第6話 奴隷兄妹との出会い
「ごめんなさい、ごめんなさい! お願いだから妹をこれ以上ぶたないで!」
「お兄ちゃん……っ、きゃあっ!」
「キャンキャンうるさいんだよ、このガキどもっ、とっとと歩きやがれ!」
それは拓臣が遭遇した初めての魔族──魔人だった。
体つきは拓臣と同年代の少年少女といったカンジだったが、金色の髪に真紅の瞳、そして何よりも青白い肌という外見が人間とは大きく異なる特徴だった。
「ねぇ、その子たちってもしかして魔族なの?」
「ああ?」
問いかける拓臣に、ガラの悪い男が凄んでくる。
「失せろガキ、魔族が珍しいのかもしれんが商売のジャマだ」
「商売って?」
「売り飛ばすに決まってんだろ、買い手のアテはついてんだ。これからコイツらは娼館で客を取ってボロ雑巾のように使い捨てられるんだ。魔族のクズにふさわしい末路だろ」
そう言ってガハハと下品に笑う男。
拓臣は嫌悪感を抱いたが、かろうじて表情には出さなかった。
抱き合ったままこちらを見上げてくる魔人の少年と少女は兄妹なのだろうか、整った顔立ちが似ている。
「ねぇ、ちなみにその二人の値段はいくらくらいなの?」
「はぁ? もしかしてヤりたくなっちまったのかよ、若さってヤツか」
再び下品な笑いを浮かべる男。
「その気持ちワカランでもないが、オマエみたいなガキが払える額なワケないだろ」
そう言って男が呈示した金額は、市場の食糧や衣服と比較すると桁は違ったが、王国からもらった支度金から考えると余裕で支払える額だった。
「じゃ、その金額の二倍出すから、その二人僕に売ってよ」
拓臣は日本からずっと身につけている財布から、金貨を一枚取り出した。
ポカンと口を開ける男に向けて差し出してみせる。
「お釣りある? って、銅貨とかもらってもかさばるからなー ええい、こうなったらお釣りなしでいいよ」
「金貨って、お、オマエ、何者なんだ……」
「ホラホラ、お金渡すっていってるんだから、早くその子たち、こっちに渡してよ」
呆然とする男の頬に、グイグイと金貨を押しつける拓臣。
「あ、わ、わかった──」
男は拓臣から金貨を受け取って懐へと押し込み、代わりに魔人たちの足に繋がっている鎖の鍵を渡そうとした──瞬間。
──シュッ!
男は反対側の手で引き抜いたナイフで、拓臣に切りつけてきた──が、その刃は拓臣の首筋の遥か手前で光の障壁に阻まれる。
「こ、こいつは!?」
「あー、想像どおりというか、わかりやすいよね」
拓臣は腰の後ろに差していた短剣を引き抜き、素早く振るう。
──シュイン、ジャキンッ!!
剣から放たれた光の刃が、魔人たちの足の鎖を切断する。それを見た男の顔面に大量の冷や汗が吹き出した。
「騎士の力……なんでこんなガキ──って、まさか最近現れたっていう勇者!?」
へなへなと座り込む男を見下ろす拓臣。
「まあ、そんなとこなんだけど、あまり表沙汰にしたくないんだよね。せっかくお金弾んだんだから、そのあたり配慮してもらえるかな。もし、ダメだって言うんなら、こっちも考えないといけないけど」
そう言って、これ見よがしに短剣を突きつける拓臣。
男は激しく首を上下に振る。
「わ、わかった──わかりました! その魔族どもはあなたのものですし、このことは商人の誇りにかけて誰にも口外いたしません!」
「話のわかる相手でよかった。もし縁があってまた会うことがあったら、その時はよろしく」
拓臣が剣を収めることで安心したのか、男は愛想笑いを浮かべて頭を何度も下げつつ、この場からそそくさと去っていった。