2話
門をくぐり、田横は使用人らしき人に馬を預けている。
その間に改めて屋敷を観る。
他の家の屋根は藁葺きや樹皮などだが、この屋敷には瓦が載っている。
壁も、漆喰のような白壁だ。
梁にも華美ではないものの、彫刻が施してあり、品の良さが窺える。
庭は手入れが行き届き、金柑だろうか柑橘系の樹木や桑の木などが植えられている。
「ここは本家の従兄の屋敷だ。まずは従兄に話を通そう」
え、ここ田横さん家じゃないの?
俺のニート生活は?
「横様」
屋敷の前で老人が待っていた。
「従兄の家宰だ。こちらは客の田中だ」
「ようこそいらっしゃいました。この家の家宰を務めております。何かあれば私にお申し付け下さい」
そう言って、家宰と呼ばれた男は頭を下げた。
執事みたいなものか。いや秘書の方が近いのかな。
「従兄は居られるか」
「はい、栄様も来られております」
「それは間がいい。この男のことで話がある。二人の元へ案内してくれ」
「畏まりました。どうぞこちらへ」
家宰さんに促され、後を付いていく。中庭を囲むように多くの部屋がある。
その中でも一際大きな部屋の前で止まった。
「横様と御客人をお連れしました」
家宰さんが中へ告げると、
「入ってもらえ」
張りのある声が聞こえた。
田横の後ろに付いて中に入ると、二人の男が立っていた。
一人は髪をきれいにまとめ、顎の髭は筆のように滑らかで長い。切れ長な目が涼しげだ。
線は細いが、背筋が真っ直ぐ伸びていて爽やかな佇まいだ。
一言で言うとイケメンだ。爆発しろ。
もう一人は背が高く、がっしりとした体格で、角張った輪郭と大きな丸い目が特徴的だ。
身体全体から精強さを感じる。
こちらは一言で言うと親分。
「横よ、よく来た。ちょうどお前にも話があったのだ」
背の高いがっしりの方がいう。
「従兄、突然の訪問で申し訳ない」
そっちが従兄かい!どうみてもそっちが兄弟に見えるんですけど。
細い方が田横のお兄さんか。そういや目が似てるかな?
「そちらの御仁は?また客人ですか?」
お兄さんが訊ねる。
俺は慌てて頭を下げ、
「たな、じゃなかった。で、田中といいます」
噛みながら礼をした。