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森の精霊

「てかあんたらも何者なのよ」

「真っ黒なゴブリンに、人間を召喚するゴブリン、普通じゃないわ」

「確かにセイブルは新種だな」


 そんなこと話していると、あの不思議な木の前に着いた。

 近くで見てみるとかなり大きい。

 そしてやっぱり不思議なオーラを感じる。


「これがお前たちの城なのか?」

「んなわけないじゃない!ほら行くわよ! この国の名所と言ったらやっぱりここでしょー」


「いく?この木の中に?」

「え?うんー」


 と言いながら、ぶーーんと飛んで木の中に消えていった。


「ギッ!? 消えた!?」

「ピスカ!!」


 ニンゲンが急に飛び出して後に続く。


「行くのか? 俺の頭では木の中に消えていくなんて全く理解できないんだが、大丈夫なのか?」

「まぁいくしかないだろう、ピスカも平気な顔してたしな。」


 と言いながらセイブルと木に近づく。恐る恐る木に触れようとすると、そのまま通り抜けていく。なんかむずむずする感じだ。俺はそのまま思いきって顔を突っ込んだ。


「おお!!!」

「ギャギ!?」


 隣でセイブルが驚く声がする。

 眼前には蔓で覆われた暗い空間が広がっていて、中央には巨大な花が咲いていた。

 暗闇の中で赤く光輝くその花は神秘的で、どこか恐ろしささえ感じた。

 その花の手前でピスカとニンゲンは立ち止まっていた。


「ピスカ、この花は何だ?」

「この花はね、結界の元?みたいなもの。森の精霊様が作ったんだよー」

「凄いな、これを作るっていったいどうやるんだ。」


 俺は近づいてその花に触れようとした。


「あ!だめ!」


 ピスカが慌てて止めようとする。


「え?」


 俺は花に触れてしまった。


「…………何も起きないぞ?」

「あっれー?」

「全く、焦らせないでく....ッ!?」


 その瞬間、四方八方から蔦が伸びてきて、俺を空中に縛り付けた。力を入れても全く動かない。


「ラスト様!今助けます!!」


 ニンゲンが蔦を切ろうとするが弾かれる。セイブルは矢を放つがそれも弾かれた。ピスカはどうしようどうしようと焦りながらぶんぶん飛んでいた。


「ラスト様、待っててください、今助けますので!」


 ニンゲンが俺を縛っている蔦を何とか緩めようとするが、動かないらしい。

 セイブルがピスカを捕らえ振り回す。


「くそが。 おい妖精、あの蔦はどうすればいい!」

「わ、わたしゴブリン語まではわかんないよぉー」



 俺達はこれから起きることを待つしかなかった。



 *



 ズッ


 空気が急に重くなった。


「な、なんだこれは、息がくる、しい」


 光がどこからともなく集まり始め、それは次第に人の形を作っていった。


「森の精霊様だ………」


 ピスカが呟くように言った。

 森の精霊は髪の毛が草花でできていて、腰から下は植物の根のようだが、どこか優麗さを感じさせる優しい表情だった。だが優しげな表情とは裏腹に


 こいつには勝てない


 そう思わせるだけの力の差を肌で感じた。


「ほう、ゴブリンか、それはそれは、面白いの」

「あんたは、ングッ」

「黙れ、喋ることは許可してないのでな」


 森の精霊は目を向けただけでセイブルを蔦で縛り上げた。


「ん? にしても、黒いゴブリンか、珍しいのぉ」


 セイブルにゆっくりと近づいていく。

 顔を限界まで近づけ


「だが脆いな。結局はゴブリンよ」

「ングッ、ンッ、グッ」


 森の妖精が指でセイブルの肩から腹にかけてなぞるだけで、皮膚が裂け、血肉が飛び散った。


「セイブル! 森の精霊! やめてください!」

「人間?人間ごときが私に指図するのか?」


 空気が更に重くなる。

 ニンゲンはそれでも剣の切っ先を森の精霊に向けた。


「ラスト様とセイブルを離してください」

「ほう、その弱さで私に立ち向かうとは、根性だけは認めてやろう、根性だけはな。」


 森の精霊はニンゲンの方を見た。すると地面から植物の根が波打つように飛び出してニンゲンを吹き飛ばした。壁に激突したあと、壁の蔦に捕らえられて気絶した。


「うむ、この弱さで私の結界を抜け、しかもこの領域に踏み込める訳がないのぉ」


 森の精霊はちらっとピスカを見る。ピスカはガクガクと震えて地面に降り立った。


「も、森の精霊様、ごめんなさい、私が中に入れちゃったの」

「ほう、妖精、それはつまりどういうことかの?」


 ゆっくりとピスカに近づきながら言う。


「ど、どうっていうのは、その、木を斬るのを止めようとして、そしたら捕まっちゃって。」

「もうよい。」


 森の精霊はピスカの目の前に来て立ち止まった。

 そして両手をピスカに伸ばす。


 ――――――召喚


「ん?」


 俺は森の精霊の前後左右に剣を振りかぶった状態の剣士を召喚させた。


「これは面白いのぉ。ふむふむ、転移の魔法を使ったわけではなさそうじゃの」


 森の精霊は髪の毛の蔦を操り四本の剣を受け止めていた。

 そして、剣士の顔一人一人を見ていく。


「それに素早さが特別早いわけでも、素早さを上げる技能を持っているわけではない」


 森の精霊がふと顔をしかめた。


「ん? 名前がないのぉ、人間にしては珍しい」


 剣士達は剣を動かそうとするが、蔓が絡まりびくともしない。


「そういえばあの黒いゴブリンには名前があった、これまた珍しい。」


 そして、今度はニンゲンを見た。


「名前がニンゲンとな? なんの冗談じゃ?」


 さも楽しそうな表情を浮かべて、視線はそのまま俺の方へ向いた。ぞわっとする感覚と共に心の奥底まで覗かれているような気持ちの悪い感じがした。俺はその気持ち悪さから必死に抵抗を試みる。


「ほう? ゴブリンにしてはなかなか抵抗しよる。」


 では、と剣士達を髪の毛で薙ぎ払った後に俺へと近づいてきた。


「これではどうかの?」


 森の精霊の目が金色に光る。ガンッと頭を殴られたかのような衝撃のあとにまたもや心を無理矢理覗かれる感覚がしてくる。俺は意識朦朧となりながらも、気力のみで抵抗を試みた。


「ほほう! これは僥倖。まさかゴブリンに魔眼の素質を持つものがいるとは。」


 宝物を見つけたかのような顔で両手を広げながら俺の目の前まで来た。

 そして顔を近づけ、俺の両頬を包むように触る。


「だがその無駄な抵抗も終わりじゃ。」


 森の精霊は、一際明るく眼を金色に光らせると俺の顔から手を離した。


「ほう! まさかまさか! そんなことがあるとは!」


 両手を広げながらその場でくるくると回り踊る。


「召喚士、名前のない人間、転移の魔術の気配は感じなかった、そしてニンゲンという名前」


 そしてぴたっと止まり、俺の顔を見ながら言った。


「そなた人間を召喚できるのか?」


 *


「面白いのぉ、こんなに面白いことは滅多にない、大切にしたいものじゃ」


 そう言いながら、またピスカに近づいていく。


 ――くそっ


 俺はありったけの村人や剣士を召喚して抑えようとするか、全て蔓で防がれ縛られてしまった。


「も、森の精霊様っ、」


 そしてピスカは森の精霊に掴まれた。


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