ローゼンベルグへ
妖精の国から出発して2日がたった。今もまだ森の中である。特に魔物に襲われることもなく、代わり映えのない景色を歩いていたが、今日になって徐々に木が細くなってきたような気がする。そろそろ森の出口が近づいているのかもしれない。
「さて、どっちにする?」
俺はウサギを生で頬張りながら、同じくウサギを食しているセイブル、ピスカ、ニンゲンに問いかける。ちなみにピスカとニンゲンはウサギを焼いて食べている、軟弱な奴らだ。
妖精の国を出てから何度もこの話を繰り返してるためセイブルはもううんざりというような顔をした。
「やっぱり俺は山を抜けた方がいいと思う。俺とラストがどうやって人間の街に入るのだ。」
うむ、やっぱりセイブルは意見は変わらずか。
「私は人間の街を抜ける方が確実だと思う。山はAランクやBランクなどの危険な魔物で一杯だと妖精達が言っていたではないか。我らでは山の中腹にも辿り着かずに死ぬのが関の山だ。」
ニンゲンの言うことも理になかっている、ムカつくがな。
ピスカの意見は、、聞かなくていいか。
「なんでよ!聞いてよ!私は人間の街を通るべきだと思うの!」
「ほう、理由は?」
「美味しいもの沢山食べれるよ!」
やっぱり聞く意味はなかったな。
「話をまとめるとするか」
北の大地に居るとされている魔王を倒しに行くには、3つのルートしかない。人間の街"ローゼンベルグ"を通るか、山を越えるか、海上を行くかだ。
今俺らがいるこの森は大陸の南側にあり、この森と人間の街、そしてドワーフの街を大きな山々が囲んでいる。ローゼンベルグはこの山の囲いの門として存在する街なのだ。
ローゼンベルグを通り抜けるのが一番楽だが、何せゴブリン2匹と妖精1匹いるし、かといって山を抜けるのには強さが足りない。海は船が無いので論外だった。
「俺としては人間の街なんぞに入りたくはないがな、滅ぼしたくなってしまいそうだ。」
「山にはCランクの魔物がごろごろいるんだぞ?Eランクの我々では歯がたたん。」
「どーやってローゼンベルグに入るつもりだ?」
「それは……」
いつもこの話になって結論が出ずに終わってしまうのだ。俺としては山でレベル上げをしながら着実に進んでいく手しかないとおもうが、確かにCランクの魔物がどれだけ強いのかもわからないのは危険だ。Aランクにでも出会ったら睨まれただけでも死んでしまいそうだ。
「ねーねー。ゴブリンじゃなくなればいいんじゃないの?」
「おい、ピスカ黙れ。」
また何かピスカが言ってるが、いや、待てよ。
「まさかお前の幻惑魔法でうちらの姿を変えられるのか?」
「ん?どーゆーこと?」
きょとんとした顔で見てくるな、殴りたくなるだろ。にしても、ゴブリンじゃなくなるかぁ。いけるか?
「少し思い付いたことがある。」
俺は自分の思い付いた作戦を話した。
「無茶だ、バレたらどうするつもりだ。」
「そうしたら村人を盾ににげるさ。」
「私はその作戦で賛成だ。だから肝心のものをどうやって奪う?」
「そんなの当たり前だろ。」
*
1週間後、森の外れにて。
「あのー、すいません。」
「ん、どうしたんだこんな所で。」
ボロボロの洋服を身にまとった老人が、通りかかった荷馬車を呼び止めた。馬車の主は、こんなところに村なんかあったかなとほんの一瞬眉を潜ませたが、商人としての職業病か、すぐに笑顔にもどった。
「……」
「なんだい、申し訳ないが僕も急いでいてね、呼び止めたのなら何か用件があるのではないか?」
「……」
「何もないのなら、私はこれで失礼するよ。」
と言いながら荷馬車を走らせようとするが、村人が無言で前に立ち塞がる。
「ちっ、何だってんだ! どかねぇとひいちまうぞ!」
商人は盗賊の一味なのかと思い、村人を引く勢いで走らせるが、村人は引く気配を見せない。
「おいおいおいおい、まじでひいちまう!」
商人の叫びも虚しく、村人は無惨にも無抵抗のままひかれた。
商人は慌てて馬車を止めて村人の死体まで駆け寄る。
「ちくしょう、まじでひいちまった、何で避けねぇんだよ、どうしよう、逃げるか、ここなら誰かを殺してたってバレたりしないはずだ。」
そこには最初の商人の笑顔はなく、焦燥にかられたただの人間になっていた。
ガタッ
「え?」
荷馬車の動き出す音を聞き、慌てて音源を見ると、そこには勝手に動き出している荷馬車がみえた。
「ま、まて!俺の商品だ!」
どんどん離れていく荷馬車を追いかける商人が見たのはあり得ない光景だった。
それは荷馬車の荷台から顔を出して残忍な笑みを浮かべたゴブリンがこちらに手を降っていたのだ。
「じゃあな、おっさん、せいぜい野垂れ死ねよ。」
「ご、ゴブリンが、話した……」
商人は呆然と離れていく荷馬車とゴブリンを見つめていた。
*
「ち、あいつを殺して奪えば簡単だったのに。」
「ラスト様、無闇に人を殺すのは良くないことです。有力な人物だったら追っ手が来てしまうかも知れないじゃないですか。」
「あー、はいはい。とにかく、やっとつくのかローゼンベルグに。」
俺はなるべく早く通り抜ける事を考えながら荷馬車を操る村人の背中をベチンと叩いて急かしたのだった。




