第12話 虎人の女首領
リオンヌに野盗たちを押しつけて、一人、虎人族の女性──野盗の首領ミセロスの前に立ち塞がる拓臣。それを見たミセロスが豪快に笑う。
「アタイを倒すだって? アンタが? 面白いこと言ってくれるじゃないか──なら、こっちも容赦はしないよ!」
空気を切り裂くような音とともに、ミセロスの両手に持つ斧が二方向から拓臣に迫る。
「──よっ、と!」
拓臣は思っていたよりも自分が落ち着いていることに気づいていた。
ミセロスの斧は速くて迫力もある。だが、光の障壁『勇者の盾』の前では意味が無い。
──シャキィィン!
拓臣を中心として張られた光の障壁が甲高い音ともにミセロスの斧を弾き飛ばした。
「なんなんだい、その力は!?」
ミセロスの口から歓喜の声が漏れる。さらに斧を振るう速さが上がり、障壁へ叩きつけられるたびに光の粉が宙に舞う。
「今だ!」
拓臣は精神を集中して、障壁の強度を跳ね上げた。
次の瞬間、打ちつけられたミセロスの二つの斧が勢いよく弾かれる。その衝撃で飛ばされ体勢を崩すミセロス。
そこへ、拓臣は剣の切っ先をミセロスへと向け、反対の腕で下から軸がぶれないように支える。
「──はぁっ!」
──シュイン、シュイン、シュインッ!
拓臣の剣から複数の光の刃が放たれ、そのうちのいくつかがミセロスの斧に命中し、刃の部分を切り飛ばし、手から弾き飛ばす。
「ここまでだ!」
武器を失ったミセロスの首筋に剣の切っ先を突きつけ、拓臣が叫ぶ。
防戦に徹していたリオンヌを囲んでいた野盗たちが攻撃の手を止めて驚いたような視線を向けてくる。
ミセロスが小さく笑った。
「武器を奪って勝ったつもりかい? アンタみたいなひょろっちいガキ、アタイの拳で十分さね」
「別に反撃するならしてもいいけど、動いたら即、光の刃──勇者の力でトドメ刺しちゃうけどね」
「──勇者だって!?」
拓臣のセリフにミセロスの腕がダラリと落ちた。そして、愉快そうに笑い声を上げた。
「アハハ、そうか、その奇妙な力は勇者の力だったんだね。合点がいった。剣の扱いはシロウトに毛が生えた程度なのに、その力のせいで攻めきれなかった──で、その勇者様はアタイたちをどうするつもりなんだい?」
返事によっては捨て身覚悟で食らいついてやる、と目は笑っていなかった。それに気づいているのかいないのか、拓臣は剣を収めて変わらない口調で話しかける。
「うん、できれば君たちを雇いたいんだけどどうかな?」
「はぁ?」
「この村の護衛兼労働力として。報酬は衣食住の保証からってとこで」
呆然とする野盗たちとリオンヌを前に講義口調で説明する拓臣。
「えー、このあたりって君たちみたいな野盗集団の他に結構凶暴な魔獣たちも生息しているよね」
リオンヌが拓臣たちと魔帝領に入ってから、なんども遭遇した魔獣との戦い、とは言っても大半は逃げるしかなかったが──を思い出してげんなりとする。
「村人たちも一応武装しているけど、戦いが本職じゃないから、どうしても後手後手になって被害を増やしてしまう。そこで、君たちみたいな戦闘のプロフェッショナルを雇うことで、そのあたりを補いたいな、ということで」
村の安全度が高まれば、自然と人も集まる。それに近隣の街や村との食糧や物資の輸送にも護衛としてついてもらえれば経済活動の構築も可能になるし、村の外に拡がる豊かな森での狩猟や採取もしやすくなる。
ここ数日間の間、村の内外を見て回って拓臣は、この村を拠点に一つの実験をしようと考えていた。
──人間や魔族たちが共存できる街作り。
もっとも、まだリオンヌやパーピィにすら話してはいない。今の段階ではあまりにも突飛すぎて受け入れられないだろうから。
「君たちもどういう理由で野盗をやっているかはわからないけど、雇い主がいる方が少しは生活の安定度が上がると思うんだけど、どうだろう?」
その拓臣の提案に、ミセロスがクックックッと声を殺して笑った。
「正直、完全に受け入れたってワケじゃないけどね。とりあえず、しばらくの間はアンタの思惑に乗ってやってもいいよ。だけど、勇者のアンタがアタイたち魔族を利用し、滅ぼそうっていうんなら、その時は──」
スッと目を細めるミセロス、だが、拓臣はヒラヒラと手を振って受け流した。
「僕、勇者の使命とか魔族との戦争とか、ぶっちゃけ興味ナイから心配いらないよ」
そう言って手を差し出して、ミセロスの手を取った。
「とりあえずは、この街を発展させること。そのためによろしく」




