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職業選択

  あれから4ヶ月たち、俺は明日で1歳になる。

 この4ヶ月で様々な事があった。

 まず、両親が死んだ。そして今は別の村に住まわせてもらっている。


 俺は無惨にも切り捨てられた両親の光景を思い出した。

 1ヶ月前の事だ。

 相棒と一緒に狩りに出かけ、ゴブリンたちの集落に帰ったら、人間達によって皆殺しにされていたのだ。俺の両親も、相棒の両親も。俺らゴブリンから見る人間は死体から耳をもぎ取っていく恐ろしい奴らだった。両親も他のゴブリン達もみんな耳をもぎ取られた状態で横たわっていた。

 残酷で強い。それがこの世界の人間という種族だった。


 だが相棒はゴブリンだからか、切り替えが早かった。すぐ自分が生きることに切り替えた。俺もそれを見習い、生き残る事だけを考えて今暮らしている村にたどり着いたのだ。




  毎日の修行を続けてたせいか、簡単な狩りには行かせてもらえるようになった。今いる場所はその村から出てすぐの森である。よく俺と相棒で狩りに出かける場所だ。


 すーっと集中して、周囲を見渡し、獲物の痕跡を探す。すると微かに茂みの揺れる音がした。俺は後ろにいる相棒となった親友と目配せをし、落ち葉や枝を踏まないようにしながら、茂みを奥を覗いた。


 いた。ウサギだ。3匹だ。


 俺は相棒に指示をだす。


「ギ」

 ――俺は左の2匹だ


「ギギ」

 ――了解


 そして飛びかかった。いくらウサギといえども俺らのスピードには敵わない。2匹の首根っこをひっ掴み、豪快にへし折る。

 ゴキッという小気味の良い音と共に、ウサギは息絶えた。


「こいつは太ってテ、いい晩飯になりそうダ」


 相棒が引き裂かれたウサギをぶら下げながら、にやついた顔で近寄ってくる。

 ウサギからは血が流れ、地面に血溜まりを作っていた。


「おい、血を垂れ流すな、魔物が寄る、お前は何度いったらわかるんだ」

「ヘヘッ、怒るなっテ、村も近イシ、何かあったら、大人が助けてクレル、ダロ?」

「……まぁな」


 こいつはほんと、毎回毎回、、

 俺は内心ため息をつきながら村に向かって歩き始める。

 そしてステータスを開いた。



 ゴブリン Lv.1  ランクG

 職業:未定

 HP:10/10

 MP:9/10

 攻撃力:3

 防御力:1

 魔法力:3

 俊敏 :3


 技能:夜目、ゴブリン語

 称号:耐える者


 そしてまたため息をつく。いくら修行してもここまでしか上がらなかった。こんなステータスで魔物に出会ったら間違いなく喰い殺される。もし人間になんて会ってしまったら、一瞬で切り殺されて、彼らの経験値にされてしまうだろう。


 ふつふつと人間どもへの憎しみが沸き上がってくるが、ぐっとこらえた。ゴブリンは仲間の死でメソメソしたりしない種族だ。


「はやく明日にならないかな」


 この世界では職業というものがある。職業はゴブリン達のリーダーから1歳になったら授かれるらしい。ステータスに大きな影響を及ぼす。剣士や魔術師になれれば優秀らしく、召喚士にでもなれたら英雄として扱われるらしい。何故ならゴブリンは最弱で、必然的に召喚されるモンスターはみなゴブリンより強いからだ。


 早く職業を授かりたい。MPがここまで成長するのは珍しいことらしい。魔術師になれるかもしれない。

 もしかしたら、ゴブリンライダー部隊を率いるような召喚士になれるかもしれない。

 ああ、本当に明日が楽しみだ。


「ギャ、ギャギャ、グギギ」

「お前、ナニワラッテンダ?」


 そんな会話をしてくると村の門が見えてきた。門の上には見張り台があって、ゴブリンが常駐している。俺らは見張りのゴブリンに向かって手を振った。すると俺らを見つけたゴブリンが手を振り替えし、なにやら村の中に向かって話しかける。

 すると木が軋むような音と共に、村の門が開き始めた。


 俺と相棒は1ヶ月前に、人間達によって滅ぼされた集落からこの村にやって来た。よく生きてたどり着けた、と今となっては思う。

 この村はいい。周りが崖で囲まれていて、出入口が1つしかなく、人間や魔物から襲われにくいのだ。そのおかげでこの村に住んでいるゴブリンは数百匹にも及んでいた。

 そして一番重要なのは、リーダーとなる村長がいるのだ。


 全てのゴブリンが職業を持てるわけではない、リーダーがいないと職業を授かれないのだ。リーダーは統率下のゴブリンの情報を見ることができる。年齢が解るのもそのためだった。そしてゴブリンを統率するのに優れた能力をもち、職業を授けるのだ。


