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ヘッドショットの夢を見ていた少年

 すっかり春めいてきた。おれもそろそろワッチキャップを破り捨て、サラサラの髪を皆に見せつける頃合いというわけだ。

 非常に過ごしやすい気候ではあるが、油断をしていると足下をすくわれるぞ。気をつけた方がいい。スギ花粉はお前の鼻孔を狙って手ぐすね引いている。時節柄だ。衆人の前で盛大にくしゃみでもしてみろ。首でもくくられかねない。また、いくら日中ごきげんな陽気だからといって、半袖短パンで出掛けたりするのは避けるべきだ。夜になった途端、お前のなまっちろい四肢は冷酷な北風にさらされ、途端に風邪っぴきになっちまうだろう。時節柄だ。衆人の前で景気よくくしゃみでもしてみろ。首をかっ切られても不思議ではない。

 嫌な世の中になったものだが、おれから言えることは、ただひとつだけだ。気をつけた方がいい。心得ておけ。


 さて。おれはまた文章を書くことをさぼっていたようだ。いくつかのゲームをやっている間に、いくつかの季節が過ぎ去っていった。まったく、おれというやつはどうしようもない。本当に信用ならん。

 それでもなんだかんだこうやって、ちゃんとここに戻ってくるのだから、やはり憎めないところがあると言わざるを得ない。どれだけ不義理を重ねても、そこまで他人にとやかく言われることのなかった所以だろう。かわいげのある男なのだ。得な性分だと言える。だが、そいつに甘んじて好き勝手やるほどおれも馬鹿ではない。締めるところは締める。生真面目な部分もきちんと持ち合わせているというわけだ。今までそうやって生きてきた。なかなか上手くやってきたもんだ。もうすぐ40歳。信じがたいことだが、数えてみると確かにそうなる。だがやはり、にわかには信じがたい。なにかしらの数字のマジック……幾重にも張り巡らされたトリック……目くらましのレトリック……そういったものが作用しているように思えて仕方がない。

 なにしろおれは若い。若々しい。フレッシュだ。高原の朝露のような男。それがおれだ。絞りたてのレモン果汁のように爽やかなやつなんだ。昔、スワローズにドナルド・レモンという投手がいて、「実は野球の傍ら小説を書くことにもチャレンジしているんだ。ジャンル? フフフ、大人の恋愛小説さ」とか言っている記事が週刊ベースボールに載っていた。なんて気味の悪い男なんだ、まだティーンだったおれは心底そう思ったものだ。まあ、それだけだ。


 そろそろゲームの話をしようじゃないか。久しぶりに文章を書くと、思いついたことを全部書こうとするから困る。もったいなく思えるんだな。せっかく思いついたんだから、というわけだ。だが、ここからおれは非情になるぞ。不要な文章はバシバシ切り捨てる。必要以上に過剰な言い回し、技巧を見せつけるためだけの表現、そういったものはおれの書く文章においては邪魔でしかない。余分なところをそぎ落とし、研磨に研磨を重ねた文章だけが、人の魂に牙を突き立てる資格を有する……違うか?


 せっかくだから、いまやっているゲームについて書こうか。ゼノブレイド2。ゼノを冠するゲームの現時点での最新作だ。とかなんとか知った風なことを言ってはみたものの、このゼノシリーズ……と言っていいものなのか? ゼノギアス、ゼノサーガ、ゼノブレイド、まだほかにもあるかもわからない。まあこの辺のやつだが、おれは一切やったことがない。どんなゲームだったのかも知らない。はっきり言って、興味がなかった。そんなおれがなぜこのタイトルに手を出したのか? 理由は、ある。

 以前のおれは、外国産のゲームを崇拝し、日本のゲーム、特にRPGはださすぎてやってられない、そう強く強く思っていた。原因は主にビジュアルとサウンド。あと不自然な台詞回しとかな。このあたりの悪口を書こうとすれば、もっと辛辣な言葉で延々続けられるがやめておこう。とにかくおれは、日本のオタク臭いポップカルチャーを嫌悪してやまなかったわけだ。

