第62話 「続・カルラ山」
夜のカルラ山に現れた、空を覆うほどの巨大な生物
突如、鈴空の前に現れた天狗
彼らの正体とは?
「さて、まずはあなたの名前と、目的を教えてもらえるか?」
人に名前を尋ねるときは、自分から名乗るものなのだろうが、まだ素性の知れない天狗に、わざわざ自分から、情報を漏洩する必要もないだろう。
「うむ。利口なことだ。よかろう。私の名前は、『鞍馬』という。私の目的は、この山の秩序を守ること」
こっちの考えは、お見通しか。まぁ、それでも話に乗っかってきてくれたのはラッキーだな。
「そうか。鞍馬。あなたは、俺達の敵か?それとも味方か?」
僕は、腹の探り合いは止め、聞きたいことを単刀直入に聞いた。
「どちらでもない。私はただ、この山の秩序を守りたいだけだ」
彼の言うことが本当で、敵ではない。害はない。それなら、問題はないが、ただ、彼は天狗だ。今、僕達が敵と定めている天狗の仲間。簡単には信用できないな。
「鞍馬。俺は、出会って早々の見知らぬ天狗を、すぐには信用できない」
「あぁ。君は、利口だ。したたかだ。だが、それで良い。それが、一国の主というもの」
おいおい。僕がいつ、国王だって名乗ったよ?なんなんだ、この天狗。
クスっ。(鞍馬が失笑する)
「不思議か?そうだな。敵意がない証に、一つ私のスキルを教えようか。新吉原の国王よ」
敵意の無い証になるかどうかは、聞いてからの判断になるが、向こうから情報をくれるってのは、これまたラッキーな状況だ。
「私のスキルは『異界調停』という。異世界とこの世界を繋ぐ、異界道の秩序を守る者に与えられる特別なスキル。すなわち、異世界人のことなら私のスキルを駆使すれば、手に取るようにわかるということだ。例えば、竜宮新城とか………」
「だーーーーー!」
あかーん!こいつ危険だ!危険すぐるー!
僕は、慌てて鞍馬の話を遮った。『地下都市・竜宮新城』のことは、新吉原でも極限られた一部の者しか知りえない超国家機密。こいつのスキルはマジだー!
「クスっ。すまない。まぁとにかくそうゆうことだ。それから、私はこのスキルがあるため、誰とも敵対することはない。常に中立の立場にある。少しは、ご理解いただけたかな?」
くそっ。こいつとんだ食わせ物だな。
「あ、あぁ。わかったよ。一応、信用してやる。それから、もう余計な事は口に出すなよ。中立が守りたいならな」
この旅が終わったら、竜宮新城で思いっきり羽を伸ばす予定の僕は、余計な心配が増えないように、鞍馬に念を押した。
僕は、深々とため息を付き、話を元の方向へ戻す。
「さっきの、アレはなんなんだ?お前が、『ヤツ』と言っていたアレだ」
僕は、先程、洞窟の外で見た、空を覆うほどの大きな物体について鞍馬に尋ねた。
「アレは、『巨鳥・カルラ』。この山を根城とする、ハンテゴが解き放った狂暴な鳥だ」
鳥だったのかー!?デカすぎるだろ………。
「巨鳥・カルラは、金色の羽毛に覆われ、夜になると、動き出す。体長はおよそ、100m。羽を広げたときの横の長さは、約300m近くにもなる。この世界最大の鳥だ。口からは、常に焔を吐き、龍人を好物とする。だが、元来、肉食性の強い動物で、生き物であれば見境なく口にする獰猛なヤツだ」
そんなもんどう足掻いても、太刀打ちできんわー!逃げるが勝ちゲー。
「ところで、さっき話に出てきた、巨鳥・カルラを解き放ったハテンゴってのは誰なんだ?」
鞍馬が顔曇らせる。
「そうだな。話しておくか。ハテンゴは、天狗の頭領の名だ。そして、私の兄でもある」
天狗の頭領ね。成る程………。
って、兄ー!?じ、じゃあ、鞍馬はやっぱり敵!?
「兄のハテンゴと私は、腹違いの兄弟だ。兄は、天狗と異世界人の間に生まれ、私は、天狗とヒューマンの間に生まれた。そしてハテンゴは、『道』を有して生まれた。つまり、鈴空。君と同じだよ」
なっ!ってことは、今、天狗には『道』を選択した異世界人が2人いるってことか!きっと、僕と違って、チートスキルを持っているんだろうなぁ。ヤバすぎるだろう。あのデタラメな力が2人って。
「ん?でも、ハテンゴはこっちの世界で生まれたんだよな。異世界人じゃないぞ。なのに、『道』の選択者なのか?」
そう。僕も含め、ワケありでこっちの世界に転移してきた異世界人にのみ、『道』を選択する機会が与えられる。こっちの世界で生まれた者は、その権利を持っていないはずじゃないのか?だって、ワケあり、じゃない!
「ハテンゴは、異例中の異例。この世界にとっての異端者。彼は、兄は、地獄道の前任者と天狗の間に生まれた者。だから、彼は転生者。そして彼の有する『道』は、『天狗道』。それはつまり、『地獄道』と同義」
転生者。地獄道………。なんかまた、悍ましい名前の道が出てきたな。危険な匂いがする。
「兄は強いよ。ただ単純に。『道』の中でも最悪の地獄道。中立者として、彼とは、戦わないことをお勧めする」
できれば、僕だってそんなのと戦いたくない。戦いたくないのだが、僕には、野望がある。僕の傍にいるケモ耳達には、常に笑顔でいてほしい。
「鞍馬。忠告ありがとう。それから、たくさん教えてくれてありがとう。始めは君を敵と疑った。こちらから名乗りもせず、申し訳けなかった。だけど、俺は俺の野望のため、ケモ耳達のため、戦うよ」
僕は、野望を見失うわけにはいかない。それに、今はこうして、一緒に戦ってくれる仲間が増えた。そして帰る場所もある。竜宮新城で、僕の帰りを待つ、ケモ耳達を悲しませてはいけない!
「わかった。では、せめて、天狗の屋代まで案内をしてあげよう。私は、君の道、生き方、嫌いじゃないよ。中立な立場上、肩入れすることはできないが、今の兄の行動は、弟として目に余る」
「すまない。よろしく頼む」
そして、僕らは、カルラの脅威が去るのを待ち、翌朝、出発することとなった。
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