 俺と相棒は村に入り、家に帰ろうとしてると道の奥の方から子ゴブリン達が走ってくるのが見えた。ゴブリンは成長が早く、1歳には大人の仲間入りできる。1歳未満は子供とされている。

 また来たか。

 そう思っていると、あっという間に囲まれる。


「マタ狩リ?」

「スゴイスゴイ!」

「僕ニモ食ベサセテ!」


 毎度毎度、狩りから帰ると子ゴブリン達が集まってくるのだ。

 まったく、周りでキーキー喚かれるとたまったもんじゃない。

 俺はせっかくのウサギを子ゴブリン達に投げた。


「そのうさぎやるから、少し静かにしとけ」


 そう言ってまた家に向かって歩き始める。

 すると相棒がニヤニヤ笑っていた。


「おい、何を笑っている?」

「お前、優しいナ、毎回子ゴブリン達の為に1匹多く狩ッテ」

「そういう訳じゃない、にやけるのやめろっテ! 」

「ギッ!」


 相棒がまだニヤニヤ笑っていたので頭をひっぱたいた。


 *


 少し道なりに歩くと八百屋が見えてくる。

 その向かいの草と木でできた平屋が俺と相棒の家だ。

 この村に転がりこんだ時からこの家に住まわせてもらっている。

 かなりボロいが、それでもありがたい。


「肉バッカ食ッテナイデ、野菜モ食エヨ」


 八百屋のゴブリンはこれが口癖だ。ゴブリンは雑食で何でも食べれるが、野菜より肉を好むゴブリンは多い。

 この中で野菜を売っているこのゴブリンはかなりの変わり者だった。


 野菜なんか食べたくないので適当に受け流し、家に入った。家には扉なんて物はなく、入ってすぐに寝床がある。寝床と言っても、草を編んで作った物だが。部屋の脇には台があり、相棒はそこにビチャッとウサギを投げた。

 奥には暖炉があるが、あまり火を起こすことはない。ある程度の寒さは耐えられるというのと、火を起こすと煙で村の場所がばれてしまうからだ。


 俺は寝床にどしんと座り込むと、ウサギを口元に持っていき、

 グチッ

 噛みきった。

 火を使えないということは基本的に生で食べることになるのだが、ゴブリンの胃袋は丈夫なのでお腹を壊したりすることはない。


「俺の職業何だと思う?」

「魔術師じゃないカ? MP多イシ」

「狩人だったらどーしよ」

「可能性アルヨナ、狩リシテルシ」


 基本的にゴブリンの職業で狩人は外れとされている。狩人は狩りに特化しているが、それは動物に対してで、魔物や人間相手だと力不足になってしまう。それに狩人になれなくても狩りはできる。


 ウサギをあっという間に食べ終えた俺達は、口回りの血を無造作に拭って、寝転がった。明日は1歳だ、楽しみだな。相棒もあと少しで1歳になるので、職業についての会話で盛り上がった。


 そしていつの間にか相棒が寝たので、俺も寝ることにした。


 *


「ギ」

 小さなあくびが出た。まだぼんやりする頭で木と葉でできた天井を見つめる。もう朝か、うん、まだ眠い。

 いつの間にか足元でぐしゃぐしゃになっていた枯れた葉、もとい布団を足で持ち上げ、胸元まで手繰り寄せる。


 はて、何か忘れてるような……


「……ギャギッ!!」

 慌てて飛び起きてボロ家の外に飛び出し、左右を交互に見る。村長の家までの最短距離はこっちか。


「オイ坊主、ドウシタソンナニ血相カエテ」


「1歳!」


 向かいの八百屋のおじさんが驚いた顔で話しかけてくるが、気が動転してろくな返事もできず目の前を走り抜ける。

 途中、何度か村の人達に話しかけられたような気がするが、そんなのに構ってる暇はない。


 村長の家の扉に飛び付きガンガンと叩いた。


「ほれほれ、そんなに焦らなくてもすぐ行くわい」


 中から出てきたのは、デカいゴブリン、ホブゴブリンだ。

 筋肉は落ちて、腰も曲がっているが、ゴブリンの上位種なだけはあって、威圧感は半端ない。

 そういや村長は昔、かなり有名な戦士だったらしい。


「ああ、そうだったね、君はもう1歳か、ほら、あがりなさい」


 村長の家と言っても、扉があるだけでほとんど俺の家と変わらなかった。入った瞬間に柔らかそうな草が積み上げられた所が何ヵ所かあり、さらにその奥には寝床があった。村長はその積み上げられた草にどしっと座ると、


