絶望の先の絶望
俺は村長だったものを見ていた。
ああ、終わった
もう生き残っているゴブリンはもう居ないだろう。村長も死んだ。相棒もきっと死んだのだ。生き残ったのは俺だけだ。
もう生きてる意味なんて、ない
「……人!主人!逃げましょう!」
気付いたら目の前にニンゲンがいた。憎き人間。
手を伸ばし、俺の手を引こうとする。
「ッ!触るな!!」
「主人……」
「もう終わりだ!村も!俺も!おまえも!!」
俺は叫ぶ。
「お前ら人間のせいだ!オークが来たのも!村長が死んだのも!!」
村長だったものをみて、両親が死んだときの光景を思い出す。
「両親を殺したのも人間だ、死ネ!お前らが死ねよ!!」
「出来ません」
俺は目の前のニンゲンに唾を吐いた。
「消えろ!早く失せろ!!」
「出来ません」
「命令ダッ!消えろ!!」
「出来ません」
「ナッ?!」
なんでこいつは命令を聞かない
召喚獣なのに
「逃げましょう、主人」
俺はニンゲンに抱き抱えられそうになる。
咄嗟に村長の持っていた剣を拾った。
「触るな!穢らわしい人間が!コノッ」
唯一まともに動く首を動かし腕に噛みつく。
「ぐっ。主人、、それでも
それでも私はあなたを守ります。」
ニンゲンは俺を抱えたまま走り出した。周辺にはオークの死骸が転がっていた。ニンゲンが殺したオーク達だろう。しばらく進むとゴブリンの死体が見え始め、オークとゴブリンが折り重なって血の海に沈んでいた。
地獄だった。
びしゃびしゃと血と土が混じりあった地面の上を走り抜け、門に辿り着く。そしてそのまま村の中に侵入してこようとしたオークを上から下に切り裂き、頭上を飛び越えた。後方のオーク達は咄嗟に槍を上方に構え、空中にいるニンゲンに向かって一斉に突き出す。ニンゲンは右手に持った剣を逆手に持ち突っ込むが、幾つかの槍は手や脚や腹をを切り裂いた。
「うおおぉぉぉぉおお!」
そのまま剣をオークの肩からズブリと突き刺すと、今度は全方位から槍が突き出された。
「くっ」
ニンゲンは剣を抜きながら、それらを避け、切り払い、己の体を犠牲にして俺を守った。
突き出される槍を避け
首を切り飛ばし
でかい図体を押し退け
血の噴水を浴びながら前に進んでいく。
1歩ずつ、着実に。
目の前の明らかに強い人間にオークたちがたじろいだ。
ニンゲンはその隙を逃がさず、一瞬で近寄り、1体の腹を切り裂いた。
「ブギャァァァアアアア」
オークの腹から臓物がこぼれ落ち、悲鳴をあげる。人間はそこから腸を無造作に引きちぎると、周囲のオークにばら蒔く。
後方にいたオークたちは、突然上がる血の噴水と臓物の雨によって恐怖し、混乱した。
「ブモォォォ」
突然、重低音の声が鳴り響き、戦場が静まり返る。オークの群れの中心から、大きな斧を持ち鎧を着こんだ3メートル程のオークが現れた。
ハイオークだ。
「……主人、このオークは私にも厳しそうです。もし私が殺されそうな時はすぐに逃げてください。」
ニンゲンは俺の事を下ろしながらそう言った。俺はニンゲンをまじまじと見た。オークの血にまみれ、傷だらけで、服も剣もボロボロだった。そしてその眼は、弱音を吐いたとは思えない程、希望に満ちていた。
「何で、何で諦めない。」
俺の言葉を聞いたニンゲンはニコリと笑うと、そのままハイオークに向かって駆けていく。
ハイオークはニンゲンに向かって斧を振り下ろした。その素早さたるや、ニンゲンは紙一重で避けたが、風圧で弾き飛ばされる。4回転程転がったあと、ふらふらと立ち上がり剣を構える。
今の出来事だけで、わかってしまった。ニンゲンではあのハイオークには勝てない。明らかに格が違うのだ。
それでもニンゲンは絶対に諦めなかった。ハイオークの周りにへばりつき、弾き飛ばされてもまた粘着した。
ハイオークは諦めないニンゲンに対して、イラついた。
「ブモォ!ブモォ!」
指を突き出し、周りのオーク達に命令する。ニンゲンはハイオークと周りのオークに完全に包囲され、回避するスペースさえ失った。そしてニンゲンは希望に満ちた眼で俺を見た。
逃げろ
そう言ってるのがわかった。
気付けば俺の周囲に俺の事を見ているオークは居なくなっていた。ニンゲンがどう殺されるかに興味津々なのだ。
俺はニンゲンを見捨てた。
ハイオークに恐れ、逃げ出した。生きることを諦めていた俺が、惨めにも転げながら逃げる。オークたちの足の合間をぬって、泥だらけになりだから逃げた。
徐々に、徐々にオーク達の群れの中を進んでいく。
そして、群れの端が奥の方に見えたとき、
空に数百もの火の玉が浮かぶのが見えた。
そしてそれらは
流星群のように落ちてきたのだった。
*
熱い
喉が焼けるようだ。
いったい何が起きたんだ。
肉の焼ける臭いが立ち込め、オーク達は倒れ呻き声をあげていた。
ふと右を見るとそこにはボロボロに焼け爛れた人間、村人がいた。
召喚は間に合ったのか。
俺は動かない体に鞭を打って、上半身を起こした。
ぐるっと周りを見渡して、そして笑った。
倒れ、焼け焦げたオーク達の真ん中で俺は笑った。
笑うしかなかった。
なんだよこれ
なんなんだよ
黒焦げになったオークの群れの周りには
数百人にもなる人間の部隊が布陣していた。
そして、オークたちが倒れてるなか起き上がったのは
俺と、身体からプスプスと煙を上げているハイオークだけだった。
「ッ!?」
ハイオークと目が合う。
その目は絶望に染まっていた。




