4話
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本当にありがとうございます。
「ところで従兄と兄上は何をお話されていたのか」
田横が話を変えた。
「うむ…」
田儋と田栄は苦い顔をする。
そして田儋は先程とは違い、感情を抑えた様な低い声で言った。
「また賦役だ。県令から下知が来た」
「そんな!二ヶ月前に北方の補強と称して徴兵されたばかりではないですか!」
田横が驚きと怒りで声を荒げる。
「今度は皇帝の宮殿と陵墓の建設のためらしいです」
田栄は冷静な声色だが、その眉間には深く溝が刻まれている。
「何が皇帝か!多くの民を連行し過酷な労役を課し、無情な法で縛り上げる。民は疲弊していくだけだ!」
「横、声が大きいぞ。誰に聴かれているかわからん。県令の耳にでも入ったら面倒な事になる」
「しかし」
「ただでさえ、あの新しい県令は、我らを煙たがっている。弱味があれば嬉々として付け込んでくるだろう」
「それに客人の前です」
確かに部外者の俺がいたら話しにくい内容だ。
やはりこの三人は秦の支配に大きく不満を持っているらしい。
歴史通りなら近々反乱が起きるだろうし、中国全体が戦争になる。
何処にいても巻き込まれるなら、有力者の近くの方が安全かもしれない。
俺は元の時代に帰る為にも死ぬ訳にはいかない。
「とにかく人を出さねばならん。今回は我に任せておけ」
「……わかりました」
田横は拳を固く握り締め、全く納得していない様子だ。
「一先ず家に戻りましょう。田中に部屋を用意しなければなりません」
田栄が俺の肩を一つ叩いた。
「あ、はい。お世話になります」
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田儋の屋敷からほど近く、田栄の屋敷にお邪魔した。
先程の本家程ではないが、大きく品のいい屋敷だ。
ここが俺の世話になる家か。
「こちらの部屋をお使い下さい。着物も用意させます。後程、食事の準備ができましたらお呼びいたしますので」
家僕といわれる使用人に案内され部屋に入る。小ぢんまりした部屋だが掃除が行き届いている。
ベッドの様なものに腰掛け、ふぅ、と一つため息を吐いた。
せっかく幸運に恵まれて見つけた寄生…じゃなくて寄宿先だ。
ここを拠点に現代へ帰る手掛かりを探したい。
斉は戦乱の最後まで国を存続する。
なのでなるべく長く居たいし、今後の反乱を見据えての情報も欲しい。
こっちも知っている、というか覚えている情報を出して俺の存在価値を高めよう。
最大の問題は信じてもらえるかどうかだが……。
うーん、何を言っても胡散臭い、よなぁ。
用語説明
陵墓 (りょうぼ)
皇帝・皇族の墓。
家僕 (かぼく)
使用人、召使い。