきたりする?」
「いや、そんなことないけど」
「オッケー、それなら問題ないね。できれば、今から出発したいけど荷物はもっていきたいもんな、残りのお金も置いてきてるし」
「ちょっと、勝手に話進めるんじゃ……」
「え? 家に帰りたくないの?」
キョトンと問い返す拓臣に、言葉に詰まるリオンヌ。
パーピィがそっと拓臣の横に立つ。
「リオンヌ、この人、信用してもイイと思う。少なくとも悪人じゃない……と思う」
妹の言葉に、大きく息を吐き出して金色の髪をくしゃくしゃとかきまわすリオンヌ。
パーピィがペコリと頭を下げる。
「あなたの言うことに従います、よろしくお願いします、ご主人様」
「あー、そんなにかしこまらないでよ。それにご主人様……も、なんか捨てがたいけど、やっぱり日常的に呼ばれるのはアレだから、名前──タクミって呼び捨てで構わないよ、同い年くらいだし」
「あ、えっと……わかりました、タクミ……様」
様もいらないと念を押す拓臣に、はじめて笑みを見せるパーピィとリオンヌ。もっとも笑いといっても苦笑じみたものだったが。
リオンヌが咳払いをした。
「わかった、タクミ。ボクたち兄妹はキミの言うことに従う。それで、これからどうすればイイのかな」