「はてさて、じゃあ職業を授けようかの」


 と言った。


「え?もうもらえるのか?」

「なに、簡単じゃよ、わしがお主に触れれば、職業が選べるようになるでな、触れるだけじゃ」

「そんな簡単なのか」

「ゴブリンは成長が早いからの、魂の器も大きくなるのが早いから、職業も1歳で選べるようになる。器さえあれば簡単じゃ」

「ゴブリン以外、例えば人間どもは職業選ぶのは遅いのか?」

「...人間に興味があるのかの?興味はほどほどにしとくのじゃぞ?奴らは本当に恐ろしい。確かに魂の成長は遅いがの。」


 ほう、ホブゴブリンである村長ですらも恐ろしいのか、人間は。


「ほれ、そんな無駄話してないで職業選ぶのじゃ、ギャッギャ」


 笑いながら、素早い動きで俺の肩に触れる。

 一瞬俺の体が光る。


「ッ!光った!」

「ほれ、ステータスをみてみい」


 意外と呆気ないんだなと思いながらも俺はわくわくしていた。

 さて、ステータス



 ゴブリン Lv.1  ランクG

 職業:未定(魔術師、狩人、召喚士)

 HP:10/10

 MP:9/10

 攻撃力:3

 防御力:1

 魔法力:3

 俊敏 :3


 技能:夜目、ゴブリン語

 称号:耐える者



 え?まじかよ。

 穴があくほどステータスを見つめる。


「シッ、シッ、シッ」

「し?どうしたのじゃ?」

「召喚士ダァァァ!!!」


 俺は両手を地面につけて跳び跳ねた。ゴブリンが本当に喜んだ時にやる動きである。

 最高だ。召喚士になれるなんて。召喚士はゴブリンライダーがのる騎乗型の魔物を召喚できる。それだけじゃない、斥候型の魔物も、魔術を使える魔物だって召喚できる。召喚士が1人いるだけで、ゴブリンの村の戦力は数百倍になると言われてるんだ。

 これで人間に怯えなくてもいいかもしれない。


 俺は速攻で召喚士を選択する。


「まさか、わしの村から、召喚士がでるなんて、、」


 村長も口をあんぐりとさせている。

 まぁ見とけよ村長、どんどんレベルあげて、この村の守りの要になってやる。




 そしていずれは、あいつら、両親を殺した憎き人間どもを皆殺しにしてやる。


 *


 ダッシュで我が家に帰ると相棒はまだ寝ていた。


「おい!起きろ!」


 相棒の肩を掴んで揺らすと、相棒は鬱陶しそうに手を払い除けながら顔をしかめた。

 そしてそのまま寝ようとするので再度揺らす。

 観念したのか、目をパチッと開き、のっそりと上半身を起こした。


「もっと丁寧なオコシカタニシテクレ……で、ドウダッタ?」


 俺は顔をにんまりさせる。


「魔術師カ?ヨカッタナ!」


 相棒は本当に嬉しそうに祝福してくれたが、俺は何も言わずに更に顔をにんまりさせた。


「エ、マサカ、召喚士カ?」


 満面の笑みで頷いた。

 俺の様子をみた相棒は口をあんぐりとあけたまま固まった。

 しばらく相棒が話し始めるのを待っていたが、らちが明かないので俺から話しかけることにした。


「本当ニ召喚士になったよ」

「……スゲェ、こんな身近ニ召喚士ガイルナンテ」

「これからどうすればいいんだ?」

「どうするって、召喚士ッテ今ハ何ガデキルンダ?」


 たしかに、と思い俺はステータスを見直した。


 ゴブリン Lv.1 ランクG

 職業:召喚士

 HP:10/10

 MP:19/20

 攻撃力:3

 防御力:1

 魔法力:5

 俊敏 :3


 技能:夜目

 召喚:不明

 称号:耐える者


 改めてステータスを見ると、召喚士を選んだことにより、MPと魔法力があがり、技能の他に召喚の欄が増えていた。


「召喚の所が不明になっているな」

「まだ召喚は出来ないってコトカ?」

「そうみたいだ」


 俺はがっくりと肩を落とした。これでは最弱の魔物のゴブリンのままだ。


「なぁ、レベル上げてイケバ、召喚デキルヨウニナルンジャナイカ?」

「そうだと思う」

「ジャア早速行コウゼ、レベル上ゲニ」

「そうだな!」


 俺は気を取り直し、レベルをあげに村の外へ向かうこととする。

 狙うはスライム。ゴブリンと同様、最弱の魔物と言われる種族だ。


 床に無造作に置いてある狩りに使う棍棒やナイフを拾い、家から出ようとすると、何やら外に沢山のゴブリンが集まっているのが見えた。

 何事かと家から出ると、大喝采を受けた。


「オメデトウ!」

「坊主!スゲェナ!」

「スゴイ!スゴイヨ!」

「コノ村ニ召喚士ガ出ルナンテ」

「コレデコノ村ハ安泰ダ!」

「アリガトウ!」


 まだ村の為に何もしてないのに、感激されたり感謝されたりした。俺は英雄にでもなったかのような気分で、観衆の中を笑顔で通り抜けた。今となってみれば、この頃から調子に乗っていたのだと思う。

 本当にこの村の英雄になろうと思っていたのだった。


「レベル上ゲ、頑張ロウ」


 俺は相棒と目を会わせると頷いたのだった。

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