過激にきめてやれ
仁王はおれをいたぶり、しょげさせた。心の傷は浅くない。だが負け犬のままでいいのか? いいわけがない。おれは立ち上がった。拳を突き上げ、雄々しく吠えた。おれの咆哮は、弱気なお前を勇気づけるだろう。うつむいている暇はない。身体を鍛えろ。頭を使え。いじめっこは殴れ。そのためにお前はいる。泣き言はお前には似合わない。猛れ。
さて、心機一転、いまやっているタイトルについて書く。仁王2のことを。そうだ。そのとおりだ。おれは大胆なショートカットをした。おれを根性なしだと思うか? 思うな。おれは根性なしではない。それをいまから証明する。
まずは現時点での結論から書こう。仁王2、ものすごく面白い。なぜだ? なぜこんなことが起こった? わからない。だが仁王と仁王2はかなり違うゲームだということは確信している。間髪入れず続けてやったおれがそう思うんだから、これはかなり信憑性のある情報だと言えよう。なにがそんなに違うのか。
仁王2をやって最初に戸惑ったのが、敵の攻撃が避けられないということだった。こっちは避けたつもりでも、手痛い攻撃をズビシと食らう。そんなことが三度か四度あった。サンプルはそれだけで充分だ。おれはすぐになにかがおかしいと気づいた。リズムが変わった。そう理解した。
おれが考えたのは、どっちのリズムが変わったのか? ということだ。おれか、敵か。
仁王の主人公はウィリアムという英国人だった。日本の昔が舞台のゲームなのになぜ? と訝しむ向きもあるだろう。だが色々と邪推を働かせる我々に、シブサワコウはこう言っている。
「すみません、実在の人物なので」
そうらしい。そう言われたら黙るしかない。まあいい。話を戻そう。英国と言われてなにを連想する? そうだ。パンクと2トーン・スカだ。つまりウィリアムはそういうやつだ。おれと気が合いそうだ。
仁王2の主人公は……自由だ。お前でもいいし、ウィリアムでもいい。もちろんおれでもいいはずだ。性別、肌や瞳の色、好きにしろ。ドレスコードもないし、人種差別もない。イレズミを入れたくらいで顔をしかめる阿呆はここにはいない。過激にきめてやれ。
おれはおれ自身の顔に寄せたのち、三割ほど美化した。かっこいい顔の自分。テンションが上がらないわけがない。髪型はリーゼント風モヒカンちょいヤンキー風味の毛先を青色に染め上げ、赤のメッシュを入れた。おれ自身も散々下品な髪型をしてきたが、ここまで下品なのは例がない。最高だ。仕上げに狐面の模様みたいなやつを顔に施した。これが当たった。とっぽい感じが消え去り、神秘的な雰囲気すら漂わしはじめた。実にクールだ。悪いが、ここまでのキャラメイクをできる人間がおれの他に存在するとは思えない。つまりおれはいま、世界で一番かっこいいキャラクターを操作していることになる。
ウィリアムは確かにいいやつだった。やつは海賊だったらしい。立ち寄った異国の港で、ロンドンナイトのようなイヴェントを見つけて踊りまくったりしていたのだろう。海上でぶんどった金品を気前よくキッズに分け与えるやつの姿を想像すると思わずおれの顔もほころぶ。おれとやつはきっといい友達になれる。だが操作をするとなると話は別だ。すこし考えてみてくれ。友達を操作したいか? 友達とは、酒を酌み交わしたり、肩を組んで大声で歌ったり、街角で揉め事を起こしたり、そういうことをする間柄のはずだ。決して操作をしたりされたりする存在ではない。おれが仁王をやめたのはそのあたりに原因があるとおもっている。
その点、仁王2の主人公は端的に言えばおれだ。もちろんおれ自身ではないが、おれの一部、おれの中にいる「かっこいいおれ」が顕現した存在だ。おれがおれを操作するのは極めて自然なことだと言える。いつだって無意識に、おれはそれをしている。これを書いているいまもだ。ただ、おれのアバターを操作するとなると、少々話は複雑になり、無意識にとはいかなくなる。おれの意思とアバターとの間にゲームパッドを噛ます必要があるからだ。おれが仁王2で最初に敵の攻撃を避けられずズビシズビシと食らってしまったのは、魂から発せられたおれの意思が、脳から両手の指先へと伝達されたのち、ゲームパッドのスティックを倒したりボタンを押したりする動作を介してアバターへと伝わってゆく過程のどこかで、ウィリアムの幻影がちらつき、なんらかの霊的な障害が発生してしまったからだと考えられる。短期間の付き合いではあったが、おれにはウィリアムのリズムが身体に染み込んでいたようだ。そりゃあ、ズビシと食らいもする。
原因がわかったおれは目を閉じてゲームパッドを一旦置き、精神をチャクラに集中させて、サンスクリット語でなにやら呟いたかと思うと、カッと目を見開いた。たぶん第三の目も一瞬だが開いていたと思う。眩しい光の中、ウィリアムが寂しそうに笑ってサムズアップしていたように見えたのは、おれの気のせいか? おれはそうは思わない。
ウィリアムの幻影が去り、アバターはおれのリズムで自由自在に動けるようになった。いまではこれは避けれる、と思えば大抵の攻撃を避けることができるし、これは無理だ、と思えば大抵の攻撃をズギャンと食らう。おれの精神とアバターは理想的なシンクロ状態にあると言えよう。ただ、時たまウィリアムがいたずらを仕掛けてくるようで、アバターの挙動がおかしくなり、ズビシと落命する。わかったわかった、おれはそう言って、にやりと笑う。
わかってるぜウィリアム、いつかまた遊ぼうな——
今はいない友に思いを馳せながら……今回はここまでだ。