第15話 「ワケありの旅立ち」
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鈴空、契機合縁、リアは、南へと旅立つ。彼らを待ち受ける、旅の始まりの序章とは………。
僕達は、シューレの店を後にし、南へ、デミヒューマンの領地へ向かっていた。リアがなんの意図を持って南に行きたいと言い出したのかは、結局わからないままだけど、リアと二人っきりってのは、役得だよな。
「主様よ。何をにやけておる?もうすぐ、デミヒューマンの領地に入るぞ。警戒されよ」
ぬっ。そう。二人っきりではなかった。こいつが居たんだ。契機合縁。くそっ。
「ところで、契機合縁………。名前長くて言いづらいんだが………」
毎回毎回、こいつと話すとき、フルネームを言うのは、さすがにダルい。
「では、主様よ。わしに、名をくれ。新たな、わしの名を」
ほっんとこいつは、毎回急なんだよな。突然名前と言われてもなぁ。ん------。
「そうだなぁ。じゃあ、俺の苗字をやるよ。『紗月』。嫌か?」
急に言われてもカッコいいの思い浮かばないし、しょうがないだろー!自分の苗字なら言い慣れてるし。
「主様の名前の一部をいただけるのか!嫌なはずなかろう!悦んで、御尊名頂戴致します」
「紗月さん。良かったですね。これで、紗月さんと鈴空は、名前で繋がれましたね。切っても切れない仲です」
「うむ。繋刀の一振りに相応しい名前だ。礼を言うぞ。我が主様よ」
え?そんな大袈裟に繋がれたとか、感謝とかされても、適当に付けた、僕の苗字なんだけど………。ま、いいか。喜んでくれているみたいだし。
「鈴空さん!構えて!」
突然、リアが声を張り上げる。デミヒューマンが近くに居ます。
「うむ。この感じは………、リザードマンじゃのぉ」
え?おいおいおい!いきなりの戦闘モードかッ!いやいやいや落ち着け、僕!今、僕の着てるジャージは、防御力の高い………、ただのジャージだよー!やっぱりコレどう見たってただのジャージにしか見えねーよぉ。
「どこに?どこにいるんだ?」
「20メートル程先です。まだ、こちらには気付いていないようですが………」
「いや、気配を感じ取っておるようじゃ。ぬっ!気付かれたぞ!主様、構えよ」
「えー!ちょっ、どこから来るのー!待って待って!俺は、まだ戦闘未経験だぞー!」
ガサガサと草をかき分け、足音が地鳴りのように僕達に近づいて来る。僕は、緊張と恐怖で、頭の中が真っ白になっていた。
「来た!鈴空さん!横に跳んで!突進してきます!避けてー!」
次の瞬間、長い草間の影から、トカゲのような体をした、デミヒューマンが飛び出してきた。
「わぁ!!!」
僕は、横に跳ぼうとしたが、体が強張り、その場に倒れこんでしまった。ヤバい!攻撃を食らう!僕は、衝撃を覚悟し、身を丸くする。
魔法『ミスト・ラール!』
刹那、突如、突風が吹き、僕の体をリザードマンの攻撃から回避させた。
「鈴空さん!大丈夫ですか?」
リアが、僕に駆け寄ってきた。
「い、今のは………」
「すいません。荒っぽくなってしまって。私の魔法です。風魔法で鈴空さんを吹き飛ばしました」
どうやら、僕は、リアの風魔法に救われたようだ。そして、風魔法によって、吹き飛ばされた際の、体への衝撃は、僕に冷静さを取り戻させてもくれた。
「主様よ。大丈夫かの?」
冷静さを取り戻した、僕の耳に、紗月の声が届く。目の前のリザードマンは、僕達の前に立ちはだかり、戦闘態勢に入っている。前傾姿勢で、息を荒立て、尻尾を地面に力強く打ち付けて、こちらを威嚇している。
「ど、どう、すれば………」
僕は、冷静さを取り戻しはしたが、逆に今の状況を理解できたことで、恐怖は倍増していた。
「主様。シューレの店でやったように、わしに力を注ぐのじゃ!透明化を思い浮かべてみぃ!」
僕は、紗月の言うがままに刀の柄を強く握り、力を注ぎこんだ。刀身は、以前と同様に、透明化した。
だが………
「刀身が透明になってもそれだけじゃ攻撃に転じられないじゃないか!」
「大丈夫です鈴空さん!私の風魔法を使ってください」
魔法『ミスト・ラール』
リアは、先程と同じ突風の風魔法を唱えた。その場に発生した突風は、みるみる刀へ吸い込まれていく。刀身は、風の刃と化した。
「よくやったのぉ。デミヒューマンの娘。これで、ヤツを刻めるぞ!」
確かに、剣にはなったようだ。でも、僕には、剣のスキルはない。リアルの世界で剣道や武術を嗜んでいたわけでもなく、ましてや対人戦は初めてのことだ。------できない。僕には、到底、あのリザードマンを切るなんてできっこない。あぁ。これが、ゲームだったらなぁ。指先でキャラクターを操作するだけの簡単な作業なのに………。
「主様、主様!」
紗月が呼んでる。
「大丈夫じゃ。わしが、ある程度は剣技を補助する。わしの言う通りに動いてくれんか?」
今さっき、出会ったばかりの人、もとい、しゃべる刀を信用して、アレに突っ込めっていうのか?命を預けろと?生き返れる保証もないんだぞ。まだ、こっちの世界に来てから、僕は何もしていない。大層な野望を掲げて、意気揚々と乗り込んできた異世界。いきなり、初っ端からこんな生物との戦闘は想定していなかった。あぁ、ルート間違った………。
「主様。大丈夫じゃ。わしと主様は、すでに名前で繋がれておる。わしの剣技は、主様の中にある。そうやすやすと主様を殺させたりはせん。わしを信じてくれ!」
紗月の声に僕は、目が覚めた。
「鈴空さん。私もサポートします。私には、あのリザードマンを討てるほどの魔法は使えません。鈴空さん、お願いします! 」
リア………。僕が、ここで逃げ出せば、何もしなければ、リアも殺されるだろう。僕の理想の世界も誕生しないだろう。つーか、そもそも理不尽だ。なんなんだ!この冒険の始まり方は!運営がいるなら、絶対に運営を訴えてるところだ!無理ゲーもいいところだ。あぁ、なんか段々イライラしてきた。リアルでもそうだった。いつも僕の目の前には、理不尽という壁が立ちはだかり、僕の行く手を阻む。どうあがいても、権力には勝てず、間違ったことを無理矢理正しいに置き換えさせられる。もう、そんなのは、たくさんだ。もう、そんな世界はいらない。もう、いい加減、自分の思った通りの人生を歩みたい。好きなことをして、生きていくんだ。誰にも僕の邪魔はさせない。僕は、この世界で、異世界で、僕の理想郷を爆誕させる!
「いくぞ!!!紗月!」
僕のイライラは、妄想は、頂点に達し、リザードマンに切りかかった。
読んでいただきありがとうございました。
これからも連載を続けていこうと思っておりますので、ご意見、ご感想等、寄せていただけると勉強にもなりますし、執筆意欲も出ますので、ぜひよろしくお願いします。