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23話

 いよいよ蒙家への訪問の日が来た。


 蒙毅程の上流の身分となると訪問者も多く、悪意や欺瞞を持って会おうとする者もいる。

 そこで秘書役である家宰が選定する。主人に面会させてもいい者を選び、日程を調整して主人に会わせる。

家宰は主人の絶大な信頼と、人を観る目を持っているということだ。


 つまり家宰に認められなければ、蒙毅に会うことすら出来ない。


 俺は新調した礼装を身に纏い、緊張しながら蒙家の門の前に立つ。


「そんなに肩に力を入れるな。得意の口が回らんぞ」


 田横が緊張をほぐすよう、こちらに笑い掛けた。


 蒙家を訪ねるのは田横、田栄の嫡子である田広、そして田横の補佐役、交渉役である俺、田中。


 いつの間にか完全に一族扱いだな。



 一つ肩で息をして、門をくぐる。


 門をくぐるとやや大きめのスペースがあり、今度は門と廊下が繋がった様な建物がある。

 その建物の先は中庭になっており、石畳が敷き詰められ、左右対象に並ぶ建物へと続いている。そして正面には広大な屋敷が見える。

 田儋の屋敷も大きかったが、その比ではない。

 大きな屋敷というより小さな宮殿だ。



 俺達は門の中で警護の者に止められ、そこにある一室で家宰を待たされる。あの広場を抜け屋敷に入れるのは、蒙毅に面会できる時だろう。


 待たされるかと思ったが、程なく家宰はやって来た。向こうも興味を持ってくれているのだろうか?


 白髪の混じる細身の男だ。


「お待たせしましたかな」


「いえ、臨淄(りんし)(てき)県の田儋が従弟、田横です。こちらは兄田栄の嫡子田広、そして一族の田中です」


 田横が紹介し、家宰が俺達に座るよう勧める。


「早速ですが斉王のご子孫である狄の田氏が、我が主と友宜を結びたいとのことですが」


 よし、ここからだな。


「発言宜しいでしょうか」


 俺の言葉に家宰が頷く。


「ありがとうございます。

 狄は遠く東北の地にあり、中央の威光が届きにくくあります。役人は怠惰であり自らが率先して守るべき法を軽んじ、不正を行い私腹を肥やしております」


「ふむ」


 家宰は地方役人の腐敗を知っているのだろう。さして驚きもせず眉をしかめただけだ。


「我ら田家は狄の纏め役でございます。卑俗な役人から民を守ろうと中央に訴えようにも、法を詳しく知らねば逆に訴え出た側が詐称で罪に問われる事になります」


「なるほど、そこでこの蒙家に」


「はい、全ては狄での正義のため、民の清浄な営みを守るため。

 御祖父が斉の御出身であり、不正を許さぬ清廉な法の大家である蒙毅様に学び、堕落腐敗を斬る法の剣を授けて頂きたいと、こうして蒙家の門を叩きました」


 田広、そんな吃驚した顔するなよ。付け焼き刃がバレるだろ。

 俺だってやる時はやるのよ。

 田横まで、こっち見んな。あなた俺を信じて交渉させたんじゃねーのかよ。


「よくわかりました。しかし我が主は私塾を開いている訳ではありません。法を議論するための客はおりますが学ぶだけとなると、我が家に益がありませんが」


 きた。


「ごもっともなお話です。もちろん手ぶらではございません。

 我らに法の剣を授けて頂けるのならば、田家の至高の盾をお貸しいたしましょう」


「盾ですと?」


 家宰は怪訝な表情でこちらを見る。



「はい、聞けば蒙毅様はその廉直さから、逆恨みで襲われる事があると。我が田家至高の盾ならば、それらを払い除くことができましょう」


「ほう、してその盾とは?」


 流石蒙家の家宰、気が付いたか。


「我が主、田横にございます。まずは論より証拠、試していただけますか」


 俺が警護の者へ視線を送ると、家宰は少し考えてから頷き、


「よろしいでしょう。確かに有能な護衛は必要としております。誰か相手をして差し上げてください」


 この場にいる警護は二人。彼等は少し戸惑い、互いに顔を見合わせている。


 田横は立ち上がり、二人へと近づく。そして、


「この至高の盾、そう簡単には割れぬ。二人同時にお相手しましょう」


 そう言い放ち、俺へと向き直りニヤリと笑った。

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