第70話 「鈴空の思惑」
天狗城から無事帰還した鈴空とステーノ。
闘技大会を確約させ、戻った鈴空には、「3つの希望」の他にも、思惑があった。
「ステーノ。助かったよ。お前がいなかったら危なかった」
「あいつら3人とも、気配が尋常じゃなかった。正直、殺されるかと思ったよぉぉぉ」
新吉原に、無事帰ってこれた僕達は、互いに胸を撫でおろしていた。
「鈴空さん!」
聞きなれた、優しいトーンの声が背中に響き、僕は後ろを振り返る。そこには、先程まで僕が扮していた偽物のリアとは比較にならないほどの、本物が立っていた。
「リア……ただいま」
僕は、目の前の本物の彼女に、一瞬で癒された。鬼神村で九死に一生を得て、天狗城で命がけの会談をし、命からがら新吉原に帰って来た僕には、目の前にいる本物のリアは、温かすぎた。
「鈴空さんとステーノは、タイパン病院へ行ってください。リュアレが治療の準備をしてくれています」
僕達は、リアの言う通りタイパン病院へと向かった。
「鈴空様、ステーノお疲れ様でした」
言って、出迎えてくれたのは、リュアレだった。
「あぁ。予定通りだ」
僕は、一言そう言うと、その場に腰を下ろした。
疲れた……。今回はマジで疲労困憊だ。
「ステーノ。良く鈴空様を連れ帰ってくれましたね」
「うん。状況はかなり危うかったけどねぇぇ、なんとかって感じぃぃぃ」
ステーノは、平常運転に戻っていた。近くにあったベンチに横になると、寝息を立てて眠り始めた。無理もない。ずっと僕と一緒に行動をしながら、あの3人の気迫を受け、常に戦闘態勢に入っていたのだ。僕を守る為に。
「ステーノ、ありがとう」
僕は、寝息立てる彼女に、小さく礼の言葉を送った。
「ステーノは、寝ていれば回復しますね。鈴空様は、ICUカプセルへお入りください」
疲労困憊な僕は、リュアレ先生の指示に素直に従った。
――――――3時間後
治療が終わり、回復した僕は、食事を摂り、英気を養い、幹部と月華・陽炎のメンバーを招集した。そして、今回の作戦結果について話した後、リアと龍じいを呼び出した。
「まずは、龍じい。すまないが、鬼神村にこの書翰を届けてくれないか?闘技大会への誘いとルールが書いてある。鬼神修羅と戦い、彼女に一目置かれた龍じいなら、やつらも無碍には扱わないだろう」
「心得たでおじゃる。もう、剣も触れぬただの老躯。これくらいは、役に立ってみせるでおじゃるよ」
龍じいは、快く引き受けた。僕達との闘いの記憶を失った鬼神修羅には、僕が行くよりも龍じいが行ったほうが、効果的だろう。
「次に、リア。今回の闘技大会だが、君を出汁に使ってしまってすまない」
「いいえ。お役に立てて良かったです」
「それと、ララに会ったぞ」
リアは、フリーズした。口を半開きに、目を見開き、手を少し震わせながら、彼女の時間は止まった。
「ララは、天狗城の地下にある牢に入れられていた。余慶眼も確認した。間違えない」
「ララ……。良かった。生きていてくれて」
ララの無事を知った瞬間、リアの止まった時間が動き出し、彼女の瞳に涙が溢れた。
「ララは、リアを気にかけていたよ。リアの姉さんは、気丈で優しいコだな」
「はい。そうなんです。姉さんは、いつもそうです。相手に気を使わせないように、無理をする」
リアは、涙を零しながら、震える声で話す。
「良い姉さんだな」
僕は、しれっと彼女の頭を撫でた。サラサラで指通りが良く、柔らかい髪質に、モフモフのケモ耳がなんとも心地よい。この状況で、悦に浸る僕は、我ながら最低だが、この触り心地ちは、如何ともしがたいものがある。
「必ず、救い出してやるから安心しろ。今回の闘技大会で勝って、3つの希望の1つでララを取り返す!」
「はい……、はい。ありがとうございます」
リアは、その場に泣き崩れた。
さて、ともあれ、闘技大会は1週間後。リュアレ達が、準備を着々と進めてくれている。僕は、彼女達とは違った準備をしなくてはならない。
今回の闘技大会を、あえて自国で開催する狙いは、経済効果を狙ってのことだ。僕が考える闘技大会は、オリンピック的な位置づけだ。闘技大会で大儲けするぞー!
新吉原のメイン通りには、既にデパートやコンビニ、飲食店、服屋にジュエリーショップ、雑貨屋など色々な店が乱列してきて賑わいを見せている。だが、それだけでは、まだまだ生温い。元ゴルゴーン国への鉄道も敷かれ、道路も完成し、蒸気機関車も走り出した今、いよいよ、例の作戦を実行するときが来たようだ。
僕は早速、ポルタ―ドを使用し、元ゴルゴーン国へと向かった。
到着すると、竜宮新城開発の折りに協力してくれた元ゴルゴーン国の男衆が出迎えてくれた。
「鈴空様、御無沙汰しておりやす」
始めに、声を掛けてきた彼の名は、『トビ』。後ろの男衆のまとめ役であり、竜宮新城に続いて、今回の作戦の指揮も取ってもらっている。
「うむ。地下の件は見事だったな。今回も期待しているぞ」
「へい。お任せくだせぇ。きっと気に入っていただけると思いやす」
トビは早速、僕に見てもらいたいと、只今建造中の建物の前まで僕を連れて行った。
「ここになりやす」
闘技大会の会場と隣接した場所にある、その建造物は、超巨大な夢のテーマパーク。その名も、
『ワケありドリームランド』
「す、すごい出来じゃないか」
「ありがとうございやす。中の方までじっくり見て行ってくだせぇ。今、車を準備致しやす」
言うと、目の前に軽自動車をさらに安価にしたような作りの、小型蒸気車が現れた。
「ささ、お乗りくだせぇ。敷地内の歩道は全て、言いつけ通りコンクリートで滑らかに固めてありますので」
僕は、車に乗り込み、園内をぐるりと一周した。まさに、僕の注文通りのテーマパークが出来上がっていた。絶叫系やウォークスルーアトラクション、中央広場には、元ゴルゴーン国の宮殿をそのままの形で復元し、パークのシンボル的役割を担っている。
「夜にはもちろん、パレードをするよな?」
「もちろん、その予定で進めておりやす」
「新吉原から、ワケありドリームランドへの直通線路も引いたな?」
「はい。ワケありドリームステーションを設置しました」
「よろしい!」
完璧だ!素晴らしい!これで、闘技大会に来た、他の国の人たちを呼び込めるぞ。
「さすがだな。これ以上ない出来だ」
「お褒めに預かり光栄です! 」
「それと、もう1つのほうも抜かりないな?」
「へい。そちらは、シューレ様と一緒に準備を進めておりやす。ご安心くだせぇ」
こうして、闘技大会という名のオリンピックに向け、動き出しす新吉原だった。
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