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屋上の思い出

作者: 辺銀


 「おはよう」


 挨拶をしながら私は教室に入ったが、教室中の一つの視線さえ得ることはできない。

 いつもとは違うクラスメイトの対応に戸惑う。


 「おはよう」


 めげずにもう一度挨拶をしてみるが、クラスメイトが私を見ることはない。

 私は諦めて自席に向かう。すると、いつも仲良しな二人が私の席の前で、俯きながら立っていた。

 

 「優香≪ゆうか≫ちゃん、京≪けい≫君、どうして挨拶返してくれないの?」


 少し怒り気味な口調で、二人の後方から声をかけたが返答はない。


 「なんで反応しないのよ!」


 仲の良い二人からも無視されたこともあり、私は感情を高ぶらせる。

 私の存在を認識させるために、二人の肩を叩こうとした時、見えてしまった。二人が私の机の上にお花を供えている光景を……。


 私は頭の中が真っ白になり、気づいた時には教室から逃げていた。信じていた二人に裏切られたからだ。まさか、あの二人が私にあんな意地悪をするなんて、今でも信じられない。


 (どうしてあんなことするの?どうしてなの?どうしてあたしを裏切ったの?どうして?)


 疑問の念が私の心を支配する。


 できるだけ遠くに逃げたくて必死に学校の階段を駆け上がった。誰にも見つからない場所を必死に探すが、探しても探しても見つからずたどり着いた場所は、結局二人との思い出の場所だった。


 いつも三人で過ごしていた屋上には私たちの思い出がたくさん散らばっている。


 三人で一緒に昼食を摂ったり、たくさんの話に花を咲かせたり、なんといっても屋上から見える夕焼けが綺麗で、私の脳裏に強く焼き付いている。


 思い出を一つ一つ思い起こしていると、涙が出できた。周りに誰もいないせいか緊張が解けてしっまったのだ。


 声をあげて泣いた。信じていた人に裏切られることが、こんなに悲しいなんて知らなっかった。誰とも仲良くならなければ、こんなに悲しい思いをしなくてよかったのかもしれない。

 

 たくさん泣いたら、なんだか眠たくなってきて、屋上の出入り口付近で、気づいた時には眠ってしまっていた。


 



 私が目を覚ましたのは、ちょうど夕日が見える時間になってからだった。


 やはり、いつみても夕日は綺麗で、心の中を浄化してくれる。だが、もう一度だけでも三人で見たいと思ってしまう自分もいる。

 複雑な感情の中、夕陽を見ていると、私の視線の先に人影が一つ伸びている。その人影辿っていくと、一人の男が手すりに両ひじをつきながら、夕日を眺めていた。


 「紗江≪さえ≫はどうして俺らの前から姿を消しちまったんだよ……。まだ俺の気持ちの一つも伝えられていないのに」


 私の名前を口にする人物の正体はすぐに分かった。間違いなく京君のものだ。私のことを裏切った京君が、なぜか私に会いたそうな口ぶりで呟いている。


 「もう一度だけでいいから会いたいな。会って紗江に好きだったと一言だけでも言わせてほしい」


 どういうこと? 私のことを京君が好きだったなんて全く気が付かなかった。むしろ、好きだというなら、どうして私の机の上に花を供えていたのだろうか?


 「京君?私のこと好きだったって本当なの?好きならなんで私を裏切ったの?」


 質問を投げかけてみても京君が反応することはない。


 「どうして私を無視するのよ!」


 涙交じりに問いかけてみても京君が反応することはなかった。


 「夕日が沈んじゃったか」


 京君はさみしそうな声で漏らし、こちらを振り返る。

 その時の京君の表情は、涙で顔をぐちゃぐちゃにしていた。京君の普段の笑顔からは想像できない顔に驚きを隠せない。

 京君は泣き顔をハンカチで拭いながら出入り口のある、私の方へ歩いてきてこう呟いた。


 「紗江が死んじゃうなんて、やっぱり青春なんて酸っぱいだけじゃん」


 京君は私の体をすり抜けて、屋上を後にした。

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