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63話改訂

再びあーてぃ様から地図を頂き、更新しております。魏や趙など旧国の大体の位置関係もご覧頂ける様になりました。是非ご確認下さい。

あーてぃ様ありがとうございました。


11/29 62話と併せて改訂いたしました。大筋は変わっておりませんが、独立を明言するのを避けております。

 荷物を横に置く仕草をする。


「まぁ、その話は置いておいて」


 張耳(ちょうじ)陳余(ちんよ)の目が架空の荷物を追いかける。

 それを見て、俺はにこやかな笑顔を造り、張耳を持ち上げにかかる。


「聞けば張耳殿は、あの(・・)信陵君(しんりょうくん)の食客であったとか。その、張耳殿とその親友陳余殿が、長い雌伏の時を耐え、とうとう打倒(しん)に立ち上がったと、ここまでの道中、噂で持ちきりでしたよ」


 俺の言葉を聞いた張耳は、我が意を得たりと満面の笑顔をつくる。


「そうか、持ちきりだったか!まぁそうかも知れんなぁ、ふふっ。あの(・・)信陵君だからな!」


 鼻の穴が大きく膨らんだ。よし、このまま煽てて……。


「使者殿、もう止まらんぞ……」


 陳余は頭を振ってため息を吐き、小声で言うと、部屋の端で壁に背を預けた。


「信陵君は稀代の英雄であった!秦に怯える()を支え続けた正に義の男よ!使者殿、知っているかね?いやもちろん知っていよう。あの秦から(ちょう)を救った戦いを」


「いや、あの」


「秦の脅しに屈し軍を止めた安釐王(あんきおう)に対し、信陵君は趙が滅びれば次は魏だと王を何度も説いた。しかし首を縦には振らぬ王に信陵君は見切りをつけ、自らの食客を率いて…………」


 あ、あれ?ここにも講談師?凄い勢いで語り始めたぞ。自惚れ屋と見て、自尊心をくすぐってみたが。

 十余年の潜伏生活の反動か、陳余の態度からして、きっと会う人会う人に話しているんだろう。

 でもその話は別の機会にしてくれないかな……。


「その」


「そうなのだ!その(・・)時、わしはすでに外黄(がいこう)の県令を任せられていたので、同行出来なかったのが一生の後悔よ。いやしかし同行しなかったため、今こうしてここにいるのかも知れん。でな、その後……」


 ……この話いつ終わるの?相槌すら打てんぞ。

 陳余に目で助けを請う。あ、目を逸らされた。


「……と、そんなことがあり、そこでわしは富豪の娘を娶ったわけだ。やはり見る者から見れば分かってしまうものだなぁ、はっはっは。それでわしも信陵君に倣い、食客を養うことにしてな。

 あ、そういえばここまでの道中と言ったがどこを通ってきたのかね、んん?どの辺りで噂になっていたのかね、んんん?」


 う、うぜー!面倒くさい爺さんがここにもいたよ!


「あ、沛とか……」


「沛か、そうかそうか沛でな、噂になぁ、ふふっ。おお、沛といえば劉邦(りゅうほう)という男が一時期、客として来ておったな。奴が沛の辺りの出だったのう。タダ飯食らって何もせず、そのうち出ていったろくでなしだが、何か魅力があるというか、放っておけぬ男で覚えておる。あの男が噂の元かのう、まいったのう。使者殿、劉邦という名の男に会わなんだか?」


 え、劉邦と面識あるのか。

 あのおっさん意外と人脈広いな、いや意外じゃないか。こういうところが最後に勝った要因なのかもな。


「はい、お会いしましたよ。劉邦殿は今独立し、沛の主となっております」


「なんと!何か持っている男とは思ったが、沛の主とは。奴も信陵君に憧れていただけの男ではなく、やる時にはやるのう」


 まぁ、やったのは俺達だけどな。

 しかしいかんな、ペース乱されっぱなしだ。

 このままじゃ自慢話で終わってしまうぞ。もう少しくすぐってみよう。嫌だけど。


「お二人も劉邦殿のように、どこで立っても名主として民に歓迎されましょう」


 その言葉を聞いた張耳は、熱のこもった声で否定する。


「いや、我らは元々個人の栄華を欲して動いてはおらん。国家の、この世の運営に加わりたいのだ。

 秦より前の時代、列強が肩を並べる時代に国を動かしていたのは王ではない。孟嘗君(もうしょうくん)(しか)り、藺相如(りんしょうじょ)然り、各国の重臣であった。我らの目指すところはそこよ」