 そんなおれの精神世界に革命を起こしたのが、ファイナルファンタジー13なのだが、なんかこれ前にも書いたな。まあいい。おれに日本産ゲームの扉を開いてくれた、素晴らしいゲームだという事実は何度主張したって足りるということはない。事前準備とロール発動のタイミングが命の戦闘、こいつがとにかく病みつきになるほど面白く、それ以外の部分にはあまり目を向けたことがなかったが、思い返してみるとサウンド面でも非常に良かったと思う。耳に残る音楽はもちろん、レベルアップ時のSEとかたまらないものがあった。あの音を聞きたいがために、もう一度やるというのも次に遊ぶゲームの選択肢に上がるくらいだ。

 ことほどさようにおれはファイナルファンタジー13に夢中になった。その結果おれの心に根深く巣食っていた日本産ゲームへの偏見や蔑視は少しずつ払拭されていき、いまではどちらかと言えば新しい刺激をくれるのは日本のゲームの方であり、外国産のゲームはどうも代わり映えしないと思うまでになった。

 ヘッドショットの夢を見ていた少年が、お気に入りのキャラクターの声優情報をwikipediaで調べるいい大人に成長したというわけだ。ティーンの頃のおれがいまのおれを見たら、泣きながら殴りかかってくるんじゃないだろうか。もちろん、返り討ちにしてやるがな。


 以上が、おれがゼノブレイド2を手に取った理由だ。理由になっていない気もするが、まあ気にするな。それよりもゼノブレイド2。こいつを見てくれ。ちょうどここにパッケージがある。なんというか……全体的に目に優しい色使いのカバーアートだが、ミンキーモモのような髪型をした肌の露出多めの赤い女が異物として一際目を惹く。CERO C、つまり15歳以上対象なのはこいつのせいなんじゃないか?

 女の隣で堂々と胸を張る少年、こいつが主人公なんだろう、彼が手に持つ剣のようなものも女と同じ色をしている。なにか関係があるのだろうか……。

 いや、まあおれ知ってるけどな。いまやってるゲームだし。赤い女はホムラっつって剣なんだわ。ブレイドっつー亜種生命体なんだわ。すげーんだわ、ホムラ。たぶん本当に15歳以上対象はこいつのせいなんだわ。とにかく、まあ……すげーんだわ。すがすがしいほど、すげーんだわ。


 実を言うと、おれがゼノブレイド2を買ったのは結構前の話だ。もうとにかくJRPGがやりたくて、名の通っていたこいつを選んだのだが、その時は想像以上にムッとくるジャパニーズアニメ臭にあてられ、吐き気を催してしまったため、序盤も序盤でプレイを断念した。その頃のおれにはちょっと色々と強烈すぎたのだ。

 あれからいくつかの季節が過ぎ去った。なんとなく心のどこかに引っかかる存在ではあった。いつかはこいつに再挑戦することもあるだろう……そんな予感はしていた。先日、バグだらけのナイトシティ旅行から帰還し、やることもなくプラプラしていたおれは、気まぐれでこいつをSwitchにぶちこんでみた。

 すると、どうだ。なんの違和感もなく、するするっとゲームがおれに入り込んでくるではないか。昔のおれならすぐに汚い野次をとばしていたに違いない長めのムービーも、お行儀よく見させていただいている次第だ。

 そうだ。おれは変わったのだ。内面が成長したのだ。大人になるってのは、こういうことなのだろうか。ずっと拒否してきたそれは、思ったほど悪くはなかったのかもしれない。だから、照れも衒いも臆面もなしだ。素直な気持ち、純粋な笑顔でこう言ってやろう。

 ホムラってエロいな!


 腹が減った。今回は以上だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 【ゼノ】シリーズは、やった事が無いです。 【話・ストーリー】に興味が無い訳ではないですが、今一つ【トリガー】不足かな、と。 [気になる点] よくある"勘違い・まちがい"。 誤 足元をすく…
2021/03/28 07:45 退会済み
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