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精霊の願い事

 ピスカを掴んだ森の精霊は息を荒くして言った。


「ハァ、ハァ、可愛いのぉ、可愛いのぉ」


 ん?


「も、森の精霊様、もっと優しくっ」

「たまらん、たまらんのじゃぁぁあああ」


 そう言い、恍惚の表情を浮かべながら、ピスカを頬っぺたに擦り付けてすりすりし始めた。


「可愛い、妖精て何でこんなにも可愛いのじゃ」


 今度はピスカを正面まで持ち上げると、ぎゅっと抱き締める。


「ぐぇっ」

「もう、もうだめじゃ! 可愛いのじゃ! たまらん!」


 とうとう地面に転がって横向きになりピスカをがっちりと抱き締めたまま動かなくなった。


 俺は状況が全く飲み込めず、唖然としながらそれを見ていた。


 *


 誰も喋らない気まずい空気が10分間続いた。


「さて、そろそろ帰るかの」


 まるで何事も無かったかの様に立ち上がると埃を払うような仕草をする。同時に俺達を拘束していた蔓から解放された。


「お、おい! 待ってくれ! あんたはいったい……」

「ん? 私は森の精霊じゃが?」

「敵じゃないのか?」


 森の精霊はきょとんとした顔をしたあとに、楽しげに笑い始める。


「なんで私が敵なのじゃ、森で産まれた全ての存在は私の息子同然じゃぞ」

「だってあんたは俺達を攻撃してきた、」

「先に攻撃して来たのはそっちじゃ、それに私の可愛い妖精達を守る為の結界の花に触れたのもそっちじゃ」

「妖精が可愛い?」

「そうじゃ、可愛かろう? 妖精を見た瞬間から私はこの種族を絶対守り通すと決めたのじゃ」


 なんてこった

 この戦いは何だったのだろうか、森の精霊はただ妖精が可愛いから好きで、守るために来ただけだったなんて。


「そ、そういえば魔眼てなんなんだ?」

「特殊な眼じゃよ。素質があるものと無いものがいるがの」

「俺には魔眼の素質があるのか?」

「そうみたいじゃの、何の魔眼かはわからぬが」


 あの金色に光る眼みたいなものを俺にも使えるというのだろうか。

 あの何でも見通せる眼を。


「どうやったら使えるんだ?」

「何て言ったら良いのかのぉ、眼をぐっとするんじゃ」

「眼をぐっと……」

「こうぎっと睨んで、集中するんじゃ」

「ぎっと睨む……」


 あ、この人教えるのが下手な人だ 。


「そういえばお主ら面白い能力持っておるからの、私の願いを頼むのも面白いかもの」

「願い?」

「うむ、願いじゃ」


 森の精霊は真剣な眼差しで俺を見た。





「世界を救ってはくれぬか?」





 ―――――――は?


「うむ、世界ではないかの、この自然を守ってはくれぬか?」


 ―――は?


 冗談なのかと思っていたか、精霊の顔は真剣そのものだった。

 話だけは聞いてみようと思った。


「どういうことだ?」

「森の精霊は森を出ることが出来ないが、他の森と連絡をとることはできる」


 精霊は語り始めた。




「魔王が誕生したのじゃ」



 話は簡単だが信じられない内容だった。魔王と言われるものが誕生し、魔物達を束ね始めた。人間はそれに対抗するため部隊を結集させているが、力を合わせた魔物を止めることは出来ていないという。人間達は魔王に対抗するため、兵器を造り始めた。


「その兵器とやらが自然を破壊するのか?」

「どうやらそのようじゃ、実験に使われたと思われる地域一帯から魔力が吸いとられ、森は死したと聞いておる」



「魔王を止めれば兵器は造られないんじゃ」



 精霊はそう言いはなった。


「兵器を破壊するのではだめなのか?」

「最初は森で製造していたらしく、森の精霊が止めに入れたそうだが、もうどこで製造されているのかわからぬのじゃ」

「お前以外にも森の精霊はいるんだな」

「当たり前じゃろ?」


「魔王は魔物の味方ではないのか?」

「実際はわからぬ、だが人間を止められないのなら魔王を止めるしかあるまい。」


 なにやら凄く期待をこめた顔で俺の事を見つめているが、正直言うと無理だ。

 助けてやれるのなら助けてやりたいが、なにせその力がない。

 俺は申し訳なさそうな顔をして言った。


「悪いが他をあたってくれ」

「……そうか、そうじゃの、話を聞いてくれただけでも良いのじゃ」

「たかがゴブリンには魔王を止めることなんて出来ない」

「そうじゃの」


 森の精霊は凄く悲しそうな顔をしながらも微笑んだ。


「このぉぉぉぉおおおお!」


 突然、怒鳴り声が聞こえてきて後頭部にチクッとした痛みが走る。


「ラストの馬鹿野郎! ほっといたらこの森が無くなっちゃうんだよ! 森がなくなったら精霊様も妖精達も、ほかの動物達も死んじゃうんだよ!!」


 チクチクと針で後頭部を刺しながらピスカは続けた。


「私は行くよ。魔王を止めに。この森が好きだし、妖精達を守りたいもん」


 そして俺の正面まで飛んできて、泣きそうな顔で言った。


「ラストはこの森が好きじゃないの?」

「好きだが……好きなものはほとんど人間が奪っていった……両親も、村のみんなも」

「でも好きなんでしょ? 他のゴブリン達も同じ気持ちを味わうんだよ? それでもいいの?」

「それは、それは駄目だが、俺はゴブリンだ、魔王なんて止められない」


 そうだ。自分はただのゴブリンで、自然を守るなんてそんな大きな事は俺には出来ない。

 他の、もっと力を持った奴が止めてくれるのを祈るしかない。

 ふと、ピスカが夢を語ったときの事を思い出した。


 むしろ小さいやつが大きい事をした方がかっこいい……か。



「ラスト様、私もいますよ、私以外にもセイブルだって。」

「俺はラストの決定に従う、魔王と止めるとなってもついていくサ。」

「私だって只の妖精だけど、立ち向かうよ、私だけでもね、けどラスト達が居てくれたら心強い。」

「召喚士のゴブリン、私からも頼めないか、そなたたちの特異性にかけたいのじゃ。」


 みんな俺の方を向いて、俺の言葉を待っていた


 くそっ


「やるよ。」


 みんなパァと明るい顔になる。

 セイブルも満足げに頷いていた。


「だが、これだけはわかってくれ、俺はゴブリンだ。成功する確率は極めて低い。俺以外の奴らにも頼んでくれ、他の森のやつらにも。」

「もちろんじゃ。」


 森の精霊は俺の方まで歩いてきて、両方の手を握って言った。


「では頼んだぞ、この森を守るのはお主らじゃ。」

「ギギ、任せとけ。」


 俺は照れ臭そうに返事をした。

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