 なるほど。飾りの王より実際に国を動かす宰相になりたいのか。

 そして、


「では陳王の元で?」


 張耳は眉間に皺を寄せ、鼻息荒く語る。


「いや、ここだけの話、あの方はここ(ちん)で立ち止まり、改めて周りを見回した時、夢から覚めたようだ。

 将の要求や補給のために各地に軍を派遣しているが、当の本人は野心はすでに満たされ、手に入れたものを守ることに夢中だろう。奪うことしかしてこなかった者が、果たしてそれを守れようか」


「張さん」


 陳余が口を挟む。ぶっちゃけ過ぎたのだろう。

 しかし張耳の口は止まらない。


「それに彼は、我らや周文(しゅうぶん)殿などの名に気を使っているが、この国を乗っ取るのではないかと疑っている節がある。

 佞臣(ねいしん)が周りを固め、我らの意見が通らぬことが多い。王の即位の件もそうだ。咸陽(かんよう)を落としてから名乗れば、どこからも文句は……」


「張さん」


 陳余が張耳の肩を掴み、言葉を止める。


「ち、陳さん」


「張さん、いくらなんでも喋り過ぎです。使者殿もあまり(おだ)てないで頂きたい。どうか今の話は内密に」


 いやちょっと水を向けただけじゃん。

 俺がろくに話す間もなく、勝手に語り始めたんじゃん。

 まぁ、でも収穫はあった。なんか試合に勝って、勝負に負けた気がしないでもないが。


 陳勝はこれ以上を望んでいない。

 張耳と陳余は国を動かすポストを望んでいるが、陳勝の元ではそれは望めそうにない。そして(ちょう)へ向かう。


 確証はないが、別に王を立てて独立って可能性もあるか?


 あと、張耳は自惚れが強く、おしゃべり。すげーおしゃべり。迂闊なほどおしゃべり。


 それはさておき、他の将はどうなんだろう。


「わかりました。今話したことはここだけの話としましょう。が、あとひとつお教え願いたい。魏に向かわれる周市殿はどのような方でしょう」


 この二人のように陳勝に不満を抱えているのか?それとも佞臣の類いか?


「うむ周市は、あいた!」


 肩を掴んだ陳余の手に力が入った。そしてため息を吐き、


「張さんが話すとまた長くなる」


「ひどいではないか」とぶつぶつ口の中で文句をいう張耳を無視し、陳余が応える。


「周市は野心家だが、無謀ではなく自分をよく知っている。無茶な事はしないと思うが、魏と隣接する斉も気をつけた方がいい」


 なかなか優秀な将みたいだ。

 しかし野心家か。気をつけた方がいいということは、陳勝の指示を無視して斉に攻め入ることもあり得るってことか。


「大変有意義なお話ありがとうございます」


 陳余が薄く笑みを浮かべ、応える。


「いや斉の意向、そして沛のことも教えて頂き、こちらも参考になった。我らと使者殿とは良き関係を築けると思う」


 またそういう含みを持った言い方するし。


 しかし二人との会談は、陳勝との謁見より遥かに成果があった。

 秦の倒れた後を見据えている者が少なからずいる。

 しかし官軍はまだ章邯(しょうかん)が出てきていない。張耳達が趙の平定する前か、後か。彼らと協力してあたれば勝てるか?


 なんにせよ斉に手ぶらで帰ることにならずにすんだな。



 俺はまだ話し足りなさそうな張耳とそれを諌める陳余に別れの挨拶をして、田突(でんとつ)華無傷(かぶしょう)の待つ部屋へと向かう。


 部屋に着くと、田突は寡黙に座ったまま、華無傷は長い間待たされ退屈だったのか、体を動かしていた。


「随分と長い謁見でしたね」


 謁見は短かったんだけどね。その後、お喋り爺さんに捕まってね。


「様々な情報を得ました。早く斉へと戻り、皆へ伝えねばなりません」


 二人に経緯を話し、城を後にする。宿に戻り旅支度を整えた。


「さぁ斉へと帰りましょう!」


 漸く田横や、皆のところに帰れる。


 そう思うだけで、心が軽くなった。

孟嘗君 (もうしょうくん)

戦国四君の一人で田文(でんぶん)のこと。

斉の王族で多くの食客を抱え名声を得た。秦、斉、魏で宰相を務め、各国の国力を高めた。

その名声と影響力から命を狙われたり、疎まれることが多く、「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」の故事でも有名。



藺相如 (りんしょうじょ)

戦国末期、趙国の臣。元は宦官の食客であったが、楚から譲られた名宝和氏(かし)(へき)と秦の領地十五城と交換する使者に抜擢され、壁を騙し取ろうとする秦側の虚言を暴き、名宝を無事持ち帰った。その功績から正式に趙の臣となった。

その後も知恵と剛胆さで「刎頸の交わり(44話参照)」を交わした廉頗(れんぱ)と共に趙を支えた。

「完璧」「怒髪天」の語源の人。

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