森の妖精ピスカ
人間どもが去ったあと、緊張の糸が切れて俺たちは泥のように眠った。目覚めた時にはもう昼過ぎだった。あちこちが筋肉痛で、体がガチガチだ。
木を降りながら昨日の事を思い出す。
俺とセイブルが殺した人間を探しに、人間の部隊が森に入った。
それで追いやられたオーク達にゴブリンの村は滅ぼされ、村長が死んだ。俺が剣を拾っていたせいで、人間どもの捜索は続き、危うく袋叩きにされるところだった。
よく生きてたな。
誰のお陰かは考えないようにする。あの剣は村長が最後に俺を守るために使ってくれたもの。本当は持っておきたかったが。木から降りると、先に起きていたのか、セイブルが鹿を担いでいた。
どしんっと鹿を落とし、捌き始める。
「これからどうする」
「旅でもするか」
セイブルが聞いてきたので、俺は考えてた事を言う。
色んな所を旅して、成長していけたらいい。
「いいですね!旅!!」
上から声がしたと思ったらニンゲンが枝を使って飛び降りてきた。
「しましょう!旅!」
「朝からウルサイ」
「今はもう昼過ぎですよ!」
こいつ……
「まぁまぁ落ち着けってラスト。で、旅をするっていっても何か宛はあるのか?」
「ラストじゃない。昔から気になってたんだ。森の外には何があるのか」
「行きましょう!森の外へ!!」
俺達は鹿の肉をありったけ食べて、恐らく森の外に向かうであろう方向に歩き始めた。
*
あれから何日も歩き続けたにも関わらず、森から出れずにいた。
「セイブル、流石におかしくないか?」
「ギ、おかしい、同じところをぐるぐる回ってるような」
「あそこ、あの木、2日前にもあの木見た気がします」
確かにその木には見覚えがあった。
昔村長が言っていた。森には入ってはいけないところがある。迷いの森と言われていて、入ったら出てくるゴブリンはいないそうだ。
「迷いの森か」
「厄介だな」
「こうしてみますか」
ニンゲンが木を削って矢印をつける。
「これで来たことがあるかと、方向がわかります」
自信に満ちた顔でそう言ったのだった。
*
それからまた数日がたった。
俺らはもう精神的に限界が来ていた。
「で、何かわかったのか?ニンゲン」
俺は嫌味たっぷりに聞いてやった。
「わかったことはあります!!」
「恐らく、あの木、あの木の近くに行くと、何かが起きてるんです」
「何かってなんダ?」
「それはわからないですけど!あの木の近くに行けたことは一度も無いんです!」
確かに言われてみれば。
俺はその木をじっと見つめた。なんの変哲も無い木だが、何処か違和感がある。質感というかなんというか。
「あの木に近づく必要がありそうだな」
あれから色々試した。
あえて逆の方向に進んでみたり、木の上に登ってから近づいたり。それでも近づけない。木の上に登って近づいたときなんか、目で見えてる筈なのにまるで何かに操られたかのように気付いたら離れているのだ。
「あんまりやりたくはなかったが」
俺は剣士を8人召喚した。
「木を全部斬り倒す」
そこからは地道な作業だった。徐々に木を斬り倒しながら木への道を切り開く。途中操られる感覚があり、気付いたら離れている。そんなのは関係ないと、自然破壊を続けた。
*
「ラスト、これ意味あるのか?」
1日中ずっと働かせられて、過労死寸前の剣士達を見ながらセイブルが言う。
「相手は木だろ、自然破壊は許せないはずだ」
「ギッ!? そんな理由で!?」
俺はにやりと笑いながら、剣士達を一端消し、新たな剣士を呼び出す。
「本当にこれに意味はあるのでしょうか……」
「黙ってみとけ」
剣士達が木を斬り始めようとした瞬間
「待ってぇぇぇぇぇぇ!!!」
何処からともなく声が聞こえてきた。
どこだ?敵の姿は見当たらない。木が話しているのか?
「ラスト、あそこだ、あの剣士の上にいる」
俺は目を凝らした。そこには、俺の手のひらほどの大きさしかない、人間の容姿をした何かが浮いていた。
「ホラ、木を切って正解だった」
俺はニンゲンに向かって言い捨てると何かに向かって歩きだした。
「そこのちっこいの。お前は何だ、どうやってこの森から出ればいい」
「なっ!ちっこくない! てかなんでゴブリンが人間の言葉を……」
「お前だって人間の言葉話してるだろ。さぁ、お前は何者で、森からどうやってでるか教えろ」
「さもないと。」
俺は剣士から剣を奪い取って木に向かって振り下ろそうとする。
「わ、わかったから!待って!」
そいつは慌てた様子でぶんぶんと飛び回ると、ピタッと静止して、腰に手を当てて胸を張った。
「私はこの森の妖精、フェアリーのピスカよ!」
と名乗ったのだった。
森の妖精か、初めて見た。よく見ると背中に薄い羽のようなものが4枚生えている。羽ばたいてないのにどーやって浮いてるのだろう。
「で、ピスカ、どうやってこの森から出ればいい」
「どーやってって、ここらへんには結界が張られてて、この場所を知った者は生きて帰れないようになってるの」
「ギ?なんで?」
「だってここら先には私達妖精の街があるんだもの!」
ほう
「召喚!」
「え?なっ!離して!!」
俺はピスカの背後に村人を召喚して捕らえる。
「よし、お前が居たら進めるよな?」
「ちょ、ちょちょちょ、お願い、待ってよぉ」
「おいおい、森の妖精に手を出しても大丈夫なのか?」
何やら心配そうな顔でセイブルがこっちを見てるが、まぁ大丈夫だろと適当に返事をして、進み続けた。
目的地はあの変な木だな。
「やばいよぉ、まずいってぇ」「そっちはやめよ?ほんとに、ね?」「大変だよ!ねぇ!そっちはほんとに大変なんだよ!」
ピスカはお喋りらしく、ずっとピーチクパーチク言っていた。
「ねぇねぇ、お願い!ほんとに!なんでもするから!」
「ギ、なんでも?」
「な、なんでも!なんでもする!だからそっちに進むのはやめよ?」
「なんでそんなにこっちに進んじゃ駄目なんだ?」
「そんなの私達の国があるからに決まってるじゃない!」
「うん、だろうと思ってた。」
俺は問答無用でずんずん進んだ。だって妖精の国なんて見てみたいじゃないか。そして何か身体を通り抜ける感覚がした。
結界の中に入ったのか?
「あーあ、、」
遂に観念したようで、ピスカは大人く村人に捕まっていた。
よし、もう少しだな。
俺は歩くスピードを早めたのだった。




