表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/169

プロローグ

呼び名についてですが、(あざな)が分からなかったり、項羽など字の方が有名だったりなので、分かりやすい名で呼ばせています。

(いみな)、字が混在して違和感があるかもしれませんが申し訳ありません。

 荒野に鉄のように重く冷たい風が吹いている。

 草木は色を失い始め、季節は冬を迎えようとしていた。




「もう少し進めば咸陽(かんよう)だ」


 隣の男は、馬車の上でそう言いながら少し寒そうに肩を竦めた。

 大柄な体に似合わない仕草も何故か様になる。


 年の頃は二十代後半というところか。

 角張った輪郭に、固そうな髭、意思の強そうな太い眉、真っ直ぐ高い鼻、人をも飲み込みそうな大きな口。

 その姿は大岩を思わせる。


 しかし切れ長だが柔らかそうな黒い瞳は見る者を惹き付け、安心感を与えてくれる。


「やっとですか……。早く宿で寝たい……」


 俺は疲労困憊のこともあり、たどたどしく答える。


「もう少しの辛抱だ。それより馬の扱いが随分上手くなったんじゃないか?」


 巨駆の男はニンマリと微笑む。

 その笑顔は太陽のように暖かい。男の俺から見ても魅力的な笑顔だ。


「…そりゃ狄県を出てからずっと車上ですから少しは上達しますよ。もう尻が限界だ」


 俺は照れくさくて、憎まれ口を叩く。


「はは、尻の皮も咸陽が待ちどおしいか」


 この魅力溢れる男の名は田横(でんおう)

 十年程前に滅んだ斉という国の王の一族であった。






 そして俺は二千二百年程、未来の日本からきた一般人である。

 いや、であった。




 ーーーーーー



 二月程前、俺は買い物帰りにタイムスリップして、さまよっていたところを山賊に襲われた。

 それを田横に助けられた。


「それはなんだ、大事なものなのか?」

 その時俺が手に握りしめていたのは、判子だった。

 タイムスリップする直前に買った物だ。


 これは俺の名前で、それはそうと行くあてがないと説明すると、


「ふむ、そうか。ならば一先ず我が家へ来い。なに、客が一人増えたところで困りはせん。俺は(てき)の田横。一族を見捨てるようなことはせんさ」



「では、行こうか田中(でんちゅう)




 俺の名は田中(たなか)




 ご先祖様、田中でありがとう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