妖精の国の王
そんなこんなで、世界を守ることになってしまったわけだが。
「どうしよう」
俺らは妖精の国の広間で途方にくれていた。
あの後、
「魔王は北にいるでな。ああ、それと、この事は内密に頼む、魔王に伝わったら終わりじゃ。」
とだけ言い残して森の精霊はどこかへ消えてしまった。北に向かおうにも、北のどこかもわからないし、先の見えない状態で旅に出るのは怖い。なにせゴブリン2匹と妖精1人のパーティーなんてそこらの魔物にやられてもおかしくない。
「このままここにいても仕方ないしさ! とにかく出発しようよ!」
「ラスト、ここは慎重にいくべきダ、敵は魔王だけじゃないんだゾ」
ピスカとセイブルの意見は対立していて、ニンゲンは主人についていくとしか言わない。確かにセイブルの言い分もわかる。俺らの敵は魔王だけでなく、人間もなのだ。
「ギィ……こういうのはどうだ? 旅には出るが、レベルをあげる機会があったら積極的にレベルをあげながら進む。皆がどのくらい戦えるかも把握しときたいしな」
セイブルは難しい顔をしながらも、納得した様子で頷いた。
「よし! じゃあさっそく出発しようよ!」
ピスカが嬉しそうにぐるぐると飛び回る。
「いや、その前にピスカはやることがある」
「え? なに? まさか私にやらしい要求をするんじゃないでしょうね!!」
信じられないものを見るような顔で俺を見てくるが、相手にするのも馬鹿らしいのでスルーする。
「お前まだ両親に旅に出ること言ってないだろ?」
「げっ」
ピスカは心底嫌そうな顔をしたのだった。
*
妖精の国の王に会いに俺らは国の中心に向かって歩き始めた。国といっても、妖精のサイズでの話なので、歩いて数分もすれば王の住んでいる木についてしまうだろう。
「やだやだやだぁぁぁ! 離してよぉ!」
ピスカは余程嫌だったのか、幾度となく逃亡を試みたが、その度にセイブルに捕らえられ、今は俺の手のなかに収まっている。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「えー。絶対怒られるもん」
呆れた。
たったそれだけでこんなに逃げようとするものなのか。
「急に居なくなったら親が悲しむゾ」
「そんなのはわかってるもん」
ふと今の自分の台詞が、そのまま自分に当てはまるような気がして、それを人間への憎しみで押し潰した。醜く産んだのが悪い。
ピスカはお姫様だ、地球の頃の俺とは違う。
にしても、ピスカと両親の間に何かあるのだろうか?
いつも怒られてるから嫌になってしまったのだろうか。
「あーあ、ついちゃった」
色々考えているうちに、着いたようだ。他の木よりは一際輝き、そして立派な木だった。王が住むにしては質素な気もするが、おっと、そんなことを思っているうちに、中からぞろぞろと兵士たちが出てきた。
「うむ、戻ったか、もう観光は終わったのか?」
口髭を生やした妖精が前に出てきて言った。
「終わった。精霊の頼みで旅に出ることになった。ピスカも連れていく、王に会わせてくれ」
俺は簡潔に言うと、ピスカを離した。ピスカはぶるりと身体を震わせると、ぶーんと眼の高さまで飛んできて、そのまま俺の頭に座った。
「は? ピスカを連れていく? そんなの王が許すわけが……」
「精霊の頼みでもか?」
口髭の妖精はなにやらパニックになりながら急いで王の元へ戻っていった。確かに、急に現れたゴブリンと人間が王の娘を連れて旅に出るとか言い始めたらパニックにもなるか。しかも精霊の頼みだ。にしても、ピスカの王はどのような感じなのか。
ピスカに似てたりして。
「来た」
ポツリとセイブルが呟いた。木の入り口をじっと見ると、奥から妖精が3人出てくるのが見えた。
あれが王と王女か。王は意外にもすらりとした体つきで、肩から緑色のマントをなびかせていて、手には杖をもち、厳格そうな顔に、長い白髪は後ろで束ねていた。
王女はふくよかで、茶色のマントに優しそうな顔、髪の毛は頭の上でお団子になっていた。
王は魔法使いなのか?妖精のメインの武器は針だと思っていたが。どちらにしよ大した魔法は使わないだろう。王女の方は戦闘能力は無さそうだ。
すると、ぶんぶんと飛び回っていた妖精達が一斉に地面に降り立ち頭を下げた。つい釣られて頭を下げてしまった。
「面を上げよ」
しわがれた低い声でそう言われ、顔をあげるとそこには王が飛んでいた。
いつの間にかこんなに近くに来てたのか。飛んでる音すらしなかった。
そういえばマントを羽織っているのになんで飛べているんだ?
そういう魔法なのか?
羽は無いのか?
なにやら違和感を感じる。何かとてつもない違和感だ。小さな体なのに大きく見える。見られている。王から眼を離せない。吸い込まれるようだ。体が硬直して動かない。気づくと、身体は震え、冷や汗をびっしょりかいていた。
なんだこれは、俺は怯えているのか?
妖精ごときに?
「人間語を話すゴブリンよ、うちの娘を旅に連れていくと聞いたが?」
「……ああ、連れていく」
なんとか返事をした。
王の言葉がビリビリと俺の脳を揺さぶってくる。
「おい! 貴様! 王様になんて口のききかたを!」
「よい」
口髭の妖精が飛んでこようとしたが、王が片手で制した。
「何故だ」
「……精霊に頼みごとをされた、それにスピカが付いてきたがった」
「本当か? スピカ」
「う、うん」
「頼みごとをとは何だ?」
「それは、言えない..ツッ なん、だ、」
突然自分の体重が何倍にもなったかのような重圧を感じ、倒れそうになる。
息がしずらい。意識が朦朧としてくる。
「言えないだと? 我が娘を連れていくというのにか?」
「ッ、せい、れいに……」
「もうよい」
もうだめだ……苦しい……
「この程度の実力で娘を連れていこうとは、精霊様も何をお考えなのか」
俺は意識が消えゆくなかで、王の実力を見誤っていたことを悔いていた。
*
目の前には樹々が絡まりあっていて、その隙間から青空が輝いていた。
「おはよう! ラスト!」
目線をお腹の方に向けるとピスカが両肘をついて寝転がっていた。俺の腹にだ。
「どけ」
「ちょっ!」
指で弾き跳ばそうとしたが、逃げられてしまった。にしてもあの後どうなったんだ、俺はあのままずっとここに倒れていたのだろうか。
「ラスト、起きたか、災難だったナ」
黒いゴブリンが歩いてきて、俺の横の地面にべたんと座った。
「で、何で倒れた?」
「お前は感じなかったのか? あの重圧を」
「重圧?」
どういうことだ?
あの威圧感は俺だけに向けられていたのだろうか?
「あれは殺気だよ!」
ピスカがぶーんと飛んできてセイブルの頭に止まった。
「お父さんいつも言ってたよ、私の殺気に耐えられないやつには娘はやらん! って!」




