第5話 王城の外へ
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降りしきる雨が、街を舐め尽くす炎を鎮めていく。
その街の中を彷徨いながら住人の死体を一人一人確認していく拓臣。
最初は埋葬するために街の広場に穴を掘ろうとしたが、一人分の浅い穴を掘るだけで半時近くの時間がかかってしまい、断念せざるを得なかった。
「……ごめん、みんな。安らかに眠らせてあげることもできなくて」
そう呟きながら歩く拓臣の足が止まる。
「リオンヌ……?」
それは青白い肌に金髪の拓臣と同い年くらいに見える魔人族の少年だった。
急いで駆け寄った拓臣が抱きかかえるが、血と泥に汚れた身体はすでに冷え切っており、胸の鼓動も完全に止まっている。
「リオンヌ、リオンヌ……」
拓臣の口から泣き声が漏れ、涙が数滴、少年の顔にこぼれ落ちた。
◇◆◇
クラスの方針を決めるホームルームが終わり、生徒たちは本格的に魔軍との戦いに向けて準備を開始することになった。
勇者の力は大きく三つにわけられる。
神器のうち『武器』を用いた近接戦闘、『魔杖』を振るう遠距離戦闘、そして、『指輪』で発動する回復系の力である。
話し合いの結果、それらの力ごとに役割分担が行われ、運動系の部活に所属する生徒を中心とした武器を扱う『攻撃班』、直接戦闘は苦手だが支援を担う役割の魔杖を扱う『魔法班』、戦闘から離れた立場で治療を担う『回復班』の三つに再編された。
また、それぞれの訓練とは別に、王国の武官や文官、神官による授業──異世界ノクトパティーエの政治や経済、文化などの講義も行われることとなり、日々の目標が設定されたことで、生徒たちの間に活気が戻り始めていた。
だが、拓臣はそんな生活に疑問を抱いていた。
「確かに勇者の力とかは面白いんだけどさ、このままだとこの国にいいようにこき使われるだけだって」
拓臣は相性がいいのか、ほとんどの武器や魔杖、指輪を器用に、しかも誰よりも強力な力で発現させていた。ただ、子供の頃からインドア派を自認する拓臣にとって、自分の運動能力が劣ることは否定できず、武器による直接戦闘には向いていないと判断したことから、魔法班に所属することを選んだのだ。
それでも、全体を通して今のところ生徒たちの中で飛び抜けた成績を示していた。
もっとも、そのことが逆にクラス内での孤立を強めることにもなったのだが。
そういう事情もあって、拓臣は生徒たちから距離を置いて、暇さえあれば王城を抜け出して城下町へと繰り出すという日々を過ごしている。
基本、安全確保という建前上、生徒たちの王城外への外出は認められていなかった。
だが、拓臣は勇者の防御の力の応用で城壁を飛び登ったり、高所から飛び降りたりすることがいち早くできるようになっていたこともあり、ゲーム感覚で警護の兵士達の目を盗んでは、城の外へと気軽にでかけていた。
「人がいっぱいでゴチャゴチャしてて、ちょっとウザイかな」
口ではそう言いつつ、興味津々といった態度を隠しきれずに、キョロキョロと視線をさまよわせながら市場の中を歩いて行く拓臣。
拓臣にとっては、アニメやゲームのような世界をリアルに体験できる場である。楽しくないわけがない。
このアレクスルーム王国は大陸東部を占める六カ国の中の盟主的立場にある。その国の王都ということもあって、広大な城下町は繁栄しており、市場を中心に活気に満ちていた。
だが、光があれば闇も必然的に生まれるものだ。
道に迷って裏町へと足を踏み入れた拓臣はそれを目の当たりにする。
「このうすのろども! これ以上余計な面倒をかけんじゃねぇ!」