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21話

 その後、先程の店主の弟の店に行き、比較的綺麗な古着を三着買い、蒙家へ訪問するための礼装を注文した。

 この時代に既製服なんて物はなく、古着を買うか、若しくはオーダーメイドだ。流石に礼装は古着という訳にもいかないので作って貰うことにした。


 膝までの長い丈の着物と下にスカートの様に布を巻く『上衣下裳(じょういかしょう)』という服らしい。

 刺繍などは施さず、早く縫い上がる様に注文する。

 蒙家への訪問がいつになるかわからないので、急いでもらう。


「兄の紹介ですし、急がせましょう」



 貨幣価値がよくわからんが、もらった小遣いの大半が消えた。


 ~~~~~


 宿に戻り、田横に会いに行く。

 田横は庭に出ていて、どこから調達したのか木剣を振っていた。


 一振りする度に風を切る音が鳴る。

 素人目からしても速く、鋭く、ぶれない。

 あんなもの喰らったら木剣だろうと死ぬんじゃなかろうか。


 やがて田横は満足したのか素振りを止め、こちらへ近づいてきた。


「服は買えたか?」


「お陰様で」


「おう、そうか。なんだか元気がないな」


「いえ、少し疲れたので部屋で休みます」


 そう言って、俺はその場を後にする。背中から田広の潜んだ声が聞こえた。


「中殿は店で出会った女人に一目惚れして、何やら卑猥な事を口走り、相手の方に逃げられました」


 でーんこーう!


 合ってるけど!事実だけど!もっと、こう、言い方あるでしょうよ!

 あと卑猥な事って何よ、褒めてたじゃん!口説き文句じゃん!古代ローマ人も真っ青な口説き文句じゃん!


 俺は一度振り返り、こちらと目を合わせない田広を睨み付け、部屋に戻った。


 田横の大きな笑い声が部屋まで聞こえてきた。


 ~~~~~


 オレの失恋はさておき、蒙家へ使いに行った田突は昼下がりに戻って来た。


「五日後、蒙家の家宰殿がお会いくださります」


 結構待たされるな。上卿の家だけあって忙しいし、訪問者も多いのだろう。


「わかった。それまでゆっくり休んでくれ。突も狄を出てからろくに休んでいないからな」


 田横が田突を労う。


「ありがとうございます。では、私は休みがてら酒家で噂を集めようと思います」


 真面目な男だねぇ。あ、そうだ。


「突殿、時間がある時でよろしいので、馬の事で少し相談に乗ってください」


 鐙の件で助言が欲しい。


「わかりました」


「それから中、お主はこれを」


 田横がいい笑顔で木剣を渡してくる。まさか……。


「稽古だ」


「あ、いえ、私は大丈…」

「この五日間鍛えてやろう。強くなれとは言わん。数合でも打ち合えれば、逃げる隙が生まれる時もある」


 俺の言葉を遮る。有無を言わさずやるつもりだ。


「では広殿も一緒に!一緒にやりましょう!彼にも必要な事でしょう?呼んでまいります!」


 せめて道連れを……俺の痴態を暴露したあの美小僧を道連れにしてやる。


「ふむ、まぁそうか。呼んできてくれ」


 田横の言葉を受け、駆け足に田広の部屋に向かう。


「え、叔父上と剣の稽古ですか?すぐ行きます!」


 喜ぶのかよ!素直で真っ直ぐな子だという事を忘れてた。

 最近ちょっと黒いのは、ずっと俺と旅をしていた影響かな?


 ヤバイな、田栄に怒られるかな。


 散歩に連れていって貰える犬の様に飛び出して行った田広の後を歩きながら、苦笑いが漏れる。


「中!早く来い!始めるぞ」


 へーい……。


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