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その手のミスリルナイフをしまえ

 みなどうせ、ひとりぼっちだ。あるパーティーボーイは、明け方、おぼつかない足取りで自分の巣に戻り、湿った寝床に無言で潜り込む。すえた匂いとシジュウカラのさえずり。一定のリズムで強くなる耐えがたい頭痛は鼓動そのものだ。おれは今生きている。元気いっぱいとは言えないが、まあまあうまくやってる方だ。だが、未来の自分にはどうやらなにも期待できそうにない。金も女もきっと今がピークだ。あとは緩やかに、あるいは急激に……先細ってゆくだけだ。

 仲間と呼び合う連中は、近いうちめいめい思い思いの場所で足場を築こうとするだろう。今いる場所は危なっかしすぎる……口には出さないが、そう考えているのは明白だ。そうして、足場固めに便宜上の成功をしたり失敗したりするうちにお互い顔も名前も不明瞭になってゆく。

「ああ、そんなやつもいたっけな」

 そんなふうに斬って捨てるお前自身がそんなやつの一員であること、お前が知らないはずがない。時代が変わったのだ。お前は年をとったのだ。守るものができた……そんな言い訳にもならない言い訳で、お前はアクロバットをやんわり拒否するようになった。そのかわりの、愛想笑いで残飯漁りか? ふん、みじめなやつだ。お前の心の叫びは、いつしかお前に届かなくなっていた。お前は鈍化したのだ。鈍化して同化して、ぐずなのろまになった。もう手遅れだが、案ずることはなにもない。みなどうせ、ひとりぼっちだ。



 さて、ちょっと前におれの中でとあるプロジェクトが発足した。ファイナルファンタジーシリーズマラソンプロジェクトっていうやつなんだが知ってるか? まあ知るわけがないので、教えてやろう。つまりはこうだ。現状の環境でできるすべてのファイナルファンタジーのナンバリングタイトル及びその派生作品を順番にクリアしていこう(MMORPGの11と14は除く)というコンセプトのもと、ファイナルファンタジーのナンバリングタイトルを黙々とプレイしてゆく。そういう計画だ。

 集まったタイトルは以下のものとなる。言わずと知れた7。賛否両論、ちょっと否が多めな感じの8。個人的に印象の薄い9。はっきり言ってなにも知らない10と10-2。更になにも知らない12。おれの魂の一本13。やりかけの13-2。いつかやろうとは思っていたライトニングリターンズ。おれは好きだぜ15。三度挑戦して三度とも途中で飽きた7のリメイク。

 どうよ、この錚々たるラインナップ。集めも集めたり圧巻の総勢11タイトル。個人的にまったく接点のない連中もいるが、それでもしびれる面子であることは疑いようもない。……そうだ。わかっている。皆まで言うな。1~6はどうした? お前の言いたいことは全部わかっている。だがな。お前の納得を待っている時間はない。お前を説得するつもりもない。プロジェクトは走り出した。邪魔はせんでもらおう。

 とは言え、初期FF原理主義者の連中に命を狙われるのは割に合わない。ちょっとそのへんのところを話しておこう。なぜおれは1~6をこのプロジェクトに加えないのか。端的に言うと、楽しくなさそうだからだ。……まあ待て。落ち着け。その手のミスリルナイフをしまえ。聞いてくれ、おれはロカビリーが好きだ。60年以上前に流行ったアメリカ製ポップ・ミュージックだ。おれの感覚からすれば、ロカビリーはいつまでもみずみずしく色あせない音楽だが、大半の連中からするとどうだ? 錆びついた過去の遺物だ。新鮮な驚きをもたらしてくれるものではない。そういうことだ。それと同じことがおれにも起こっている。

 ファイナルファンタジー1〜6をこの時代にプレイする意味がないとは決して思わない。だが、おれにとってそれが苦行めいたものになるであろうという確信がある。おれは修験者でも研究者でもない。ゲームは楽しく遊びたい。それだけのことだ。

 だがいずれ、おれの心境にも変化が訪れるやもしれん。なにしろおれは読めない男だ。朝令暮改も朝飯前だ。このプロジェクトを完遂した暁には、どうせならシリーズコンプリートを目指したいという気持ちになったって不思議ではない。その時にはおれの中で、苦行めいたものが未知への挑戦へと変化していることだろう。人間というものは面白い。そうは思わんか?


 さて、おれはシリーズの1〜6を苦行と表現してしまったわけだが、そういった意味だと7だってなかなかのものだ。なにしろオリジナルが出たのは1997年だ。97年と言えばホージーがアウー! と叫びながらホームラン王になった年だ。はっきり言って大昔である。当時はゲームもここまできたか、とため息をついていたグラフィックも、今の感覚で見れば目を背けたくなるほど貧弱だ。グラフィックだけで言えば、ドット絵の極みと称されたりもする6などの方が、現在の審美眼に耐えうる普遍性を獲得していると言えるだろう。

 だが……ファイナルファンタジー7というタイトルは我が国のビデオゲーム史上に燦然と輝く金字塔である。伝説めいた逸話にも事欠かない。当時のコンソールウォーズをソニーが制した立役者である、とかそういうやつだ。

 当時のプレイヤーに話を聞いてみるといい。連中、目を怪しく輝かせて、息を荒げつつファイナルファンタジー7のシナリオが、世界観が、キャラクターがいかに素晴らしかったかを延々と語り出す。終いには「セ・フィ・ロ・ス!」などと叫び出したりするものだから始末に負えない。

 はっきり言って気持ち悪いくらいの熱量をぶつけられるわけだが、それほどの思い入れが紆余曲折を経て2020年にドロップされ、大ヒットを記録したリメイクに繋がったのだろう。

 と、まあゲームに興味のあるやつなら今更わかりきっていることをつらつら書き連ねてきたのだが、おれはと言うとこの文章のテンションの低さからわかるように、7に思うところがあまりない。遠い昔に一度プレイしているはずなのだが、なにしろ記憶がない。ただ、途中から何が起こっているのか、主人公であるクラウドは誰なのか、敵は一体何者なのか、そういったことを見失ったままエンディングに辿り着き、狐につままれたような気持ちになったことを覚えているだけだ。だが、何故そうなってしまったのか、その理由が今ならわかる。

 つまりはおれの心構えの問題だ。当時のおれはファイナルファンタジー7を真っ向から受け止めようとしていなかった。嘲弄的な態度でもって、事に当たっていた。場面場面に対して、あまりにもありきたりで退屈な、だが当人にとっては気の利いているつもりの茶々を入れ、醜い笑みを浮かべていた。誠実な人間のとるべき態度とは到底言えない。若気の至りなどという言葉では済まされない蛮行だ。

 もうおれはあの頃のおれではないと証明してみせよう。ファイナルファンタジーと言う希有なシリーズに、ファイナルファンタジー7と言う偉大なレガシーに、相応の敬意を払い、心してゲームパッドを手に取ろう。


 蒸し暑くなってきた。今回は以上だ。

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