狼と頭巾のあの子
短編です。
完成してないです。
ちょこちょこ記載するので後書きに了って書いたら終わります。
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「おいッ!なにボサッとしてんだ!」
小さく強張った声の主は俺の頭をばしっと軽く叩く。
「いたっ!なんだよクードいきなり叩くなよ」
「狩りの最中にぼーっとしてるからだ、気を引き締めろ」
クードはそういうと目の前の泉でごくごくと水を飲んでいる猪を指差す。
「構えろ」
その一言で俺は背負っていた弓を構え弦を激しくしならせ、矢から指を離す。その刹那。後ろから息を飲むような短い悲鳴が俺の長い耳が拾った。
「ヒッ……」
ドッ!
発射された矢は猪の鼻先をかすめ、それに驚いた猪は泉に沿って逃げ、やがて森の中に姿を隠してしまった。
俺は振り返り、辺りを見回すが声の主は見当たらない。
「おい、何してる!猪が逃げたぞ!」
クードは肝心の一矢を外した俺に激昂している。そんな中的外れとは思うが確認せずにはいられなかった
「なあクード、今の悲鳴みたいな声……聞こえたか?」
「ああ!?何言ってんだお前?もういい、俺が追うからお前は何にもするな!」
チッと舌打ちをして役立たずがと一言残して猪の足跡を追っていく。
一人残された俺はもう一度辺りを見回す。
ふと、目が森の中で見慣れない色が目に留まる。
「白い……布?」
俺はそれを尖った鼻に押し当てすうっと匂いを覚える。
「あっちか」
一人そう呟くと俺はこの白い布の持ち主へ向けて走り出した。
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「どうしよう……」
汗を拭うため前髪をあげた時ふと気がついた。
頭巾を落としてしまったと。
「お母さんからもらった最後の誕生日プレゼントだったのに……」
振り返れば先ほどまで入っていた森、夕刻まではまだ時間がある。山菜もとりかけで叔父さんと叔母さんの三人で食べるにはいささか心許ない。
ぱっといってくれば大丈夫。
そんな言葉が頭を過ぎる。
そうだ、さっきの狼の亜人にも見つからなかったんだし、大丈夫。きっと大丈夫。
そう言い聞かせて元来た道を戻り再び森に入った。
* *
「ここらへん……だったよね?……ないか」
元きた道を辿りながら生い茂った小枝をかき分け山菜を探すがてら頭巾を探す。
「……あっ!」
しばらくしてあることを思い出した。
正午に差し掛かったころのこと、少し開けたところに綺麗な花畑を見つけたのでそこて昼食を食べていたことを。
「お願い……!」
一縷の望みを託して小走りになって花畑を目指す。
既に森に入ってからかなり経っている、白く輝いていた太陽は少しずつ朱に染まり、森には徐々に影が増していく。
小さかった不安は次第に大きく私を支配していき、いつの間にか両腕を胸の前に持ってきて身が縮まってしまう。
「はやく……はやく!」
小走りは駆け足に変わり、息は荒くうなじは冷や汗が滲んでいた。
そんな時突然視界から枝葉が消え、目の前に広い世界が見える。
「出た!確か……あっちの方に」
緩い傾斜を登りながら花畑を目指す。
ここになければもう、諦めるしかない。
お願い、と祈りながら頂上に出る。
そこには昼と変わらず一面に黄色い花々が広がっていた、だからこそ瞬時に分かってしまった。
「……ない」
覚悟していたことだった、だけどそれ以上に自分の不甲斐無なさが悔しくって情けなくって、目頭が熱くなる。
一気に襲ってきた疲労に膝から崩れ落ちる。
「お母さん……ごめん」
静かな森にひゅうと風が吹き抜け木々がざわざわと靡く。
そんな中一つの異音が後ろから聞こえる。
ざりっざりっ……と。
何かが近づいてくる。
やがて足音は大きくなるのと比例してフーッ、フーッと荒々しい鼻息とグルルと低い唸り声が聞こえて来る。
蓄積された不安は恐怖に変わりカタカタと歯は音を立て肩は震え始める。
気がつけば私は寮の掌を合わせ指を交互に組んでただ祈っていた。
怖い振り向くことが、今更ながら後悔が全身に降り注ぐ。
ふっと左の頬に生暖かい吐息があたりギュッと目を閉じる。そしてスンスンと私の匂いを嗅いでいるのか鼻を利かせている。顔が近いのか喉元からは聞いたこともない恐ろしい音が耳元で反響する。
ああ、わたし食われるんだ。
そう悟って私の体に虚脱感が走った、そして最後の時を待った。
痛くないといいな。
後ろに立っている化物は鋭く尖った爪を私の肩に置いて言った。
「あの〜すいません。この白い布貴方のですよね?」
「は?」
あまりに抜けた物言いに私は呆気にとられて振り返った。
そこにいたのは2メートルはある狼の亜人。二足歩行で厚い胸板に筋骨隆々な四肢。全身は体毛に包まれており正面は汚れのない真っ白に後背は深い青を背負っている。
私が呆けて目を丸くしていると、ピンと立った耳をピクピクと動かして私の顔を覗き込む。
「ありゃ?違ったかな?キミのものだと思ったんだけど……」
布を端をつまみひらひらと弄ぶ様を見てハッと我に帰る。
「そ、それ!私のです!か、返してください!大事なものなんです!お願いします!」
慌てて出した声は制御できなくて大きくなってしまった。それを聞いて目の前の狼は体を折り曲げて私に目線を合わせる。
「はい。もう落としちゃダメだよ」
そう言って私にそっと頭巾を握らせる。
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