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シカトしろ。もしくは威嚇しろ。

 ゲーム生活に暗雲が漂いはじめた。なにをやっても面白くない。ゲームマシンを起動する。ホーム画面をのろのろとさまよう。適当なタイトルをやってみる。のらない。グルーヴが生まれない。無念を抱えながら、ゲームマシンの電源を切る。この繰り返しだ。

 こういうことはよくある。スランプというやつだろうか。いや違う。安易にスランプという言葉を使うなと落合博満が言っていた。原因はある。なにかが狂っている。例えばトップの位置だったり、ステップ幅だったり、タイミングのとりかただったり。それを見つけるには、スランプの一言で済ませてはいけない。冷静に仮借なく、自分自身を分解せよ。己と向き合い、問い詰め、精神の最深部までつまびらかにせよ。落合の言葉を、おれはそう解釈した。


 おれとの対話がはじまろうとしている。決して心躍る体験にはならないだろうが、常時糞詰まりの抜けの悪い気分で生きてゆくわけにはいかない。おれは自分がある程度はタフな男だと信じてはいるが、この胸の中には泣き虫の乙女が住まうことも知っている。彼女は純粋で傷つきやすく、ほんの少しのストレスでふさぎ込んでしまう。

 さておれの中に虚無の風が吹いたのはいつのことだったろう? ゴースト・オブ・ツシマをやっている時だ。文章ではこのタイトルのことを良く書いていないおれだったが、実は結構ハマっていたことはあまり知られていない事実だ。ビューなロケーションを見つけてはフォトモードでいい感じのスクリーンショットを作りまくってくすくす笑っていたりしたわけで、おれも境井仁も愛馬の信も、このまま対馬の果てまで駆け抜けていくものと信じて疑わなかった。

 だが風が吹いた。風がすべてを覆し、すべてを陳腐化させた。風光明媚な土地は色あせ、蒙古軍は木偶と化した。おれは対馬を飛び出し、十三機兵防衛圏へと逃げ込んだ。それですべてが丸く収まった、そう思った。そう思ったのだが……そうではなかったわけだ。

 十三機兵防衛圏のことは悪く言いたくない。本当にいいゲームだ。だが虚無は……ここにも及んでいた。ユグドラシルの根を齧るニーズヘッグの如く……貪欲に……執念深く……おれを骨抜きのスカスカにしようと牙を剥いていたのだ。

 おれはほうほうの体で十三機兵防衛圏から逃げ出し、PS4の電源をバツンと切った。沈黙が支配する部屋……その中で自分はなにをしたいのか、なにを求めているのかを考え続けた。

 おれがゲームをやりたいことは間違いない。誇って言うことではないが、いまやゲームなしでは生きていられない体になってしまった。中毒というやつだ。

 ゲームをやったっておれの腹は膨れない。異性に好かれるわけでもなければ、気の置けない仲間ができたためしもない。暑さ寒さをしのぐこともできない、休息にもならない、知恵者にもなれない、褒められることもない……ないない、ない! ないのだ、なにも。

 だが……だからこそ……おれはゲームをやる。世の中つまらないやつばかりだ。これはおれの気のせいではなく、事実だ。街に出れば、殴りたくなる顔で溢れている。いらいらして、頭が痛くなってくる。だがそこで連中を殴ってしまうとどうだ? おれは滅多打ちにされた挙句、警察に突き出され、首をくくられることになる。街はそういうおっかない場所だと心得ておけ。殴ることも殴られることも勘定に入れておくべきだ。ゲームをやっていればそんな理不尽に巻き込まれることはない。ゲームをやれ、おれ……。


 唐突に話は変わるが、ウイングスパンというボードゲームを買った。ボードゲームを買うのはかなり久しぶりだ。ボードゲームと聞くと、いまだに「人生ゲームみたいなやつ?」とか言ってくるやつが殆どで戦慄してしまうが、この文章を読んでいるやつはアンテナビンビンだろうからそんな心配はいらないな。一応言っておくが、こいつは人生ゲームみたいなやつではない。

 では一体どういったメカニクスを使ってデザインされたボードゲームなのか? とか、そもそも面白いのか面白くないのか、とかそういうことはおれは書かない。理由は色々あるが、その理由すらすっ飛ばそう。おれはいま、文章を書き殴りたい気分だ。

 ウイングスパンが扱うテーマは野鳥だ。おれは野鳥が好きだ。双眼鏡を首からぶら下げて、よく鳥を見に行く。おれの理想的な休日の過ごし方のひとつだ。お前のまわりにはどれだけの野鳥がいるのかご存じか? たくさんだ。尾っぽが長いやつ、きれいな色をしたやつ、かわいいやつ、目立たないやつ、多種多様の鳥たちがそのへんを飛び回っている。まずはそこに気づけ。そしてやつらを観察してみろ。かわいいぞ。興味が出たら、鳥を見に行け。いわゆるバードウォッチングってやつだ。鳥を見るのは……楽しい。

 だが気をつけろ。鳥を見る連中にはむかつくやつが多い。馬鹿でかいカメラを構えている連中は最悪だ。ここはおれたちの縄張りだと言わんばかりにガン飛ばしてくるぞ。一度、やつらの近くで野良猫を撫でていたら、鳥が逃げるだろうが! と怒鳴られたことがある。ふざけた野郎だ。腹が立ったんで、かなり汚い言葉で罵倒してやったら(だがやつの言い分よりはよっぽど理はあった)連中、公園の管理員みたいな人を呼び出して、おれを気狂い扱いしやがった。あれはむかついたな。

 他にも、尋ねてもいないのに鳥の名前やウンチクを勝手にべらべら喋り倒すやつ、おれひとりだとなにもしてこないのに、おれが女の子を連れているとジュースや菓子をよこしてきて、馴々しくちょっかいをかけてきながらついてくるやつ、クソ、思い出してもむかついてくる。これらの蛮行が親切の名のもとに行われるんだからこっちはたまったもんじゃない。いいか。やつらに情けは無用だ。笑顔を見せるな。返事もしなくていい。シカトしろ。もしくは威嚇しろ。最近の若いもんは……みたいな態度をとってくるが知ったことか。てめえら薄汚い爺婆にこちとら興味はねえんだよ。鳥だ、鳥がいい。

 野鳥がテーマのボードゲーム、ウイングスパン。おれがこいつを買わない理由はなかった。遊ぶ相手はいないが、いいさ、ひとりでやる。ひとりボードゲームも嫌いじゃない。だがいつか、誰かと遊ぼう。とても楽しみだ。

 とりあえずコンポーネントの野鳥カードをスリーブに入れる日々が続いている。暑さもだいぶ和らいできた。シオカラトンボが目につく季節、今回はここまでだ。次回はSwitchのボーダーランズ・レジェンダリー・コレクションについて書こう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『何をやっても面白くない』 というのは深刻ですねぇ。 対象は多岐にわたる気がしますが…。 個人的には(前述のPSOを除けば) ・だんじょん商店会 ・serial experiments …
2020/08/26 08:40 退会済み
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