仁王はハクスラか?
今回はおれがいまやっているタイトルについて書く。名を仁王と言う。タイトルクレジットに2017とあったので、4年ほど前に発売されたらしいことがわかる。発売元はコーエーテクモゲームス。光栄とテクモだ。いつの間にやらくっついたらしいが、個人的にはぱっとしない組み合わせに見える。
光栄とテクモについてちょっと書こう。先に言っておくが、おれはゲームについてそれほど深い知識を持っているわけではない。事実関係の誤りなど多々あるかもしれない。だが気にするな。
おれにとって光栄と言えば、信長の野望、三國志、蒼き狼と白き牝鹿など、歴史を題材としたやたらと高価なシミュレーションゲームばかり作っていた大人なソフトメーカーという印象だった。それはそれである種のかっこよさを感じたものの、歴史にさほど興味のないおれに深い関わりのあるゲームはなかった。
そんな光栄の印象がごろっと変わったのは、真・三國無双の登場による。当時、既に成人していた(していなかったかもしれない)おれはこんなに面白いゲームがあるのか、と驚愕した。敵がいっぱいいる。連中をなぎ払う。そなたこそ真の三國無双よ、と褒められる。ただそれだけで、おれの興奮は最高潮に達する。かつてそんな時代が確かにあった。
たぶん皆似たようなことを思ったはずだ。それを証拠に真・三國無双は派生作品を含め、続編をばんばん出した。おれも二作目までは夢中になってやった。三作目も発売日に購入したが、音楽やデザインのセンスなど、それまでもださいと思っていたがあまり気にならなかったものが、嫌で仕方なくなった。おれはゲームに総合芸術の夢をみていたのかもしれない。以降はシリーズから手を引いた。
テクモのゲームで唯一やったことがあるのが、ニンジャガイデン2だ。こいつは発売前から色々な噂を聞いていた。すごいアクションゲームらしい。でもものすごく難しいらしい。おれはアクションゲームが大好きというわけではない。難しいものであればなおさら距離を置いておきたい。だがおれは選ばれしXbox360ユーザーだった。その時点で選択肢はなかったと言えよう。挑戦するしか道がなかったのだ。
ニンジャガイデン2は、確かに楽しいアクションゲームだったが、難しさも評判どおりだった。最強の忍者であるリュウ・ハヤブサのもつポテンシャルはおれも認めるところではある。ちゃんと操作をすれば、やつは悪党どもの血で戦場を染め上げながら、すごい速さで駆け抜けてゆくのだろう。だがおれの手に掛かったリュウ・ハヤブサは、最低難易度である忍びの道をひいひい言いながら踏破するのが精一杯だった。当たり前に存在するその上の難易度たちのことなど考えたくもなかった。このゲームは欲していた、真の戦士を……そして、おれは真の戦士ではなかったと言うことだ。ついでに言えば、このゲームも音楽やデザインセンスのだささは際立っていた。なぜ連中はあんなにもてかてかしているのだろうか? そんな問いも負け犬が発すればただの遠吠えに過ぎない。おれはほうほうの体でニンジャガイデン2から逃げ出し、ソフトを地中深くに封印した。この体験はおれの人生における数少ない汚点の一つだ……。
以上が光栄とテクモの印象だ。連中が作るゲームはいいと思うが、音楽とデザインのセンスがおれと壊滅的に合わない。ではなぜ、おれはやつらの手による仁王に手を出したのか? 答えは非常にシンプルだ。ハクスラ。それが答えだ。
ハクスラとはなにか? こいつはかなりの難問だ。大抵のやつは、ハクスラとはハックアンドスラッシュの略であり……そこまで言ったところで絶句する。こんな簡単なことをなぜおれは説明できないのだ? そう自問する。口を開く前は、自信満々だったのだ。ハクスラの真髄をがっちり握っている、そう思っていた。だが、違ったわけだ。握り締めていた拳を恐る恐る開くとそこにはなにも存在していないことに気づいてしまった。そいつは、まあDiabloみたいなやつだよ……などと小さな声で呟き、その場をそっと離れる。帰りの道すがら、敗北感でちくちく痛む胸をうずかせながら、考えた。ハクスラとはなにか……? 答えなど出やしない。スキル、キャラビルド、レアアイテムドロップ……ハックアンドスラッシュ……ただならぬ表情でぶつぶつと独り言を繰り返す彼は狂人そのものだ。そして彼は、部屋に着くなり着の身着のままベッドに潜り込み、Diabloの悪夢にうなされることになる。
こんなことが、いままさに世界中で起こっているものと、おれは想像する。ハクスラとはそれほど危険なやつなのだ。それでもハクスラにはまるやつは後を立たない。なにを隠そうおれもその一人なのだ。ハクスラとはなにか不明瞭のまま、ハクスラに全精力を注ぐ。ハクスラに飽きれば、次のハクスラへ……。求めているのは、ハクスラがもたらすえもいわれぬ恍惚だ。それが虚しさと隣り合わせであることを知りながら……それでもなおハクスラを欲して、さまよい続けている。
先日、風の噂で仁王というゲームがハクスラであると耳にした。おれは噂の真偽をこの目で確かめるべく、戦国の地に降り立った次第だ。
そろそろ集中力が切れてきた。今回はここまでだ。