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第3話 勇者の力

 騎士団長(きしだんちょう)の要請に応えて、生徒たちはジャージに着替えてから騎士団の訓練場へと移動した。

 宿泊研修用に持参していた荷物も一緒に転移したおかげで、下着などの着替えは洗濯を繰り返すことでなんとかなっているし、スマホなどの電子機器は一部の生徒が手動式や太陽光発電形式の充電器を持っていたこともあって、使用自体は問題ない。もっとも通信通話は圏外状態ではあるが。


「なんか、これはこれで宿泊研修ってカンジじゃね?」


 頭の後ろで腕を組んで楽しそうに呟く織原(おりはら)に対し、拓臣(たくみ)はウザイといわんばかりのため息を吐き出す。

 織原は学校内のイケメンランキング上位に座を占めつつ、さらにボクシング部に所属し、初の対外試合で圧倒的なKO勝ちを収めたりもして、その人気は学内にとどまらない。

 帰宅部でオタク気質な拓臣とはまったく正反対の性格なのだが、入学式の日、出席番号順で前後の席になったことがきっかけで、織原が拓臣にちょっかいをかけ、以来、行動を共にすることが多くなっている。


「さすがはボクシング部の若きエースさんですね、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だ」

「あ、さすがに今のはオレでもバカにされたってわかるぞ」


 拓臣は織原の抗議を軽く受け流し、あたりの様子を観察する。

 女子生徒たちはひとかたまりになって少し離れた場所にある観客席のような場所に隔離されていた。


「これより勇者の力について説明させていただく」


 騎士団長が高らかに声を上げると、何人かの騎士、いや、身につけている装備からして従士(じゅうし)といったところか、彼らが拓臣たち男子生徒の前にいくつもの武器を並べていった。


長剣(ロングソード)短剣(ショートソード)戦斧(バトルアックス)に弓……だけ、矢は? 他にも鎚矛(メイス)短槍(ショートスピア)って、モーニングスターまである」


 アニメやゲームの中に出てきた武器が実際に目の前にある、拓臣は思わず状況を忘れて食い入るように見つめてしまう。


「さすが詳しいね、オタク知識も役に立つものなんだね」


 いつの間にか隣に来ていた藤勢(ふじせ)が、何も考えずに手に取ろうとする拓臣の襟首(えりくび)を掴まえた。


「……ちょっ、なにするんだよ」


 その拓臣の抗議を無視して、藤勢は顔を上げて騎士団長に正対する。


「この武器はどういう意味ですか!?」

「まあまあ、落ち着かれよ。まずは、こちらをご覧あれ」


 騎士団長が合図をすると、今度は騎士二人が距離を取って向かい合うように対峙する。

 そして──片方の騎士が長剣を抜き、勢いよく振り下ろす。


 ──シュゥィンッ!!


 すると、剣の切っ先で光の弧が描かれ、刃となって、そのままもう一人の騎士に向かって放たれる。

 地面を削りながら突き進む光の刃、だが受け側の騎士は微動(びどう)だにしない。


「このままじゃ当たる──!!」


 男子生徒の誰かが叫んだ。女子生徒たちの間から悲鳴が漏れる。

 そして──


 ──キィィンッ!!


 突如、受け側の騎士を覆うように現れた光の障壁が、光の刃を澄んだ音とともに粉々に散らしてしまう。


「これが騎士の力と呼ばれる能力でござる。そして、この何倍、いや何十倍もの威力を備えた力が勇者の力なのですぞ」


 騎士団長が、じっと武器を見つめる拓臣の元へと歩み寄ってきた。


「それらは騎士の力を発揮することのできる武器、神器(しんき)と呼ばれるもの。試しに一振りしてみてはいかがかな」

伊勢崎(いせさき)くん……ダメ……!」


 女子生徒席から菊家(きっか)が叫んだが、拓臣の耳には届かなかった。

 拓臣はゆっくりと短剣に手を伸ばし、目の前まで持ち上げた。


「なんだろう……このカンジ」


 身体の奥底から何かが湧き起こる感覚、それが右腕を通じて握った短剣に注ぎ込まれる感覚。


「……!」


 拓臣は無言で短剣を振り下ろした。

 すると、先ほどの騎士が放ったモノより小さいものの、しっかりとした光の刃が描き出され、前方へと飛んでいく。


 ──バシイッ!


 沈黙の中飛翔していった光の刃が石壁に当たり光が飛散する。だが、壁には傷跡がしっかりと残っていた。


『おおおおおっっ』


 男子生徒たちと女子生徒たちの間から歓声が巻き起こった。

 拓臣でもできたのだからと、男子生徒たちは我先(われさき)にと武器を取る。


「俺もできた!」

「ちょ、その武器僕にも使わせてよ!」

「これ見て! 弓! こう引っ張ったら光の矢が勝手に出てきたよ!」


 騎士団長が満足げに胸を反らす。


「それで、こちらが守りの力を引き出す神器の指輪ですぞ」


 そう言って、手のひらに載せた様々な色に輝く指輪を一人一人にみせていく。


「守りの力は多少訓練が必要ですからな、こちらはまた後ほど──」

「ちょっとあなたたち、やめなさい!」


 見るに見かねた菊家が女子生徒席から駆け寄ってきた。だが、魔法のような武器の力に魅せられた男子生徒たちは耳を貸そうとしない。

 言葉を失い、肩で息をする菊家に、騎士団長が勝ち誇ったような視線を向ける。


「そうそう、武器の他にも遠距離からの攻撃や防御、あとは治療術などに変換できる杖もあります。後ほどご説明させていただきますが、そちらであれば女性の方々も扱いやすいかと。もちろん、ご希望の方には武器を貸与させていただきますが」


 キッと騎士団長を睨みつける菊家。だが、騎士団長は余裕の笑みを浮かべるだけだった。

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