白鯨のように巨大なやつをだ
いつの間にかこの文章に評価ポイントがついていた。おれは正直言って自分の書いたものにポイントがつくとは思っていない。今までもこれからもおれの文章に派手なポイントがつくことはないし、おれはそれを納得済みでこの文章を書き、投稿している。なぜだと思う? ポイントに支配されたお前にはきっとわからないだろう。だから説明しない。
どこかの誰かがおれの文章をちゃんと読んで、なにかを発したいと思った。このポイントをおれはそう解釈している。数字の大小など関係ない。あなたのそのひと手間が、おれの心を震わせた。読みにくかったろう。ごめんな。読んでくれてありがとう。
仁王2をやっている。前回も言ったが、こいつは本当に面白い。普段はだらしなくソファに寝転んでゲームをやっているおれだが、久しぶりに姿勢を正してやるべきタイトルに出会えた。チームニンジャが本気で仕掛けてくるつもりなら、こちらも全力を出して挑む。その覚悟は完了している。
まだ一体目のボス敵を倒しただけだが、すでに数え切れないほどのアバターの落命をこの目で見届けてきた。だがな、貴様の攻撃はおれ自身には届いていないし、おれのアバターは何度でも蘇る。自らの落命にも顔色ひとつ変えず、再び死地におもむくアバターのなんと頼もしく美しいことか。おれとお前ならきっとやれる。やってやろうぜ。
いまのおれはちょっとした戦闘狂だ。戦うことに生きる意味を見出し、敗北すら心地よい。ゲームという電脳遊戯の世界においての体験だからこそ、おれはこの感覚を得ることができている。これが現実と呼ばれる、物質世界での出来事だったなら、おそらくおれの身体は一瞬でお陀仏、コンティニューもリスタートもなしに、皆さんさようならだ。おれはひょっとして恐ろしいところに足を踏み入れているのではないか? 精神を呑まれないようにしなければ。
だが……そんなおれを嘲笑うかのように、ベッドの下のSwitchが邪悪な塔を召喚した。おれの精神などたやすく呑み込みかねない、白鯨のように巨大なやつをだ。塔に登れ……おれがSwitchから受け取ったメッセージはそれだけだ。なぜだかわからないが、おれは言われるがままに、塔へと……。
Slay the Spire。この界隈じゃ名の通った危険極まりないゲームだ。そんなタイトル聞いたことないぜってやつは、悪いことは言わない。そのままのお前でいろ。こんなタイトル読めないぜってやつは、悪いことは言わない。少しは勉強しろ。だがおれも最初は読めなかったので教えておいてやる。スレイザスパイア。そう読む。タイトルの意味はわからないが、おそらく相当物騒な意味が込められているものと予想する。なぜならこいつは相当名の通った危険極まりないゲームだからだ。
こいつはどんなゲームだ? そう問われると、おれは口ごもる。面白いか? と問われれば、お前の目をまっすぐ見て、無言で首を縦に振ってやる。その面白さを、バシッと歯切れよく説明してやりたいが、おれの言葉では上手く言い表せない。なので、他人の言葉を借りる。このゲームはローグライク・カードゲーム……なんだそうだ。デッキ構築……そんな言葉もこいつを紹介する時はよく使われる。
いまのでピンとこなかったやつは、ちょっとおれに付き合え。今から頑張ってこのゲームの説明をする。だが気をつけな。おれより説明の下手なやつはそうそういない。要領を得ず空虚な時間を過ごす羽目に陥ることになるかもしれない。覚悟はしておけ。
おれがこのゲームをやってまずはっきりと感じたのはドミニオンの息吹だ。比類なきカードゲーム、ドミニオンを知らないやつはいるか? おれの周りにはいっぱいいる。だから知らないことを恥じる必要はない。だがこの機会に知っておけ。テーブルゲーム界隈においてドミニオンは燦然と輝く金字塔であるということを。個人的な印象だが、ドミニオンが世界に与えた衝撃と影響力は、かのカタンを凌駕するものがあった。数えきれないほどのフォロワーが生まれ、そして消えていったが、オリジネイターであるドミニオンは怪物的な拡張を繰り返しながら、今なお存在感を示し続けている。桁違いにすごいやつであることは疑いようもない。
Slay the Spireがドミニオンの深刻な影響下にあることは、わかるやつなら一目瞭然、わざわざドミニオンと言葉にするのも野暮に思えるくらいのものだ。ではこいつはドミニオンのパクりか? いや、違う。ドミニオンの革新的だった部分、それまではマジック・ザ・ギャザリングに代表されるトレーディングカードゲームの、言わば準備段階であったカードデッキ構築、それそのものをゲームにしてしまうという発想こそ頂いてはいるが、プレイ感覚はまったく違う。
ドミニオンが公平なレースだとしたら、Slay the Spireは戦いだ。それも過酷な、死闘と呼ばれる部類のそれだ。ついさっきまで元気にコンボを決め、気力体力ともにみなぎっていた自信満々の戦士が、たった一つの些細な判断ミスで取り返しのつかない状況に追い込まれた挙句もの言わぬ骸になる。そんな風景を、おれはこの目で何度も見てきた。いいか? この塔に登ろうとするならば、いつでも冷静でいろ。どんな兆候も決して見逃すな。大胆かつ臆病であれ。必要なものは、決断力、勇気、本質を見極める目、そして運だ。なにかに似ていると思わないか?
Slay the Spireはお前の人生だ。人生は戦いだ。混沌を飼いならせ。
では、塔に登ってくる。