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28話

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「横殿……」


「どうした、随分参っているようだが」


 田横は俺の正面に立った。


「話してみろ。話す事で楽になる事もある」


 そう笑い掛けてきた。いつもの安心させる笑顔だ。

 その笑顔を見て、俺は少し落ち着きを取り戻せた。


「少し待ってください。頭を整理します」



 考えろ、それっぽく、嘘じゃなく。




 やがて俺は話し始めた。


「皇帝が巡遊に出ます」


「ああ、蒙毅様から聞いた」


「趙高が良からぬ事を考えています。皇子胡亥を連れていくのも趙高からの案でしょう」


「何?」


「太子扶蘇(ふそ)の廃嫡と胡亥の立太子です」


「なるほど、趙高は胡亥の元教育係だ」


「そして皇帝の死も近づいています。 これから準備を整え、一カ月後に出発して秣陵へ向かうとなると、着く頃は夏になっているでしょう。弱った身体に咸陽(かんよう)と異なる暑い気候や水に当てられれば、恐らく」


「ふむ、宮中の噂では最近の皇帝は『天子の気が』『天子は朕のみ』などと、うわ言のように呟いているらしい」


 田横も蒙毅と宮中に入り、情報収集に勤めている。


「自身でも死が迫っているのを感じているのかもしれません。最悪なのはその死を利用される事です。その場に居なければ全てが後手に回ります。趙高の台頭を許せば蒙毅様が危険です」


「ちょっと待て」


 田横は暫く考え込み、そして俺に向かって言った。


「中、お主が今言ったことは、確実に起こる事なのだな?」



「っ……」


 俺はため息を吐いた。



「…………はい」


 やっぱり駄目だわ、それっぽい事言ってもこの男には敵わん。


「わかった。蒙毅様に伝え、趙高から目を離さぬように進言しよう」




 ………なぜとは、


「聞かないのですか?」


「お主が何か知っているのは前からわかっていた事だ。その理由を言いたくない事もな。

 しかし今さら俺を騙して(おとし)めるような真似はしないだろう?

 大方俺達田家と、世話になっている蒙家の事で悩んでいたのだろう。お主は身内に酷く甘いからなぁ。俺と一緒でな」


 田横はそう言って悪戯そうに笑った。




 ………あー、くそっ。マジで駄目だ。

 この男、コイツ、マジで。

 参ったなぁ。



 本当に、いてくれて、よかった。




 俺は熱くなった目頭を押さえ、息を吐き、落ち着いて。

 もう、素直に言ってやろ。


「蒙毅様の説得は待ってください。ここからが俺の悩みです」


「聞こう」


 田横は俺を真っ直ぐ見据えた。


「蒙毅様が趙高の企てを阻止したとします。皇帝の崩御は避けられませんので、そうなると次期皇帝は未だ正式に廃嫡されていない扶蘇ということになります」


「うむ、そうだな」


「人格者で聡明であると噂の扶蘇が皇帝になると、恩赦を与え、仁政を敷き、この国の民は安寧を取り戻す事になるやもしれません」


「喜ばしいな」


「……そうなると、斉の復興の芽が無くなるかもしれません」


「うむ、まぁ、しょうがないな」


 田横は顎髭を擦りながら答える。


 え、軽。

 俺あんなに悩んでいたのに、当事者軽過ぎない?


 そして再び俺を見据え、


「中よ、この田横を見損なうなよ。

 俺は斉を再び興そうと言ったことはないぞ。苦しむ民のため、秦の圧政から解放する。その結果として斉という国が再び興こればいいとは思っているがな。

 民が仁徳によって治められ、幸せに暮らせるなら俺達はずっと狄の纏め役のままでいい。

 これは間違いなく従兄も兄上も同じ想いだ」


 そういえばそうか、秦を倒すって言ってたし、歴史的事実から俺はてっきり……。

 先走ってしまったな。フゥ、と長く息を吐く。


「そして狄の田氏の男として、ここまで世話になった蒙毅様を見捨てる様な事はできん」


 そうだよな。そういう男だよな、あなたは。


「大変失礼いたしました」


 俺は深く頭を下げ、謝った。


「では蒙毅様に進言しに行こう。それが民の平穏に繋がるのだろう?」


「はい、皇帝の崩御に関しては伏せましょう。不遜だと激怒されそうです」


「そうだな」


 俺達は部屋を後にし、蒙毅の元へ向かった。

用語説明


天子 (てんし)

 君主の称号。天命を受けて天下を治める者。


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