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第2話 異世界ノクトパティーエ

 拓臣たくみたち、生徒たちの意識が大きく転換したのは、転移してからちょうど一週間後のことだった。

 彼ら生徒たちは、転移先のアレクスルーム王国の王城内西翼(せいよく)にある建物を与えられ、共同生活を始めていた。狭いながらも王国風の家具が設置された個室、現代日本の衛生基準には届かないものの十分に配慮された共同浴室とトイレなど、異世界で過ごすにあたって最低限以上の環境が整っていた。

 ちなみに、居住エリアの確保にあたって存在感を見せたのは、このクラスに同行していた教育実習生の菊家きっか 由梨枝ゆりえである。


「私には、このクラスの皆を無事に日本へ連れ帰る責任があります」


 そう毅然きぜんと言い放ち、三回りも四回りも年上の大司教だいしきょうやら、大臣やら、騎士団長とやらに負けじと、小柄な身体の背筋を伸ばして交渉にあたった結果である。


 アレクスルーム王国は、この異世界ノクトパティーエの中央に位置するサントステーラ大陸、その東部の連合国家のひとつということだった。

 アレクスルーム王国を含む主として人間たちが治める東方六カ国はそれぞれの特長をかし繁栄してきたのだが、そこに影を落としたのが、昨今、魔皇帝まこうていによって統一された大陸西部、魔帝領まていりょうノクトマーグの存在である。

 魔皇帝率いる魔軍まぐんは、その勢力を強め、東方六カ国への侵略を始めたという。

 すでに辺境地方では被害が深刻になりつつあり、早急に手を打たねばならないと、講堂の演壇えんだんに立つ大臣と名乗った初老の男性が興奮した面持おももちで生徒たちに檄を飛ばす。


「──で、僕たちにその魔軍と戦えっていうワケね」


 拓臣はフッと小さく笑った。本当に小説やアニメみたいな展開だな、と思うが、今度は口には出さなかった。

 最前列に座っていた菊家が冗談じゃないと手を振って立ち上がる。


「魔皇帝とか魔軍とかはよくわからないけど、この子たちを戦争に巻き込もうっていうなら、そんなこと許すわけにはいきません」


 キッパリと言い切る菊家。

 生徒たちの信頼に満ちた視線が彼女に向けられる。


「そもそも召喚された勇者だかなんだか知りませんが、この子たちは普通の高校生──子供たちなんです。それなのに戦争へ送り込むだなんて」

「それは違いますぞ、キッカ殿」


 横合いから騎士団長と名乗る、重々しい鎧を身にまとった壮年の男性が一歩進み出た。


「ここにおられるのはただの子供などではございませぬ、世界を救う特別な力を持つ勇者なのですぞ」


 生徒たちの間にどよめきが走る。

 男子生徒が一人立ち上がる。藤勢ふじせ 瞬司しゅんじ、どうやら彼がこのクラスのリーダー格として認められつつあるようだ。


「特別な力ってどういうことですか? 詳しく教えてください」

「藤勢君──」

「菊家先生、オレたちこのまま何もせずにいるわけにはいかないと思うんです。元の世界に戻してもらうことと、それまでの生活の保障──それに対する対価が必要になる」

「それだって、もともとこの国の人が勝手に召喚というか誘拐した結果なのよ」

「先生、それはオレたち側の理屈です。でも、ここは異世界なんです」


 横から大臣がうんうんと頷きつつ、口を挟んでくる。


「その御仁ごじんの仰るとおりです。我々としてもご協力いただけないとあれば残念ながら処遇を考えねばなりませぬ。今の生活を維持されたいのであれば、さきほどおっしゃった対価をいただかねばなりませぬな」

「よくもぬけぬけと──!」

「先生、落ち着いてください!」


 今にも大臣に掴みかかろうとする菊家を藤勢が手を横に出して制止する。

 不意に一番後ろに座っていた拓臣が問いかけた。


「ねえ、さっきから()()()()って言ってるけど、それって具体的にどんな力なの?」


 その問いに騎士団長が我が意を得たりという笑みを浮かべた。

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