第48話 クラーラフロス城前の戦い
拓臣が刃のムチを横になぎ払うたびに、熊鞍軍の兵士達が足や腕を押さえて倒れ込み、その上をイオランテス軍の魔族兵たちが容赦なく駆け抜ける。
多数の兵士で構成される軍隊の中から熊鞍がいる場所を探し出すのは困難なはずだが、その熊鞍が自分から派手に攻撃を繰り広げているので「自分はここですよ」と教えてくれているようなものだ。
「──もちろん、それはこちらも同じだからね」
拓臣は光の刃を空中に放つことを避け、胸から下の位置で水平に切り払うように撃ち出していく。
背後をパーピィに任せ、拓臣はイオランテスたちをともなって、突撃していく魔獣の背後から弧を描くように熊鞍軍の中を突破していく。
「たぶん、このあたりだと思うんだけど──」
左前方では熊鞍が魔獣との戦いを繰り広げているのだろう──勇者の力である光の刃がいくつも打ち上がっているのが確認できる。
だが、拓臣の狙いはその後方──そこには守りを固めた騎士の一団がいた。
「狙いどおりですぞ、タクミ殿!」
「ああ、ここからは一気にいかせてもらおう!」
その言葉と同時に、拓臣は自らにかけていた制限を取り払い、全力攻撃を騎士たちにぶつける。
──シュイン、シュイン、シュイン、シュバババッ、バシュウッ!!
「こ、これは勇者の力──!?」
拓臣が放った無数の光の刃を受けて次々と地面へと沈んでいく騎士たち、その中央にいたひときわ豪奢な鎧をまとった指揮官が驚愕の表情を浮かべる──いや、浮かべた瞬間。
──バシュウッ!
光の刃があっさりと指揮官の首を刎ねた。
「「「うああああああっっ!」」」
熊鞍軍に動揺が走る。
イオランテスが血に濡れた剣を肩に担ぎながらニヤリと笑った。
「これで我らの勝ちですな」
「城から魔軍が突撃してきます!」
パーピィが指し示した方向、クラーラフロスの城の門が開き、魔族兵たちが一斉に突っ込んでくるのが見える。
「フローラ様がお願いを聞いてくれたんですね」
「ああ、正直、城の兵を動かすのは簡単じゃないから期待はしてなかったんだけど、フローラのしたたかさはあなどれないね。もしかすると、クラーラフロスさんの力かもしれないけど」
喜ぶパーピィに同じような笑みを返す拓臣。
「この戦いの勝ちは決まった。だけど、僕の戦いはここからが本番だ!」
拓臣は、いったん目を閉じてから、ゆっくりと顔を上げる。
その視線の先には光の刃を無差別に放つ熊鞍と、同じように光の矢を手当たり次第に撃っている定洲の姿が見えた。
「熊鞍ァッ!!」
拓臣の叫びと同時に、光の盾が広範囲に展開され、熊鞍の光の刃と定洲の光の矢を一斉に弾き返す。
勇者の力と勇者の力、二つの力が激しくぶつかり合って衝撃となり、両軍の兵士を吹き飛ばしてしまう。
そして、そこに生まれた戦場の空白で対峙する三人の少年──
熊鞍が驚愕の表情を浮かべた。
「伊勢崎──!? オマエ、なんでここに!?」
「そんなもの、熊鞍──オマエたちがやってきたことのツケを払わせるために決まってるだろ!」
拓臣はそう言い切ると、指を立てて熊鞍の──勇者たちが率いる連合国軍が魔族にしてきた暴虐を数え上げる。
一つ、魔族の家族や部下を人質に取り、魔王姫たちを誘拐するような卑怯な策を講じたこと。
一つ、あげくのはてに約束を守らず人質を惨殺する凶行に及んだこと。
一つ、魔王城だけではなく、街や村も手当たり次第に襲い、戦う術のない子供や老人も含めて、奪い、殺しまくったこと。
一つ、城を攻略するにあたって罪のない魔族の民を捕らえ、公開処刑し続けたこと。
その拓臣の追求に一瞬怯みかけた熊鞍だったが、腕を払うようにして反論する。
「な、なんで、魔族の味方みたいなみたいなこといってるんだよ、オマエだって人間の勇者だろ!」
「僕は最初から勇者なんかじゃない──」
拓臣はギュッと手にした幅広の剣の柄を握りしめた。
「──僕は、魔族や人間が共存できる街、それだけがあれば良かったんだ!」




