26話
蒙毅の始皇帝の呼び方を「皇帝」→「主上」に改変いたしました。
部屋へと案内された俺達は今後の事を話し合う。
この蒙家に住み込みになるのは護衛の田横、法を学ぶ口実の田広と俺田中、従者兼外との連絡役で田突、の四人とした。
「中、突を迎えに行ってくれ。残りの者は宿から情報を集めるように伝えてくれ」
「わかりました」
屋敷の長い廊下を歩いていると、また視線を感じる…。
はっ、まさか刺客か?そんな訳ない。
「あ、あの……」
後ろから声を掛けられ、ちょっと吃驚して振り返った。
振り返ったその先には、亜麻色の髪の天女、もとい先日商家で出会った美女がいた。
「あ、え、あの、あぁ、その節はどうも、大変失礼いたしました」
突然の事に混乱してしまう、何でここに?
「あの、いえ、わ、私、あの、誉めて頂いたのに、その逃げ出してしまって、私の方こそ失礼いたしました」
「いえ、私の方こそ突然変な事を口走ってしまい、」
「い、いえいえ私の方こそ……」
「いえいえ」「いえいえ」
埒があかん!
……謝罪し合っている間に冷静になってきた。
「私、田中と申します。本日よりこの蒙家の客として寄宿させていただくことになりました」
俺は自己紹介をして頭を下げる。
「あ、私は蒙毅の娘の蒙琳と申します」
そう言って彼女は頭を下げた。
やっぱり綺麗な髪だなぁ。じゃなかった、なんだって?蒙毅の娘?
高貴なところの娘さんとは思ったが、蒙毅の娘さんだったのか。なんたる偶然。そしてなんたる幸運。
「あ、あの、実は先日屋敷に来られた時にお見掛けして、家宰に尋ねたところ、我が家の客となられるとお聞きしましたので……」
あの時の視線も蒙琳さんだったのか。
改めて蒙琳さんを見る。染料がまだ手に入らないのか、未だ美しい琥珀のような髪に、白い肌。大人っぽい美人系なのにモジモジしているのが可愛い。ギャップ萌えっていうの?
「あの、私、田中様にお礼を申し上げたくて、」
「お礼ですか?」
伸びそうになる鼻の下を押さえながら聞く。
「はい、わ、私、あの様に髪の色を誉めて頂いたのは初めてで、あの時は急だったのでその、恥ずかしくて逃げてしまいましたが、私本当に嬉しくて」
そう言って彼女は俺に笑顔を向けた。
これか。これが花のような笑顔ってやつか。
腰が砕けそうだ。
「私は今まで、この髪色の事で後ろ指を指されたり、父上にも嫁ぎ先がなくご迷惑をかけているのでは、と思い悩んでおりました。
でも田中様のように、あんなにも情熱的に誉めて下さる人がいると分かり、……自然のまま、この髪色のままでもいいのかな、と思えるようになりました」
はにかむような笑顔だ。
はい砕けた。今俺の腰が砕けたよ。
髪を染めるの止めたのか、うんいいよ、その方が絶対いい。
「それはとても良かったです。本当にお似合いですから」
片方の手で鼻の下を押さえ、もう片方の手で腰を支えながら答える。変なポーズだ。
「あ、急がれていたのではないですか?」
「いえいえ、野暮用です」
田突、もうちょっと待ってて。
「お引き留めして申し訳ございません。またお話して下さいますか?」
蒙琳さんはそう言って、不安げに上目遣いでこちらを見る。
はい砕けた。今度は俺の膝が砕けたよ。
可愛い過ぎるだろう。身体中が粉々になるぞ。
「もちろんです。見掛けたら何時でも声を掛けて下さいね」
俺は震える膝に活を入れ、精一杯のイケメンスマイルをつくる。
「ありがとうございます。では楽しみにしております」
彼女は恥ずかしそうに、足早に去っていった。
はぁ、可憐だ。
あんな美人と一つ屋根の下で暮らすのか。
屋根が果てしなくデカイけど。
あ、田突、田突。
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