狩り
「ラスト!私進化するね!」
それは2匹目の牛の魔物を倒した直後だった。
「え、もう?」
と言った時にはピスカは地面に着地して寝てしまった。フェアリーはランクGだし、レベルが上がりやすいのかもな。そういえば他の奴の進化は始めてみる。特に光輝いたりしないのか。
「こっから数時間はかかるぞ、どうする?」
セイブルが聞いてくる。
「わかってるよ、狩りの続きしたいんだろ?」
ああ、と言ってセイブルはニヤリと笑った。
*
ピスカを馬車に運んだ後、俺達はまた牛の魔物達の前まで来ていた。
俺は隣でわくわくしてるセイブルの顔をみた。
「んで、【挑発】がないのにどうするんだ?」
「普通にいく。」
ん?
俺は弓矢を構えるセイブルをじっと見ていた。
え、まじ?
放たれた弓矢は牛の魔物のこめかみに突き刺さる。
「ブォォォオオオッ!」
牛の魔物は恐ろしい悲鳴をあげ、身体から湯気を放出し、ギョロギョロの攻撃してきた主を探し出した。
その様子をみた周りの牛の魔物達が一斉に湯気を放出し、興奮し始め、一緒になって周りを見始めた。
俺とセイブルとニンゲンは草原に伏せていた。
「お前、まじか、馬鹿なのか?」
「燃えてきたな。しかし、こめかみに矢が刺さってもしなないとは、狩りのしがいがある。」
「セイブルさん?」
だめだこりゃ、完全に狩りのモードに入ってやがる。
昔から狩りが好きなやつだったけど、ここまでヤバイやつだっけ。
とにかく、このやばい状況を乗り越えなければ。
剣士を大量に召喚して不意をつくか?
いま俺が召喚出来るのは、さっき2匹目の魔物を倒したときに4体出したから、あと5体の剣士だけ。対して牛の魔物は恐らく50はいるな。運良くレベルアップしてMPを回復しても、数が違いすぎる。
あ、これ無理だ。
するとセイブルが唐突に駆け出した。
「え?」
*
【セイブル視点】
俺は久しぶりの狩りに心を踊らせていた。ウサギ狩りとかではない、この極限の戦い。自分が研ぎ澄まされていく感覚。
この感じだ。
この感じが俺を更に強くしてくれる。
俺はちらっとラストを見た。ふっ、焦っているな。安心しろラスト、お前は俺なんかより全然強い。
が、俺も負けてられないな。
そう思った時には体が動き出していた。
ついつい笑みが溢れてしまう。
こめかみに矢が刺さっている牛の魔物に狙いを定める。
弓矢を3本連続で放った。
3本とも両目を狙ったんだが、片目にしか当たらなかったか、まだまだだな俺は。
幸い片目には刺さったので、塞がっている目の方から駆け寄り、ナイフで喉を切り裂く。
残り49体。
瞬時に隠密を発動、少し離れた牛の魔物に対し、弓矢を放つ。
多くの牛の魔物は、突然暴れだす仲間に気をとられるが、流石に俺の周りの奴らは気付くよな。
【輪】
俺に気づいている牛の魔物、4体の足全てに罠を張り突進されないようにした後、動けなくなって驚く魔物達に尽きるまで矢を浴びせる。
そのまま2体の間をすり抜けるついでにナイフで切りつけ、包囲網を抜けた。
抜けた先で1体と目が合ってしまうが、突然現れた剣士5人が牛の魔物を切り刻む。
「流石だ相棒。」
残り48体、瀕死が4体
俺はまた隠密を使った。
瀕死の奴らは放っておいても死ぬ。
せっかく剣士が暴れてくれてるんだ、まずは影に隠れ、場を荒らそう。
俺は狩り場を駆け出した。
何体もの牛の魔物に気づかれるが、気付かれた時には足を切り、仲間の巨体の影に隠れて隠密を使う。
剣士が2体に減った時、更に9体の剣士が召喚され、1体の魔物に斬りかかった。
「レベルアップしてMP回復したか。」
剣士たちは牛の魔物を瞬時に殺すと、バラけて戦い始めた。
いい感じに場が荒れてきたな。
見渡すと、足を切られ思う存分走れない牛の魔物達が、倒れたり、剣士と戦ったり、俺を探して周りを見渡してたりする。
狙うはもちろん、倒れてる奴。弱っているものから狙うのが狩りの常識。
俺はさっと身を翻して、牛の魔物の上に飛び乗ると両手で頭にナイフを振り下ろす。絶命したのを確認すると、次の倒れている魔物へ行く。ついでに剣士と戦う魔物の後ろから足を2回切りつけ、その場から離れた。
少し足がもつれた。集中しろ俺。
残り42体、軽症多数。
更に倒れている牛の魔物を仕留める。
残り41体、軽症多数。
駆け出す。次の獲物に向かって。
腕がしんどくなってきた。足も重い。
視界がぼやけてくる。
だが、楽しい。
俺は近くの牛の魔物の死骸に突き刺さっている矢を引き抜くと、ナイフを持っている右手とは逆の手で持ち、構えた。
使える武器は何でも使おう。
よく見ると、ナイフも矢も血と脂でまみれていた。
じっと見つめたあと、
俺はそれを口元に持っていき、舐めとった。
あぁ、美味い。
すーーーっと視界が晴れていく。
舐めとった血と油が俺の体を活性化させていくのがわかる。
極限まで研ぎ澄まされていたと思っていた感覚よりも、更に先があることを分からさせてくれる。
そして俺はその領域に足を踏み入れた。
《特殊技能【無我の境地】を手にいれました。》




