第68話 「一風変わった会談」
ハテンゴ、アウラール、飢餓との会談に臨む鈴空。
リアの姿に扮し、闘技大会開催を取り付ける為、奮論する。
「結論から言います。ララを解放してください」
まずは、どストレートに言ってみた。これに対してどうゆう反応をするかで、こちらも出方を考えようという算段だ。
「キッキッキッキ。素直なヤツじゃんよー。だが、ダメだ。あいつは大事なコマだ。手放すわけにはいかないじゃんよー。それより、お前。新吉原なんか抜けて、うちに来いよ。聞いてるじゃんよー。お前は、あいつの妹で、余殃眼の持ち主だってな」
やっぱりダメだよな。しかし、リアを勧誘してきたな。予定通り、食いついてきた。
「私は、紗月様に忠誠を誓っておりますので、新吉原を抜けることはできません」
「別に、新吉原を抜けるのに、お前の考えなんていらないじゃんよー。もちろん、その紗月鈴空様とやらへの断りもいらねーじゃん。今、ここでお前を奪えば、それで話は終わるじゃんよー」
「戦争になりますよ」
「望むところじゃんよー」
まぁ、そうなるよな。強者であり、『道』を有し、兵の数でも圧倒的に有利な立場である以上、こう出てくるのは当然だ。
「わかりました。ですが、その前に、お伝えしておきたい情報があります」
僕は、1つ目の切り札を切る。
「鬼族が、動き出しました。鬼血刀を使用する者が現れたのです」
3人の顔色が一気に変わった。
「お主。冗談で言っているわけではあるまいな?」
「今、この場で冗談を口にすることが、私にとって利になりますか?」
相手が、力ずくでリアを奪うと言ってきた以上、リアよりも大事なものを対価として差し出す必要がある。それは、『命』。命と言っても、僕のじゃない。相手のだ。鬼族は、強い。以前、龍じいが話していた。デミヒューマン族最強の種族は鬼族だと。それは、天狗すらも凌ぐ。
「はッ!鬼族がなんだ!そんな奴ら燃やし尽くして、食い散らかすだけだ!」
飢餓が吠える。
「飢餓。お主は、知らなんだ。鬼族の強さを」
アウラールは、額に汗を浮かべながら言葉を発する。
「キッキッキッキ」
ハテンゴが笑い出す。
「鬼族がねー。しかも鬼血刀の使用者か。ということは、修羅道の異世界人でも現れたか?まぁ、どちらにしろ全滅させられるのは時間の問題じゃんよー」
ハテンゴとアウラールは、良く知っているようだ。
「あぁ?ハテンゴ。てめぇ、何を寝ぼけたことぬかしてやがる?」
飢餓が、ハテンゴに食ってかかる。
「飢餓よー。だから、お前は片腕になるじゃんよー。相手の力量も図れず、ただ強者のみを求め、食欲に任せて動く。ちったぁ勉強するじゃんよー」
ハテンゴは、冷静に飢餓を制する。そして僕のほうをみる。
「キッキッキッキ。それで、それがララの解放とどう繋がるじゃんよー?ララを解放したところで、結局俺達は、鬼族に滅ぼされるじゃん」
「実のところ、ララの解放を願っているのは、私です。妹として、姉を取り戻したいと思うのは当然でしょう?ですが、紗月鈴空様は、鬼族が動き出したことも視野に入れて、ある作戦を皆様に提案したいとおっしゃっています。これが、実際の本題になります」
3人は、黙って僕の話を聞いている。ここから、この一風変わった会談の正念場だ。
「鬼血刀の使い手であり、修羅道を行く者の名は『鬼神修羅』。彼女は、先刻、新吉原を襲撃しました。国1番の剣の使い手を討ち果たし、国内を破壊した後、去りました。何故、新吉原に姿を現したのかは不明ですが、彼女が求めるもの、それは闘いです。強者との闘い。それが、彼女の欲するものです」
まずは、こちらの持っている情報を差し出せる部分だけ、差し出し、相手の警戒を解く。
「修羅道の鬼神修羅か」
「10年前と変わらず、強者との闘いでござるか。戦闘狂め」
飢餓とアウラールはお互いに言葉を発する。
だが、ハテンゴは黙ったままだ。黙って、僕のほうを睨みつけている。「だから、何が言いたい。そんな小国が襲われたところで我々には関係のないこと。鬼血刀を操る修羅道の異世界人であれば、それくらいのことやってのけるだろう」と目で訴えているようだ。
「新吉原襲撃時は、単独行動だったようで、部下は連れていなかったようですが、鬼族が国として攻め込んできたら、個々の能力が我々よりもはるかに秀でた種族ということで、新吉原のような小国は、ひとたまりもないことでしょう。ですが、それは天狗族も龍人族も同じはずです」
「うむ。確かにその通りでござるな。鬼族は、下っ端の兵でも、拙者の国の3龍騎1人に匹敵する力を持つという」
アウラールが同調してきた。しかし、3龍騎ってのはなんだ?ゴルゴーン国の頭達みたいなものか?
「そこで、紗月鈴空様は、お互いに国民の血を流さずに、この危機を脱しようと作戦をお考えになられました。それが、『デミヒューマン最強決定戦』。つまり各国の代表のみが争う闘技大会のようなものです」
いよいよ、闘技大会のことを彼らに周知させた。あとは、この案を飲み込んでくれるような餌を撒く。
「闘技大会か。面白いことを考えるじゃんよー。確かに、国同士の争いになれば、勝算はほぼ皆無。国民や兵を無駄に減らすだけで、国力も下がり、悪い事ずくめじゃん」
ようやく、ハテンゴが口を開いた。
「だが、2つほど問題点があるじゃん。1つ、鬼族がこの誘いに乗ってくるか?2つ、紗月鈴空は、闘技大会を開催する利益として、本当は何を見据えている?」
さすがは、デミヒューマン大3亜の頂点に君臨する、天狗族の頭領。闘技大会で、皆で力を合わせて、鬼族をやっつけよう。なんて単純なことで、この話が終わらないことを良く理解している。では、2つ目の切り札を使うか。
「紗月鈴空様は、闘技大会での戦勝国に、全デミヒューマンの前で3つ希望を叶えられる権利を与えてはどうかとおっしゃっています」
「希望を叶える権利。成る程。面白いじゃんよー」
「うむ。拙者も異存はない」
「俺は、美味いもん食えるならなんでも良い」
チューイングガムの味が薄れてきたことを感じつつ、3人が闘技大会開催に前に向きになったのを見計らい、僕は話を最終段階へと持ち込む。
「紗月鈴空様は、闘技大会開催には、いくつかルールを設けたいとおっしゃっています。こちらの書翰をごらんください」
僕は、ポケットから手紙を1つ差し出した。『鈴空式闘技大会ルール』。その全貌がしたためられた手紙を。
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