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38話

ブックマークが5000件を越えました。本当にありがとうございます。

人物紹介と用語説明集を編集しております。わからない用語があればご覧下さい。

「あと四半刻程で蒙恬達がここを通る」


 俺達は道から少し離れた林の中で、彭越が放った斥候の報告を聞いた。


「いいか、皆殺しにする必要はない、逃げる奴は追うな。青二才は真っ直ぐ蒙恬へ向かえ」


「わかった」


「わ、私は……」


 俺にとって初めての戦闘だ。

 タイムスリップ直後に襲われたが、あの時は殺し合いというより恐喝だったし、田横が誰も殺さず瞬く間に打ちのめした。


 本当の殺し合いはこれが初めてになる。



 足に力が入らない。震える。

 喉はカラカラで、上手く唾も飲み込めない。


 彭越はその様子を見て苦笑いを浮かべ、


「絶望殿は後方待機だ。その様子では、足手まといにしかならん。戦闘が始まったら全体が観える所でそいつらと観ていろ」


 そういって顎をしゃくって五人程の男を指す。この人達も後方待機か。


「後方待機といっても仕事はあるぞ。援軍がきたら報せたり、負けたら仲間に伝えに走ったり。大事な仕事だ」


 なるほど、伝令係ね。


 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 はっきりいって殺す覚悟も、殺される覚悟も出来ない。


 しかし、殺し合いを間近で見る覚悟はしなければ。

 それだけでも胃から何かが込み上げてくる。だって現代日本人だもの。


「絶望殿は童貞か?青二才と同じでいいところの出か」


 ど、童貞ちゃうわっ。

 ってあれね、殺しの方ね。それに関しては一生童貞でいたい。魔法使いになりたい。


 てか彭越、俺の名前は絶望殿で固定なの?田横も青二才のままだし。変な渾名付けて喜ぶタイプ?性格悪りぃなぁ。


「そろそろ来るぞ、顔を隠せ。手筈通り行くぞ」


 俺が何か言い返そうとした時、彭越は言葉を遮り、布で顔を覆い身を低くした。


 うぅ、いよいよか。後方待機とはいえ緊張が……。手汗が凄い。

 俺は腹の辺りで濡れた手を拭い、彭越を真似て貸してもらった布で顔を隠しその時を待つ。


「来たぞ。まだだ、まだ行くなよ」


 林の隙間から集団が見えた。彭越は逸る手下を抑える。

 護送隊は俺達に気付いていない。ゆっくりと進んでいる。

 ここからは蒙恬がどこにいるのか、見えない。


 そして集団の全容が見え、先頭が間近に迫った時、彭越が吠えた。


「今だ!行くぞ!」


 三百人が一斉に駆け出した。俺ももつれる足で後に続く。


 護送隊は駆け寄ってくる俺達に気付き、歩みが止まった。

 兵が声を上げ武器を構える。馬車に乗った文官らしき者は、わめきながら後方へ下がっていく。



 彭越は走りながら手下を左右に拡げ、護送隊にぶつかった。

 怒号、金属音、悲鳴。

 土埃が舞う。


 兵数の違いからか、官兵達は最初から逃げ腰だ。

 中には前に出てくる兵もいるが複数を相手に囲まれ、抵抗むなしく倒れていく。

 それを見て他の官兵達はさらに引いていく。


 こちらの被害はほぼ無いようだ。


 田横は剣を煌めかせながら、中央を真っ直ぐ進んでいく。

 田横の通った後に道が出来る。そこへ彭越の手下達が続く。


「押し進め!」


 田横を中心にこちらの集団がどんどん前に進む。

 相手は受け切れず下がる一方だ。


 少し離れた後方から待機組が付いていく。俺も遅れぬよう震える足で進む。


 呻き声を上げている者、倒れてもう動かない者、むせかえる血の匂いの中、小走りに進む。



 ……これが戦い。殺し合い。


 俺は込み上げてくる物を抑えきれず、覆面から口を出し、地面に吐き出す。

 そしてこの場に置いていかれる恐怖に、すぐに口を拭い駆け出す。



 やがて護送隊の大半が逃げ、喧騒が止み、一人の男が両脇を抱えられて後方へ送られてきた。



 壮年から老年に差し掛かる位の歳で、白髪の多い髪は乱れ、髭は伸び放題。土埃と垢にまみれて肌は赤黒く汚れている。


 蒙恬だ。上手く救い出せたようだ。



 蒙恬は両腕を縛られているが、激しく抵抗し半ば引き摺られながらやってくる。


「離せ!わしはこんなところで賊の手にかかるわけにはいかん!真実を知らねばならんのだ!咸陽へ行かねばいかんのだ!」


 殺されると勘違いしているのか、喚き暴れている。


 やがて田横と彭越も戻って来た。


「元気な爺だ。とにかくここを離れるぞ。増援が来るかもしれん。爺はそのまま抱えて行け、抵抗されたら面倒だ」


 彭越が手下に指示を出し、蒙恬は複数人に抱え上げられ連れていかれる。


 田横は暴れる蒙恬に近寄り、声を掛けた。


「蒙恬様、弟君蒙毅様の客であった田横と申します。蒙毅様の最後をお伝えするため、お救いいたしました。ここは一先ずご同行を。後程お話いたします」


「なに!……わかった。連れていくがいい」


 蒙恬はピタリと抵抗を止め、大人しく抱えられていった。



 ……抵抗止めたなら、自分で歩けばいいんじゃ?

感想、評価、ブックマーク頂ければとても嬉しいです。

息抜きで短編を投稿してしまいました。

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