第61話 「カルラ山」
いよいよ、天狗の領地『カルラ山』に足を踏み入れる鈴空達。
カルラ山に着くと、登山口と思われるところに、大きな朱色の鳥居が鎮座していた。鳥居上部の中央には、額束が取り付けられており、文字が書かれている。
『異界道』
既に、異世界なのに?僕的には、そうゆう気持ちだ。ここからさらに異世界に行くのか?異世界からの異世界ってどんな世界だ?
どちらにしろ、この鳥居をくぐれば、敵地だ。
「皆、準備は良いか?」
僕以外の8人は、無言で頷いた。皆、表情が強張り、無駄口を叩こうとする者など1人もいない。あの、いつも眠そうにしている、ステーノでさえ。強者ほど、危険察知能力は高いのだろうか。今のこのパーティーでは、間違えなくステーノが1番の強者だろう。その彼女が戦闘態勢と言わないまでも、しっかりと覚醒している。
「よし!行こう!ララを救出し、リアの眼を治してもらうために」
僕を中心にして、円形に皆が隊列を成し、鳥居をくぐる。と、その時。
ザッ!
何かが動く音がした。
「誰だ!?誰かいるのか!?」
僕達は、警戒態勢に入る。だが、僕の呼びかけに返答はない。
「紗月。辺りに気配は感じるか?」
「特に、そういった感じはせぬようじゃ」
紗月の感知にも引っ掛からないとなると、動物か何かだったのか?僕達は、引き続き、警戒を緩めず、隊列を揃えて、先に進み始める。
3時間程歩いただろうか。
「少し休憩しよう」
僕達は、その場に腰を下ろし一呼吸ついた。しかし、ここは敵陣。見張りは交代で行う。僕以外の7人で。僕には常に、ネメアが付き添っている。ネメアは、バランス型ではあるが、特に防御に秀でたコだ。大将の傍付き、もとい護衛としては、彼女が最適だ。
「ネメア。さっきカイザから聞いたんだが、俺が鬼神修羅の攻撃を受けたときに、打撲程度の傷しか負わなかったのは、お前のスキルのおかげなのか?」
龍じいを倒したとされる剣技をその身で受け、打撲で済むなんて奇跡だ。ジャージを着ていて、防御力が高かったとはいえ、それなりの傷は付くはずだ。
「は、はい。そうです。あれは、ステーノ様に教わりました。スキルの『融合』です」
融合。そういえば、ステーノが魔法融合を使っていたっけ。アレのスキルバージョンってところか。寝てるだけかと思っていたが、ちゃんとやることはやっていたんだな。
「それで、融合するとどうなるんだ?」
「あ、あのスキルは『防楯・十二単』といって、いつも使っているスキル『防楯』をたくさん重ねて、一気に発動させてます。その分、1回の発動で意識を失うくらいに疲労しますけど………」
成る程。あの緑色の楯をたくさん折り重ねて、僕を守護していたわけか。
「で、でも鈴空様に打撲を負わせてしまったということは、刃はギリギリ防げたけど、衝撃は突き抜けたってことですね。私の楯の効果も完全に消えてますし、紙一重だったみたいです」
マジか!九死に一生じゃねーか!ガチで危なかったんだな。さすがに、龍じいを倒した剣技というところか。
「鈴空様!」
カイザが声を挙げる。同時に、僕以外の8人は、僕の周りの守備を固めた。
「悪いことは言わん。すぐにこの山を下れ。もうすぐ、日暮れ。ヤツが来る頃だ。今ならまだギリギリ間に合うだろう」
突如、僕達の目の前に現れ、忠告をしてきた人物。彼は、背中に小さな羽を生やし、白髪で、顔は燃えるように紅い。山伏の装束に、一本歯の高下駄を履いている。鼻は高く長い。その姿は、まさしく天狗だった。
「天狗か。俺達を消しに来たのか?」
天狗は、僕の質問に不思議な表情を浮かべ言葉を続ける。
「君達に敵対する気はない。ただ、命欲しくば、すぐに山を下ることを薦める」
そうゆうと、天狗はその場を後にした。
「どうゆうことだ?日が暮れるから帰れって?」
「いきなり現れて、そんなこと言われても困るっスね」
「いいじゃない!あんなワケのわからないヤツの言うことなんて無視しましょ!折角ここまで来たのに、今更引き返せないわよ!」
皆、メデューの意見に賛同する。僕達の目的は、あくまでララの救出。この先、何があったとしても進む以外に道はないのだ。
「だが、気になるな。ヤツが来るって、一体誰のことなんだろう?」
意味深な言葉。無視するにしても、軽視することもできない。
「疲れも溜まってきたところだし、今日のところは身を隠せそうな場所を探して休もう」
僕は、メデューのように猪突猛進な思考はできない。むしろ、熟慮断行といったところか。だが、決して、メデューを馬鹿にしているわけでない。恐れることなく、目的に向かって前進する勇敢さを、僕は買っている。
日暮れ前に、身を隠せそうな小さな洞窟を見付けた僕達は、穴の中の安全を確認し、今晩はそこで過ごすことにした。
皆が寝静まったころ。木々が風で激しく靡く音に僕は、目覚めた。洞窟の入り口で見張り役をしているセウスの元へ向かう。
「なんだか、木々が騒がしな」
「鈴空様。先程から、急に風が強くなってきたニャ」
僕は、しばらくセウスと共に、その場で様子を見ることにした。月明りの下、山の中の洞窟で、猫耳少女と一緒に過ごす夜。実に風流だ………。これで、酒でもあれば最高なん、
「ニャ?鈴空様。また風が一段と強くなってきたニャ」
僕が感慨に浸っていると、突然、辺りに暗闇が落ちた。
「なんだ?急に暗く………」
「り、鈴空様、あ、あれ………」
セウスが、空に向けて、指を付き出し、動揺した様子で僕に声を掛けてきた。
途端。
周囲の木々のざわめきが一層激しさを増す。まるで、ヘリコプターの着陸地点にいるかのように激しい突風が吹く。
僕は、激しい突風の中、手で顔を覆い、隙間のできた指の間から、セウスの指が差す方向を見上げた。
「なんだこりゃ!?」
僕達の見上げた先、上空にはとてつもなく大きな何かが飛んでいた。あまりの大きさにその全貌は確認できなかったが、突風の吹く中、羽ばたくような音だけは聞き取れた。
「昼間会った天狗が言っていた、『ヤツ』ってアレのことか!?」
僕が、それの正体を確認しようと、洞窟を出ようとしたその時だった。
「待たれよ!今は、出てはいかん!」
昼間会った天狗が、突如目の前に現れ、僕を制止した。
「鈴空様から離れるニャ―!」
セウスが一気に戦闘モードに入る。外の騒ぎを感じ取った他のメンバーも、洞窟から一斉に出てきた。
「ま、待て、お前ら。武器を下ろせ。どうやら、こいつに戦う意思はないようだ」
天狗は、持っていた扇子を地面に投げ、丸腰になっていた。
「さっきの巨大なアレについて知っているようだな。話を聞かせてくれないか? 」
天狗は黙って頷く。
戦闘の意思が無いことを確認し合った僕達は、天狗を引き連れ、洞窟の中へと戻った。
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