第30話 「ワケあって作戦変更しちゃいました」
リアの涙で、作戦変更を決断した鈴空。常婆救出へと動き出す。
そして、西華からの情報で、敵の素性が割れのだが、その相手とは………
いよいよ、ワケ通で初めての、大きな戦闘の序章が始まる
僕とリアは、新吉原に帰るや否や、すぐに幹部を招集し緊急会議を開いた。
「事情は今話した通りだ。現在、ライフで西華が情報収集をしてくれている。俺は、今回の犯人をリザードマンの村を襲撃した奴らと同じだと考えている」
3人とも真剣に僕の話を聞くことに没頭している。急な展開に僕自身も少し戸惑いを持ちながらの話だが、リアの表情を見た3人は、ただそれだけで事の重大さを察していた。
「今回、俺は、常婆を取り戻すために動くことにした。資金調達の話は一旦保留として、俺とリア、西華がいない間の新吉原防衛について話し合いたい」
戦略はシンプルかつ、実行可能な範囲で伝えることが重要だ。特に、まだ寄せ集め集団の域を出ない新吉原のような国は尚更だ。
「作戦は、シンプルだ。戦うなだ。俺たちは、相手の素性が全くわからない状態だ。下手を討てば国が滅びかけない。そこで、奇策を用い、相手を攪乱し、その間に逃げる」
真正直に正面切って戦闘をしたところで、まともに戦えるのは、龍じいくらいのものだろう。さすがの龍じいも、もし大軍で押し寄せられたら多勢に無勢。国民を守り切ることは困難。
「つまり籠城戦ってことでおじゃるか」
「うん。ただし、それが出来ない状況になった場合は………」
「わかってるでおじゃる。それ以上は、言わずもがな、でおじゃる」
龍じいの強さは、僕の身体が一番知っている。剣を教えてもらったからではない。初めて龍じいと戦闘した際の、あの圧倒的な剣技と気迫は凄まじかった。
「龍じい、ありがとう。では、作戦の詳細を伝える。奇策として我々が準備するものは、外壁に魔法の砲台を造る。これは、以前よりシューレに頼んである。遠隔操作が可能な優れものだ。そして門は正門以外は封鎖。国内へ侵入できる経路は正門のみとし、正門前に龍じいとカイザ、その後方にネメアを配置する。その間に、非戦闘員はデパート地下にある、作戦本部兼シェルターへ避難。龍じい、カイザ、ネメアは深追いはしなくて良い。敵の進軍を足止めし、手が休んだのを見て、退却。シェルターへ移動だ。あとは、国中にある監視システムで、作戦本部の魔法モニターに移される情景を確認しながら、ダミー国民を排出しろ。それで時間を稼いぎ、相手が退くのを待つ。以上だ。準備期間は2週間とする。シュレー。砲台とダミー国民の準備はどうだ?」
ようは、最悪国は捨ててでも、国民さえ守れればそれで勝ち戦ということだ。
「う、うん。魔法の砲台、および遠隔操作用の機械は、既に完成してるよ。あとは取り付ければ良いだけ。それから、ダミー国民排出のためのスキル分岐器も指示された箇所に設置済みだよ」
シューレさすがだぜ。できる人は男で女でも大好きだ!
僕は、リアルの世界で使用されていた強い武器を異世界で開発できないか考えていた。だが、その武器について他の者に教え、材料を集め、それでも出来るか出来ないかわからない状況では現実味が薄く、開発にも時間が必要だと思った。それにそれを作るための材料がすぐに手に入らない可能性もある。そこで、僕は、異世界に在る物を応用できないか考えることにしたのだ。元々存在するものの応用であれば、開発もし易いのではないかと考え、リアルの世界の知識を取り入れつつ、シューレに相談した。結果、案の定、開発時間は短縮され、思い描いた通りのものが完成したというわけだ。
取付けは、国民全員でかかればすぐにできるな。ダミー国民はスキル分岐器が開発されたのであれば、あとは、元のスキル使用者であるルリアの出来次第だ。
「ルリアどうだ?いけそうかい?」
「うん。ルリアのスキル『ドッペル』を使ってダミー国民を量産。だよね?大丈夫。ルリアできるよ。皆を守るためなら。もう失いたくないもん」
ルリア………。なんて健気で良いコなんだ!
「では、皆手筈通り早速作業にかかってくれ!他の施設を建設中の者達も全員集めて、そちらを最優先に準備を頼む」
僕は、作戦を伝え終わり、再びライフに戻った。そして急いで常婆の古い店を訪れると、既に情報収集を終えた西華が店先で待っていた。
「鈴空様。おかえりやす」
「うん。そっちは何か情報はあったか?」
「はい。なんや、えらいことになってるみたいやわ」
西華は、集めた情報を僕達に伝えた。
「それは、確かな情報ですか?」
リアが真顔で西華に詰め寄った。
「はい。相手は、デミヒューマン大3亜の一つ、『ゴルゴーン』で間違えおまへん」
その名前を耳にし、リアの表情が強張った。
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