51話
おっさんの正体が明らかに(棒)
「どこに行っていたのですか!」
沛に近い山の中に怒声が響く。
「いや、ちょっと気晴らしにな。雨が降ってきて参った参った」
「今がどういう時か分かっているのですか!この時を逃せば…」
「まぁまぁ、分かっとるよ。あぁ兄さん方、その辺に座ってくれ。そう、そこの岩にでも。特等席だ、カカッ」
山に入るなりおっさんは、一人の男に捕まり説教を受けている。
が、まるで堪えてない様子だ。
声を聞いてワラワラと人が集まってくる。皆粗末な格好で、辛うじて服としての役目を果たしている様な格好の者もいる。
田突と華無傷が警戒して腰を落とす。
おっさんは説教を受けながら、こちらに手を振り、心配ないと警戒を解くよう促す。
「人の話を聞いているのですか!?」
説教をしている男は周りの男達と違い、着ている物は地味だが清潔で、身綺麗だ。髭もきっちり整えられていて、その顔は真っ直ぐな眉が印象的な、なんというか公務員って感じだ。
そして広い額が物悲しい。
なんか、うん。苦労してんだろうな……主にあのおっさんのせいで。
「それより蕭何殿よ、その堅苦しい口調はどうにかならんのかね。今までのように話してくれてもかまわんぜ」
おっさんは男に苦笑いを向けていう。
「私も曹参も貴方を主として、旗を立てようと決めたのです。ケジメはつけねばなりません。貴方も私達を部下として扱って頂きたい」
蕭何と呼ばれた男は、真面目くさった口調で語る。
「俺が主ねぇ。じゃあ、まぁ仕方がないか」
おっさんはまたカカッと笑う。
あぁ、また知ってる名前が出てきた……。
嘘だろ、このおっさんが?
心の準備が……。
「それで、この方達は」
蕭何はため息混じりに問う。
「ああ、これから沛に行くところらしくてな。この兄さん方に長老へ文を届けて貰えばどうかと思ってな。投げ込むよりも確実だ」
そういっておっさんはニヤリと笑顔を向ける。
「ふうむ、しかしどこの誰とも知れぬ者に大事を託すのは……それに文だけで長老達を説得出来るかどうか」
蕭何は興味深そうにこちらを見るが、迷っているようだ。
「どこの誰とも知れぬからいいんじゃないか。県令の手下どもも警戒を薄めるだろう」
「ううむ、そうかもしれませんが」
いやいや、ちょっと待て。
「あの」
俺は堪らず声を掛ける。
二人がこちらを見た。
「あの、私達は先を急ぎますし、何やら不穏な気配というか、その、お手伝いは、ちょっと、ご遠慮できたらなぁ、とか」
蕭何が少しムッとして、話しかけてくる。
「どうやら我等を山賊か何かと勘違いしているようだが、それは大きな誤解だ」
「そういわれましても、確かに貴方は賊には見えませんが……」
俺は辺りを見回す。
それに釣られて蕭何も見回す。
ボサボサの髪を乱暴に結い、棍棒の様な物を持つ男、着物がボロボロで下着が丸見えな男、欠けた黄色い歯でニヤニヤこちらを見る男。
「た、確かに賊にしか見えんが、違うのだ。そう、賊ではなく反乱軍、いや自治軍というか、その」
すいません、ちょっと何いってるかわからないんですけど。
蕭何はしどろもどろだ。
「カカッ、蕭何よ、そんなんじゃ警戒されるだけだ。腹を割って全部話したほうが早いぜ」
その時、周りの男達の中から声があがる。
「旦那、曹参殿が帰って来た」
男が麓の方を指差し、皆が注目する中、服がはち切れんばかりな筋骨隆々な男が登ってきた。
男は雨を払いながら、
「いかんな、やはり固く門を閉ざしている。県令め、完全に気付いたようだ。ん、誰だ?」
「おう曹参、この兄さん方が沛の門を開けてくれるってよ」
おい、何でもう協力することになってんだ。勝手に話を進めんなよ。
「ほう、で、どこのどなたかな?」
曹参と呼ばれた屈強な男が尋ねてくる。
ううむ、これ素直に名乗っていいのか?
俺が迷って口ごもっていると、おっさんが、
「大方どっかの豪族の使いだろう。南の反乱軍へ渡りを付けにきたんだろうよ。これから反乱を起こすか、もう起こしたか」
うっ、バレてる。
おっさんはカカッと笑い、
「こんな時にこの辺を旅するなんざ、理由は一つしかないわな」
確かに反乱が起きて危険な地域にわざわざ赴くのは、反乱軍に用があることは明白か。
「まぁ、つまりは同じ穴の狢ってわけだ。よし、じゃあ事の起こりから説明するから聞いてくれ。んで協力してくれ」
判断してくれじゃないのかよ。やっぱり協力前提じゃねーか。
話し始めようとしたおっさんは、不意に何かに気が付いたように膝を叩く。
「おお、そうだ。まだ名乗ってなかったな」
あー、もうわかってるからいいけどね。
心の準備もできました。はい、どうぞ。
「俺の名は劉邦だ」
ですよね。
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